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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百五十章 セイラムの変質

四百五十章 セイラムの変質


 ヴィオレッタはエヴェレットと一緒にエルフの村に滞在していて、午前中は神代語の勉強をし、お昼には老エルフたちとお茶をし、午後は北の五段目まで降りてイェルマの女王ボタンと「軍事同盟」について最終的な詰めの話し合いをしていた。

 今のところ…リーン族長区連邦と城塞都市イェルマとの距離は非常に遠く、有事の際に支援要請があったとしてもお互いに派兵が難しいというのが「共通認識」だった。最短でも二週間…それもラクスマン王国とエステリック王国の領地の真ん中を軍列を作って行進するなど全く現実的ではない。それでも、「安心感」を得るためだけに実効性の薄い同盟を結ぶのか…?ただ、「技術提携」という意味では有効ではないかという意見もあった。お互いに優秀な「人材」を出し合って、戦闘技術のスキルアップや不得意な分野の指導などは可能だろう。

 その日は朝から小雨が降っていた。それで、みんなで朝食を食べている時にユグリウシアが言った。

「セレスティシア、今日は野外実習にいたしましょうか。」

 ヴィオレッタはコーンスープにパンを浸しながら答えた。

「野外でですかぁ…神代語の勉強なんですよね?」

「セシルとセイラム…二人には会ったのでしょう?」

「はい、妖精とその保護者ですよね…それが?」

「今日はおあつらえ向きに雨が降っておりますので、二人を誘って神代語魔法の実習をいたしましょう。」

「…ん?」

 ヴィオレッタ、ユグリウシア、エヴェレットの三人は北の五段目まで降りて行って、鳳凰宮の前の空き地にやって来た。

 すると、鳳凰宮の三階のベランダから女の子が顔を出した。

「あっ、セレスティシアが来たぁ〜〜っ!ユグリウシアも来たぁ〜〜っ!」

 セイラムは頭を引っ込めると、次の瞬間にはもう一階の扉から飛び出してきて戸口の番兵のアーチャー二人を驚かせていた。

 セイラムは全速力でヴィオレッタのそばにやってくると、ヴィオレッタの腰の辺りにビタリと視線を合わせて停止した。

「叔母様、またセイラムちゃんに狙われてるんですけどぉ…。」

「ミスリル…それも無垢ともなると、妖精にとっては御し難いほどに魅力的なのですよ。」

 ヴィオレッタはふと思い出した。

(そう言えば…エスメリアさんのケルピーも同じような反応をしてたなぁ…。)

 しばらくすると、母親代わりのセシル、同居しているライラック母娘、そして女王ボタンと護衛のタチアナもやって来た。

「はぁっ、はぁっ…速いんだってばぁ〜〜っ…ちょっと、ちょっと…」

 ボタンが言った。

「やぁっ、おはようございます、ユグリウシア殿、セレスティシア殿、エヴェレット殿…セイラムを訪ねて来たってことは、もしかして大精霊ですか?」

「はい、雨が降っているので、今日は水の大精霊を召喚してみようかと…。」

 それを聞いたヴィオレッタが首を傾げた。

「…水の大精霊…それは何ですか?」

 ユグリウシアはニンマリとした。

「見ていれば分かりますよ。セシルさん、今日はちょうど雨が降っておりますので…セレスティシアに水の大精霊を召喚して見せてあげてはいただけませんか?」

「はい、分かりましたぁ〜〜。セイラムちゃん…んん、セイラムちゃん?」

 セイラムはヴィオレッタの腰の辺りで…まだ停止していた。ヴィオレッタは「仕方ないなぁ〜〜」という顔で、腰のリール女史を腰の鞘から抜いた。すると、セイラムは手を叩いて喜んだ。

 それを見たヴィオレッタはシーラの面影が頭に浮かんだので…

「セイラムちゃんはそんなにリール女史が好きなんだねぇ。それじゃぁ、少しの間だけ貸してあげましょう…良いですか、貸すだけ、貸すだけですよ⁉︎」

「うんうん、ちょっとだけ…ちょっとだけ借りるぅっ!」

 ヴィオレッタはリール女史をセイラムに手渡した。すると、セイラムはためらう事なく…リール女史を口から飲み込んだ。ホラーを目の当たりにしてヴィオレッタは思わず呻いた。

「…うげぇっ‼︎」

 その瞬間だった。セイラムは妖精ゆえにリール女史の能力を「認識」しているのか…突然、大声で叫んだ。

「&$#@@%$@=&〜$#*〜&*$#‼︎(光の精霊、いっぱい集まれぇ〜〜っ‼︎)」

 すると、曇天の雲の一角が割れて…ひと筋の光がセイラム目掛けて降ってきた。そのまばゆいばかりの光はセイラムを包み込み、やがて背中の方に移動していった。そして…セイラムの背中から二枚の光り輝く翼が現れた。たくさんの光の精霊を吸収して、セイラムは「変質」したのだった。

 その光景に驚いたヴィオレッタはユグリウシアの方を見て尋ねた。

「あ…あれが…大精霊っ⁉︎」

 ユグリウシアも驚いていた。

「あ…あれは違いますっ!」

 精霊と妖精がはっきりと目視できるヴィオレッタとユグリウシアにはセイラムの姿は背中に大きな二枚の翼をつけた少女に見えている。しかし、他の者にはセイラムの翼は見えていないのだ。

 ユグリウシアはすぐにセイラムを「フォーチュンテラー」で鑑定してみた。

「この種類の妖精は初めて見ました…セイラムは変質して光属性の妖精…『エンジェル』になったようですねぇ…。」

 ヴィオレッタは興味津々で尋ねた。

「レア…なのですか?」

「そもそも、光の精霊自体が…召喚しないと降臨しない精霊ですからねぇ…。」

 光の精霊は神聖魔法や治癒魔法の根源である。普段は空中には存在していないが、神官や僧侶の呪文によってはるか天空より召喚されるのみである。

 セイラムははじめ、風の精霊シルフィと同化して風属性の「フェアリー」として発生した。だが、ユグリウシアと出会い人間に近づくことを切望して地と水の精霊を吸収同化するようになり地属性の「ニンフ」へと変質した。そしてさらに、セイラムはセシル、リグレット、アナと出会い神聖魔法…治癒魔法を習得したいと切望した。

 今まで、少しずつ少しずつセシルから魔力をもらって、光の精霊を召喚し吸収同化していたが…今回、リール女史の力で大量に光の精霊を吸収した結果、全体の精霊の量において光の精霊の占める割合が他の精霊の占める割合を大幅に上回ったので…セイラムは光属性の「エンジェル」へと劇的に変質したのだった。

 セイラムの変化が見えていないセシルがきょとんとして、ユグリウシアを見ていた。

「どうしたんですか…何か、あったんですかぁ?」

「んんん…説明が難しいですねぇ…。」

 セイラムは嬉しくて嬉しくて、辺りを飛び跳ねていた。それを見たリグレットにもその喜びが伝染して、二人は手を繋いで「きゃぁきゃぁ」叫びながらくるくる回っていた。

 我に帰ったユグリウシアはセシルに言った。

「あっ…忘れていました。今日は水の大精霊の召喚実験をする予定でした。セシルさん、お願いできますか?」

「分かりましたぁ〜〜。」

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