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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百六十六章 ダフネの出産 その3

爆睡してしまいました…すみません><;

四百六十六章 ダフネの出産 その3


 五軒隣の粉屋に戻って来たハインツはダフネの陣痛のことをキャシィに伝えた。

「おおっ、それは大変ですねぇ。今日じゅうに産まれるかな…後で、何かお祝いを持っていきましょうかねぇ。」

 店先で、小さな麻袋を持って大麦やお米を見繕っているキャシィを見つめてハインツは思った。

(赤ちゃんかぁ…キャシィと夫婦になったら、僕たちの間にも赤ちゃんができるのかな…。)


 日が暮れて、陣痛の間隔は短くなりダフネの出産はヤマを迎えていた。ダフネは陣痛で喘ぎ苦しみ、サムは一生懸命ダフネの腰をさすっていた。

 グレイスが叫んだ。

「あっ…破水したっ!」

 オーレリィはすぐにサムを部屋から叩き出した。

「もうすぐ産まれる…こっから先は男は立ち入り禁止だよっ!」

 女性の出産シーンは新しい命が生まれ出ずる崇高な瞬間ではあるけれど…決して美しい光景ではない。

 部屋から出されたサムはしばらくは部屋の扉の向こうから聞こえるダフネの悲痛な声を聞いていた。だが、自分のなすべき事はないと悟ると、喉が渇いたので一階の雑貨屋の店先まで降りていった。一階の厨房では二基の釜戸に大鍋が掛けられていて、大量のお湯がブクブクと沸騰していた。

 店先のテーブルには店番をしているダンと一緒にワインでささやかな酒盛りをしているオリヴィアがいた。

(オリヴィアさん…帰ってなかったのか。)

 オリヴィアはワインを飲みながらダンに話していた。

「ねね、もし男の子が産まれたらさぁ…また養子にもらってよぉ〜〜。」

「うぅ〜〜ん…」

 サムを見たオリヴィアは大声で言った。

「あら、サム…あんたも部屋からおっぽり出されたの…⁉︎」

「破水?…だそうです…」

「えっ⁉︎もうすぐ産まれるじゃないっ!」

 オリヴィアはコップのワインを飲み干してすぐに二階に上がって行った。

 サムはダンに言った。

「ダンさん、心配しないでください。男の子が産まれたら僕が引き取ってちゃんと育てますよ。なんたって…僕とダフネの子供だから。」

「サム君、子育ては大変だよ…?まぁ、後でオーレリィとも相談しないといけないが…サム君が良ければ、ひと部屋開けてあげるからうちで下宿したらいい。そうすれば、サム君が仕事に行っている間は俺かオーレリィで子供の面倒を見てあげられるからな。」

「あ…ありがとうございます!」

 ダンは立ち上がってコップをひとつ持って来ると、ワインを注いでサムに渡した。サムはお酒は強くなかったが喉が渇いていたので、それを一気に飲んでダンに小さく会釈して再び二階へと駆け上がって行った。

 部屋の中はまさに修羅場だった。ダフネは梁から吊り下げられたロープに両手でしがみついて上体を起こし、痛みに耐えていた。

「あうううぅ…ううぅ〜〜ん、痛あぁ〜〜…ああああぁ〜〜っ‼︎」

「痛いけど…我慢して、もっとりきんでっ!」

 ダフネは力んでいるつもりだが、痛すぎて…意思と体が連動しない。

 アナはタイミングを見計ってはヒール…「神の癒し」をダフネに掛け、メイはと言うと…悲鳴を上げて鬼の形相をするダフネと血まみれの股間を目の当たりにして石のように体と思考が固まってしまって動くことができずにいた。

 オーレリィはダフネの汗を水で絞った手巾で拭い、グレイスは汚れたシーツを交換した。

 部屋の外では、扉を挟んで聞こえてくるダフネの悲鳴に呼応するかのようにオリヴィアが叫んでいた。

「ダフネェ〜〜ッ!頑張れえぇ、頑張れえぇ〜〜っ‼︎」

 すると扉が開いて、グレイスが顔を出してオリヴィアに言った。

「そろそろ産まれる…産湯の準備をしてちょうだいっ!」

 オリヴィアはハッとして、すぐに一階に降りていくと、大鍋から柄杓で熱湯をタライに移し水を足して一杯にすると、それを二階まで持って上がった。だが、あまりにも慌てていたものだから、そこらじゅうにお湯を撒き散らしてしまって、部屋の前に到着した時には自分はずぶ濡れ…タライのお湯は半分もなかった。それで、オリヴィアは再びタライを持って一階に降りて行ってお湯と水を足した。

「産湯持って来たわよぉ〜〜っ!もうちょっとよ…ダフネ、頑張れぇ〜〜っ、気張れぇ〜〜っ‼︎」

 オーレリィが言った。

「だいぶ下に降りてきてるわよっ…ダフネ、もうひと踏ん張りよっ!…もっと、体を起こせる?」

 ダフネは言われた通りに両腕に力を込めてロープを手繰り、寝台の上で中腰になってガニ股になった。オーレリィはダフネの体を支え、グレイスは両足に滴る羊水混じりの経血を必死で拭った。

 ダフネが言った。

「お…斧、『鬼殺し』を…持って来て…!」

「ええ…なんで、斧?」

 不思議に思いながらも、グレイスは部屋の隅に立て掛けてある大きな斧を両手で持ってダフネのところに運ぼうとした。

「うううぅ〜〜…重いっ!…持ち上がらない…!」

 オーレリィが代わりに行って、片手で持ち上げると「鬼殺し」をダフネに手渡した。オーレリィは戦士職なので「鬼殺し」の恩恵を受けることができる。

 ダフネは右手でロープにしがみつき、「鬼殺し」の斧部分を下にして左手で柄を持って体重を支えた。「鬼殺し」のパッシブスキルが発動して戦士職のダフネに「パワードスキン」が掛かり少し楽になった。

 ダフネは力んだ。

「ふんぬううぅ〜〜〜〜っ…‼︎」

「あっ…ダフネ、頭が見えてきたよ…もう少しだよ、もうひと息っ!」

「ふぬううぅ〜〜〜〜っ…」

 その瞬間、ダフネの股間からスルリと赤ん坊が落ちてきて…それをオーレリィが優しく受け止めた。そしてそれと同時に後産の経血や下り物がドロリと流れ出た。アナがサッと近づいてきて、臍の緒を木綿糸で縛るとその先をナイフでチョンと切った。


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