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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百七十章 ハインツのプロポーズ その2

テレビをみていたら、韓国の生鮮市場に蚕のサナギが山のように積まれてる様子が映っていた。

好みは別れるらしいが、お酒のつまみとして売れるらしい。

韓国…恐るべし><;

四百七十章 ハインツのプロポーズ その2


 その日の夜、ビッキーが新しいメニューを開発したというので、セドリックやグレイス、グレイスによって連れ戻されたオリヴィア、その養い子たちや下宿しているフリードランド夫妻、そしてキャシィとハインツ…みんなが厨房と倉庫のテーブルに着いていた。

 ビッキーは微塵切りにしたニンジン、タマネギ、それからウシガエルの細切れ肉をフライパンで炒めて、そこにさらにご飯を入れた。

 ただならぬ匂いがすでにキャシィズカフェの一階を漂っていて、子供たちはベッキーがどんな奇跡を起こすのだろうと料理が出来上がるのを今か今かと待っていた。

 塩少々とトマトベースのソースを加えてフライパンを何度もしゃくりながらしばらく炒めると、ベッキーは隣の釜戸のフライパンに卵二個を落とし、クチュクチュにしてオムレツを作ると、そこにお玉で隣の赤いライスをポンと放り込んだ。そして、フライパンを持った左手首を右手でトントンと叩いて、器用にクチュクチュのオムライスで赤いライスを包んでいった。最後にトマトベースのソースをちょこっと上に垂らすと…オムライスの完成だ。

 人数分のオムライスができ上がって、子供たちの前にオムライスが並んだ。子供たちはみんな、バターの塊のような黄色い不思議な物体を見て…恐る恐る、ドキドキしながらスプーンを入れた。

「うわあぁっ、これ卵かぁ…中身はご飯だあぁ〜〜っ!」

 何っ、これの正体は卵とご飯かっ⁉︎…子供たちは一斉にパクついた。

「ふごっ…ふぐっ…美味いっ!」

「これ、美味しいねぇ〜〜っ!」

「ぐほ…ぐふぉお…ええっ…!」

 四歳のジョフリーは慌てて食べたせいで喉にオムライスを詰まらせてしまい、隣のグレイスがジョフリーの背中をポンポンと叩いた。

 フリードランド夫妻はひとさじ口に運ぶと…

「おお…これは良いじゃないか。いくらでも食べられそうだ。」

「まぁ、美味しい…見た目も美しいし、卵とこのトマト味のご飯のバランスが絶妙だねぇ。」

 オリヴィアはオムライスの約三分の一をスプーンで一気に掬って口に放り込むと…

「うみゃいっ…これはうみゃいっ!ケチケチしないでさ、ウシガエルの代わりに鶏肉を使ったらもっと美味しくなるんじゃない⁉︎…おかわり用意しといてっ‼︎」

 ビッキーはみんなの笑顔を見て、我が意を得たりとニタニタして鶏がらスープを準備していた。

 だが、オムライスを堪能して賑わう中、キャシィとハインツは二人だけもの静かに食事をしていた。

 不思議に思ったグレイスはキャシィに尋ねた。

「おや、キャシィ…一体、どうしたんだい?」

「んん…?ああ…美味しいね、これ。」

「なんか変だねぇ…いつもだったら、『ビッキー天才っ!よし、メニューに追加決定っ‼︎』とか言って大騒ぎするのにさ…。」

「うん、メニューに追加でOKだよ。」

「やっぱり、おかしいねぇ…。」

 ハインツもオムライスを黙々と食べていた。


 キャシィはその日の仕事を終わらせて、グレイスとジョフリーと同じ部屋の隣の寝台に横になった。蝋燭を消して真っ暗になった部屋でキャシィの思考は頭の中を目まぐるしく疾走していた。理由は…もちろんハインツのプロポーズへの返答だ。

(ハインツさんはイケメンなのは確かだわ。立たせているだけで、休憩中の駐屯地のイェルメイドがアリのように群がってくる。サムさんほどじゃないけど背も高いし…。)

 ハインツ=ユーレンベルグ。言わずと知れたアーネスト=ユーレンベルグ男爵の次男である。長男のリヒャルドがすでに子爵位を賜っているので、ハインツは父親の没後、男爵位を受け継ぐことになっている。

(ん…もしかして、ハインツさんと結婚すると、私もお貴族様になっちゃう⁉︎)

 そうは思ったが、イェルメイドとして成長したキャシィには貴族になるということがピンと来ていなかった。

(でも、お父さんのユーレンベルグさんはワインで大成功した大富豪だわ。ハインツさんもコッペリ村に来る前はラクスマン王国のワインを担当していたらしいから、それなりに個人の財産を持ってるはず…これは魅力だわね。今の手持ちの財産だって、私が何度かワインの上がりを渡してるから…多分、金貨100枚ぐらいは持ってるわね。私とハインツさんの懐が一緒になるのは…これは大アリだな。)

 しかし、キャシィはいまだ少女で…大人の「男性」というものに興味はありつつも、少なからずの恐れもあった。

 男女の間の知識…睦み事の知識は人一倍持っている。けれど、いざそれを自分が致すとなると…

(…ハインツさんの「アレ」が私の中に入ってくる⁉︎…キャッ…)

