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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百六十三章 第二陣出発

四百六十三章 第二陣出発


 エステリック王国のイェルマ侵攻の第一陣が出発して三日後の朝の事である。

 ベンジャミンのパーティーはワグナー男爵のワゴン馬車を護衛して、隊列を組んでエステリック城下町をゆっくり進んでいた。

 ワグナー男爵が目的地の城下町の南城門に到着すると、男爵のワゴン馬車以外にも多くの貴族のワゴン馬車が停まっていて大勢の貴族とその関係者で南城門はごった返していた。

 少し離れた場所にワゴン馬車を停めて、ベンジャミンはワゴン馬車の警護に6名の仲間を残して自分はワグナー男爵に帯同して群衆の中に割り込んでいった。

 しばらく待つと、王城の方向から1000を超える軍馬と歩兵の列が南城門に向かって進軍してきた。イェルマ侵攻軍の第二陣だ。

 前後を兵士に護られた十数台もの大型ワゴン馬車や物資を積んだ荷馬車が軍列の中央にいて、貴族たちはその大型ワゴン馬車に向かって手を振っていた。

 第二陣の大型ワゴン馬車には、イェルマ侵攻の司令塔である幕僚たちが搭乗していた。ワゴン馬車の窓から顔を出した作戦参謀のカイル=ディラン侯爵とイェルマ侵攻軍総司令官のレンブラント将軍が手を振ってディラン派の貴族たちの声援に応えていた。

 ワグナー男爵も娘婿むすめむこのカイル=ディランの出征の見送りに来ていたのだ。ワグナー男爵は皆に負けじと一生懸命手を振った。


 朝早く起きたティモシーは荷車の準備を済ませると、アパートメントの一階の階段から大声で叫んだ。

「チネッテおばさん、出発するよぉ〜〜っ!」

「はいはい…待っておくれな、今行くよぉ〜〜。」

 ティモシーは荷車を引き、二人並んで城下町の裏道から大通りへと出た。

 チネッテは言った。

「困ったねぇ…城下町にはもう鉄クズは欠片も残ってないというのに、戦時厳戒態勢令のせいで城下町の外に出て鉄クズを集めることもできない…今日は町をくるりと回って、早めに切り上げようかねぇ。」

 ティモシーは言った。

「普段行かないところに行ってみようよ。」

「普段行かないところ?…そんな場所があったっけかねぇ?」

「当てがあるから、僕に着いて来て。」

 二人はしばらく大通りを南に向かって歩いた。街並みは次第に小綺麗になり、露店の数も増えていった。そしてさらに、大通りは舗装道路になりその両側には貴族相手の高級な店舗が軒を連ねていた。

 チネッテは気がついて、ティモシーに声を掛けた。

「ト…トム、あんた、どこに向かってるんだい?この辺りはダメだよ…私たちのような貧乏人が来るところじゃないよ…」

「大丈夫、心配ないって!」

 さらにしばらく歩くと…チネッテは叫んだ。

「ああぁ〜〜っ!…こっから先はダメダメ、ここは『貴族町』だよ…私らみたいなのが見窄みすぼらしい格好で門の前にでもいたら、その場で袋叩きに遭っちまうよっ‼︎」

「いいからいいから、僕に任せて!」

 ティモシーはどんどん進んでいって、貴族町から少し外れた場所のとある屋敷の門の前で止まった。チネッテは老体に鞭打って、ティモシーを捕まえるべく小走りで追いついてきた。

 すると、屋敷からワンピースとエプロン姿の女がひとり、こちらに向かってやって来た。

 チネッテは思った。

(うう、文句を言われるに違いない…。)

 女は門の内側から老婆に視線を送って、それから言った。

「あんたがチネッテさんかい?…トムが世話になっているそうだね、礼を言うよ。」

「…え?」

 ティモシーがちょっとはにかみながら言った。

「えとね…この人、僕の母さん。」

「何だってっ⁉︎」

 チネッテが気を落ち着かせてバンダナを深く被った女の顔をよくよく見ると、その女は浅黒の端正な顔つきで…確かに二人はよく似ていた。

「…ここってお貴族様のお屋敷だろ?あんたの母さん、よく雇ってもらえたわねぇ…」

「うん…コネとツテを辿って、何とか下働きで…。」

 エビータは屋敷の門を開けティモシーたちの荷車を中に招き入れた。

 チネッテは躊躇していたが、ティモシーは荷車を引いてどんどん屋敷の勝手口まで近づいていった。

 エビータが庭で戦闘訓練をしている仲間に向かって叫んだ。

「おい、お前たち。ちょっと、手伝ってくれ。」

 戦闘訓練をしていたカールとガスともうひとりが駆け足でエビータのもとにやって来て、何やら指示を受けていた。

 カールとガスは勝手口から屋敷の中に入っていき、もうひとりは屋敷の裏手に回っていった。

 チネッテはこれから何が起こるのだろうと気が気でなかったが、エビータとティモシーはチネッテに聞こえないような小声で話をしていた。

「…イェルマ侵攻軍の第二陣が出発した。数はおよそ1000だ。で、ベロニカの様子はどうなんだい?」

「うん、ベロニカさんは意識は取り戻したんだけど、まだ具合が悪そうで『念話』は無理っぽいよ…。酷い頭痛がするんだって。」

「そうか…魔法っていうのは集中力が肝心だからね…。でも、早くしないと、第一陣がイェルマに到着してしまう。ユーレンベルグ男爵の話を何か聞いているかい?レイモンドを連れてイェルマに向かったはずなんだが…」

「それは分からないなぁ…」

「…そうか。」

 二人が内緒で情報交換をしていると、エビータの仲間が屋敷の裏から新品の荷車を引いてきたのでチネッテは驚いていた。

「こ…これは?」

 エビータは言った。

「荷車が壊れてるってトムから聞いてたからね…トムが世話になってるお礼だよ。」

「そ、そんな…」

 すると、屋敷の中からカールとガスが何やら重たそうな物を二人がかりで運んできて、それを新品の荷車に乗せた。それは50kgはありそうな据え付け式の鉄製の釜戸だった。

「最近、新しい釜戸を新調したからね…これは鉄クズだ、持っていって。あ、もう一基あるからね。」

 娘のシャーロットがディラン家に嫁いで以降、ワグナー家は金回りが良くなったようだ。

 ティモシーが言った。

「じゃ、母さん。また来るね。」

「またおいで。」

 ティモシーとチネッテは鉄製の釜戸二基が載った新品の荷車を引いてワグナーの屋敷を出た。重そうに荷車を引いているティモシーにチネッテは言った。

「甘えちゃってもいいのかねぇ…。新品の荷車を貰った上に、鉄の釜戸が二基…鍛冶屋に売ったら、それだけでも銅貨300枚…。」

「貴族はお金持ちだから、これぐらいいいって!」

「…そうかい?後でお母さんにお礼を言っといておくれね…。」

 二人は貴族町を出て、大通りを後戻りして行った。すると…

「トム、トムったら…鍛冶屋はそっちじゃないよ!」

「ん?鍛冶屋には行かないよ。」

「え…なんで⁉︎」

「この釜戸は汚れてるけどまだ使える。これは古道具屋に売るんだよ。」

「…何とっ‼︎」

 ティモシーたちは二基の釜戸を古道具屋に売って銀貨40枚を得た。

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