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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百五十九章 厳戒態勢

四百五十九章 厳戒態勢


 三十分後、ワイン工場にクレリックと薬師が駆けつけて来た。

 クレリックはすぐにベロニカを触診し、その結果をユーレンベルグ男爵に伝えた。

「急性アルコール中毒ですね…。」

 ユーレンベルグ男爵は信じられないという顔で怒鳴った。

「そんなバカな…こいつはウワバミみたいな奴で酒には滅法強い!急性アルコール中毒などなる訳がないっ‼︎」

「…栄養失調が見受けられます。肝臓も弱ってます。」

「…何⁉︎」

 すると使用人が言った。

「この一週間、ベロニカ様はろくに食事もされず…毎日、ワインばかりをお召し上がりに…」

「むむむ…そうだったのか。とにかくだ…神官殿、早く治してくれ…!」

 神官はベロニカにヒール…「神の癒し」をかけた。そして、隣の薬師に薬の処方を求めた。

「薬師の薬を飲んで、しばらく安静にしていてください。さすれば、この婦人は快癒に向かいましょう。」

「…ちょっと待て、それだけか⁉︎確か…クレリックには病気や怪我をたちどころに治す『神の回帰の息吹き』とか『神の処方箋』とか『神の清浄なる左手』とか言う強力な治癒魔法があるはずだ。それをやってくれっ!」

 男爵はティアーク城下町にいた頃、冒険者ギルドのホーキンズから提出された冒険者たちの報告書をつぶさに目を通しており、その中でもアナの活躍にも注目していていた。アナというクレリックがその神聖魔法で冒険者たちの外傷を一瞬で治し、ヒラリーの脱落した左腕を接合し、失神した仲間を即座に戦線に復帰させている事に酷く驚嘆し感銘を受けていた。

 ベロニカの治療にあたっているクレリックはあからさまに嫌な顔をした。

「そ…それは…上級の治療魔法で…私のようなヒラの神官には無理でございます…。」

「そんな…アナは中級資格のクレリックだったはずだっ!」

「いえ…その神聖魔法は…司祭長以上が扱う領分でして…」

「じゃ、司祭長を呼んで来いっ‼︎」

「…司祭長は現在、多忙でして…」

「じゃ、教皇でも法王でも…誰でもいいっ!上級の魔法が使える者を呼べっ‼︎」

 神官は曖昧な返事をするばかりで埒があかなかった。

 使用人がユーレンベルグ男爵の肩に手を添えて…首を横に振っていた。なるほど…こういう事か…。

「もう良い…薬を置いて出ていけっ‼︎」

 神官と薬師は使用人から金子きんすを受け取ると、そそくさとワイン工場から出ていった。

 エビータが言った。

「…どうしますか?」

 男爵は答えた。

「…『鳩屋』を使うしかないか。伝書鳩だと、向こうに到着するまでに一両日かかってしまうが…仕方がない。」

 ベロニカを寝室に寝かせ、ユーレンベルグ男爵はすぐにエステリック城下町の「鳩屋」を訪ねるためワイン工場を出た。だが…一時間も経たないうちに男爵は戻ってきた。

 結果を知りたかったエビータはワイン工場で待機しており、ユーレンベルグ男爵を出迎えた。

「男爵、首尾は…?」

「まずい…これはまずいぞ…!」

「どうしたんだ…⁉︎」

「…『鳩屋』が営業を停止していた。エステリックの騎士兵がやってきて…しばらくの間、鳩を飛ばさないように厳命されたそうだ…!」

「…情報封鎖…ですね。」

「…エステリック軍は想像以上に早く動いているようだ。私は…すぐにイェルマに行く。行って、この危機を知らせねばならない…エステリック軍よりも先にイェルマに到着せねば…!」

「男爵、私が行きましょう!」

「いや…エビータとティモシーは現状維持だ。せっかくディラン派のワグナー男爵の懐に潜り込んでいるのだ…このままワグナー邸で情報収集をして、何かあったらベロニカを使って『念話』でイェルマに知らせて欲しい。ティモシーにもさらなる情報収集に励むように言って…エステリック王国の動向に注意してくれ。」

「…分かった。」

 エビータはしばし考えて、それから言った。

「そう言えば…これは大した情報ではないかもしれないが、ワグナー男爵はチェンバレン伯爵に食指を伸ばしている。…チェンバレン伯爵をディラン派に加えたいようだ…。」

「チェンバレン殿は中立でディラン派にも反ディラン派にも属さないと明言していたがなぁ…いや待て、これは…。うむ、うまくすれば…!」

 チェンバレン伯爵に形だけでもディラン派に加わってもらえれば、ディラン派の動向、内情が明らかになるのではないか?…ユーレンベルグ男爵はそう思った。

「今から私はチェンバレン殿と会って、ディラン派に参加するようお願いしてみる。そして、その足で一度ティアーク城下町に寄って、それからすぐにイェルマに出発する。」

「ティアークの冒険者ギルドに立ち寄ってくれ、レイモンドがいる。護衛として連れて行ってくれ、腕は確かだ…冒険者の護衛を何人もゾロゾロと連れて行くよりはマシだろう。」

「…分かった。」

 ユーレンベルグ男爵は慌ただしくワイン工場を後にした。

 この次の日…エステリック国王、ハワード=エステリックはエステリック王国全土に「戦時厳戒態勢令」を発令した。これによって、他国との貿易と平民の移動が制限される。


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