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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四十七章 城門突破

四十七章 城門突破


 ヴォレッタは持てる限りのパンを抱えてシーグアの居宅を出ると、路地裏を小走りで移動した。

(考えるの…考えるのよ!相手はヤモリ…どうすれば見つからない?どこに行けばヤモリはいない??…ヤモリは夜行性、夜は無闇に動かない方がいいのかしら?)

 ヴィオレッタは路地の隅っこに放置されている大きな樽を見つけた。そして、それをひっくり返して頭から被り中に隠れた。強烈なりんごの匂いがした。

(果物屋の樽か…。)

 とりあえずこれでいい。このままお昼近くまで隠れていようと思った。お昼になれば、ヤモリの動きは鈍るはずだ。

 当たり前であるが、樽の中は真っ暗だ。それで「ライト」の魔法を使って、自分の左手の人差し指に明かりを灯した。樽の中が明るくなった。おお、精霊魔法って何て便利なんだろう!

 ヴィオレッタは少しでも身軽になるため、抱えていたパンをしゃにむに口に詰め込み、「ウォーター」で胃に流し込んだ。お腹がいっぱいになり…一息ついた。

 これからのことを考えてみた。お昼になったら雑貨屋を探そう。そして旅支度をしよう…必要な物は、大きなかばん、地図、着替え、ナイフもあったら便利ね…お金は筆写士事務所に支払った残りがある。宿代を払って、アンネリにも逃亡資金をあげて、金貨1枚と銀貨がちょっとか…なんとかなるだろう。とにかくこの町を出よう。ここには至る所にヤモリがいる。でも、町を出てどこに行く?そうだ、ステメント村に行こう、行ってみんなと合流しよう!ヤモリはステメント村の宿屋にもいるに違いない。早く行ってみんなに知らせないと!シーグアさんはヤモリを全滅させるって言ってたけど…念のために!

 ヴィオレッタが思索を巡らしながら人差し指の明かりをぼーっと見ていると、シーグアの目蜘蛛がその明かりに寄ってきた。あ…このコを忘れてた。

 蜘蛛だから勝手に小さな虫を捕まえて食べるだろうから、餌を用意する必要はないわね。シーグアさんは陰から見守ると言ってたけど…見てるだけなのかしら⁉︎…とも思った。

 目蜘蛛はテントウムシぐらいの大きさで、ライトグリーンの体をしていた。目を凝らして見てみると…やっぱり…可愛くない。でも、前足二本を高く上げてしきりに動かしている。何かをアピールしている?何か欲しいのかしら?全然わからない。小さな声でちょっと語りかけてみた。

「お〜〜い、目蜘蛛…。あんた毒なんか持ってないわよね、間違っても私を噛んじゃダメよ?私はあなたのご主人様のお友達なのよ、私を噛んだら後でご主人様から大目玉よ。お〜〜い目蜘蛛、私の言葉分かるぅ〜〜…?」

 さらに続けた。

「んん…なんか目蜘蛛って語呂が悪いわね、それにちょっと嫌な響きだわ…そうだ!『めぐも』じゃなくて…『めぐみ』にしましょう。うん、こっちの方が断然良いわ!今日からあなたはめぐみ…メグミちゃんよ!」

 ヴィオレッタから新しい名前をもらったメグミちゃんは、ダンスでもするかのように両前足を上げて互い違いにくるくる回すのだった。

 シーグアさんはメグミちゃんを眷属だと言った。「眷属」って確か、自分と同じ種族でなおかつ手下…じゃなかったっけ?それとも、同系列の支流?傍系?劣化版?よく分からないわ…シーグアさんが産んだ赤ちゃんかしら、どこかにオス…じゃなくてお父さんがいるのかしら?でも世界にあと二匹って言ってたし、そんな感じじゃなかったわね。単為生殖かな…?成長すると「アラクネ」になっちゃうのかしら?