 キャシィは掛け布団を頭から引っ被ったが、蒸し暑くて…すぐに掛け布団を寝台から蹴り落とした。


 朝六時頃、キャシィは寝不足の頭で朝の仕込みの手伝いをしていた。深夜のデリバリーが持ち帰った食器や大鍋を洗い、トマトを剥き、ニンジンやタマネギを刻んだ。

 そうしているうちにハインツが三階から降りてきた。ハインツが降りて来るのはパンが焼き上がった七時頃だ。ハインツは焼き立てのパンをひとつ手に取るとそれを食べていた。

 それを見たキャシィはハインツから距離を取るためにお店を開けて組み立て式のテーブルの準備を始めた。すると、老夫婦がやって来たのでその相手をした。

 キャシィは自分の粉屋の店番もしなくてはいけないので、五軒隣の粉屋の方に移動した。次にキャシィズカフェを訪れるのは午後一時頃だ。その時にハインツと粉屋の店番を交代する。

 午前十一時を過ぎるとイェルマ橋の駐屯地からイェルメイドたちがやって来て、午前十一時から午後一時ぐらいまでキャシィズカフェは賑わう。

 午後一時になったので、キャシィはハインツと粉屋の店番を交代するためキャシィズカフェに向かった。キャシィはまだ迷っていた。

(どうしよっかなぁ…ハインツさんと顔を合わせると間がもたないなぁ…)

 しかし、キャシィは…見た。キャシィズカフェの外でハインツが五人のイェルメイドたちにピッタリと体が触れるほどに囲まれていて、だらしなくニヤけているのを…。

「ハインツさんって…奥さんはいらっしゃるの?」

「好きな女性のタイプは?ロングで栗色の髪は好みかしら?」

「ねぇ、ハインツ。お休みの日は何してるのぉ〜〜?非番の日を合わせるからさぁ…ちょっと付き合ってよぉ〜〜。」

 キャシィの胸の奥底から何かが込み上げてきた。それが怒りなのか、ねたみなのか、切なさなのか…当のキャシィ自身にもよく分からなかった。とにかく…「ハインツを他の女に盗られたくない!」という衝動が突き上げてきて、キャシィの足を加速させた…キャシィが「女」になった瞬間だった。

 キャシィは「箭疾歩」を発動させ、ハインツに迫ると「鷹爪」を構えてハインツに群がる女たちを威嚇した。イェルメイドたちはスキルの発動を感じ取って驚いていた。

 キャシィは女たちに向かって吠えた。

「こ…こらあぁ〜〜っ!ハインツ…さんに触るなあぁ〜〜…!」

「んん、キャシィ…どうしたの、何を怒ってるの?」

「ハインツさんは…私のモノよっ…‼︎」

「えっ…何で?」

「わ…私はハインツさんの…婚約者だあぁ〜〜っ‼︎」

「ええぇ〜〜…婚約者ぁ〜〜っ⁉︎」

 キャシィはハッとして我に返り…後ろをチラリと振り返った。そこには真顔のハインツがいた。

「キャシィ、それって…OKってことだよねっ⁉︎」

「えっ…う、ううぅ〜〜ん…そうなる…のかな?」

 それを聞いたハインツは両手でキャシィを抱き寄せた。背の高いハインツが小柄なキャシィを抱き寄せたので、キャシィは見事に宙に浮いた。

「ハ…ハインツさん、ちょっと…みんなが見てるから…!」

「構わないさっ!」

 ハインツを取り巻いていたイェルメイドたちは目の前でトンビに油揚を持って行かれて…項垂うなだれる者、地団駄を踏む者、目を剥いて毒を吐く者など、恋の敗者たちはぶつぶつ言いながら駐屯地に戻って行った。

 ハインツの腕の中でそれを見ていたキャシィはまんざらでもなく、しばらくはハインツに抱っこされたままだった。だが、イェルメイドたちが去ってハインツと目が合うと…真っ赤になった。

「あ…ハインツさん、もういいです…!は…恥ずかしいから降ろしてくださいっ‼︎」

 地面に降りたキャシィはハインツの顔を見ないままそそくさとキャシィズカフェへと逃げ込んだ。

「キャシィ…?」

「えっと…また後でね。早く…粉屋に行って行って…!」

 …それでもキャシィが振り向きざまにニコッと照れ笑いしたので、ハインツは手応えを感じて素直に粉屋に向かって歩いて行った。

 キャシィズカフェに入ると、駆け込みカルテットのローラがキャシィに言った。

「キャシィさん、ハインツさんとご婚約されたんですね。おめでとうございます。」

 そう言われて、キャシィは改めてギクリとした。

「えっ…あ、そ…そうだっけ?…そ、そうね。あ…ありがと…」

 キャシィがローラから逃げていくと…今度はグレイスに捕まった。

「キャシィ、ハインツさんと婚約したんだってぇ?貴族をモノにするなんて…あんた、なかなかしたたかだねぇ。でも、貴族だから…お金持ちだからって言うんならちょっと考え直した方がいいよ…貴族はうちら平民とは住む世界が違うから…。」

 グレイスならではの経験則だ。

「う、うぅ〜〜ん…そうなのかなぁ…?まだ…『婚約』だから…。」

 キャシィは自分に言い聞かせた、「そうだ、まだ婚約中なのだ」と…。


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