 あれこれと考えているうちに、ヴィオレッタはいつの間にか樽の中で寝てしまった。


 突然、辺りがぱっと明るくなった。

「ありゃりゃ、樽の中に変なお嬢がいるぞ。お前、誰だ⁉︎」

 そう言ったのは果物屋の主人だった。朝の七時頃で、果物屋が仕入れから帰ってきたのだ。仕入れたりんごを小分けにするため樽をひっくり返し、ヴィオレッタを見つけたのだった。

 ヴィオレッタは急に声をかけられ、夢見心地を叩き起こされたのでびっくりして一目散に逃げ出した。

(びっくりしたぁ〜〜!もう朝なのね…とにかく、必要な物を揃えなくちゃっ!)

 ヴィオレッタは少し大きな路地の雑貨屋らしき店に飛び込んだ。

「いらっしゃい…」

 店主の挨拶も聞かずに目に止まった大きな肩掛けかばんをすぐさま肩に掛けた。

「これください!それと…」

 ヴィオレッタはまず、抱えていたパンをかばんに詰め、店の棚の上の必要そうな物をどんどんかばんに放り込んでいった。そして最後に…

「地図ありますか?」

「どこの地図が欲しいんだい?」

「えーっと…ステメント村が分かれば良いです。」

「じゃ、これかな?」

 ヴィオレッタは地図を引ったくるとかばんに押し込んだ。

「全部でおいくらですか⁉︎」

「ん…と、銀貨48枚だね。」

 ヴィオレッタは金貨1枚を渡してお釣りをもらい、店を飛び出した。

 店を飛び出して、はたと気がついた。

(んん…銀貨48枚⁉︎…私、なんか無駄遣いした?余計な物を買っちゃった??)

 ヴィオレッタはかばんの中を手探りしながら、南城門を目指して路地裏を走った。


 南城門は衛兵六人で守られていた。出る人、入る人、衛兵がかなり厳しく持ち物検査をしていた。

 建物の陰に隠れてそれを遠くから見ていたヴィオレッタは城門を通ることを諦めた…どこか日の当たらない場所にヤモリがいて、監視しているに違いない。なので、城門を通らずに…飛び越すことにした。

 ヴィオレッタは城壁に沿ってしばらく歩いてみた。さすがに城壁の近くには高い建物はなかった。建物伝いに壁を乗り越える…誰でも予想することだ。

 城壁から10m離れた場所に大きな木を見つけた。夏も盛りなので、青い葉を茂らせいっぱいに枝を広げている。その木の近くに農家の二階建ての母屋があった。これだ!

 ヴィオレッタは農家に近づくと、念じて風の精霊シルフィを呼んだ。

(まだまだ…もっと、もっと…纏うようにして常駐、常駐…と…。)

 無数のシルフィがヴィオレッタに集まってきた。ヴィオレッタはつむじ風を纏い、灰色の外套とワンピースの裾が風に煽られて上下左右になびいた。

 蜘蛛のメグミちゃんがヴィオレッタの周りで舞い踊るシルフィに飛びつこうとして、肩の上でピョン、ピョンと跳ねていた。

(わ…メグミちゃん、シルフィが見えてるんだ⁉︎さすがはシーグアさんの眷属、ちっちゃいけど精霊とのチャンネルを持っているのね!)

 ヴィオレッタは少し踵が浮いたのを確認すると大きく跳躍した。

「メグミちゃん、落ちないようにしっかり捕まっててねっ!」

 ヴィオレッタは農家の母屋の屋根に駆け上ると、屋根のむなぎを三歩で走り切り、張り出した木の枝に飛んだ。

「シルフィィィ〜〜〜ッ!お願ああぁ〜〜〜いっ‼︎」

 ヴィオレッタは細い枝に軽く着地すると、勢いそのままにピョーン、ピョーンと木の枝の間を跳躍し、そして最後に細い枝から3m上の城壁のてっぺんに向かって大きく飛び上がった…右足が届いた。

 ヴィオレッタは城壁のシーフガード(忍び返し)の鉄槍の尖端に片足で立っていた。ほとんど体重のない今のヴィオレッタに鉄槍は突き刺さらない。「水渡り」は成功した。

 音もなく城門の外に着地したヴィオレッタはそそくさと近くの林の中に身を隠した。


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