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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百四十九章 食糧争奪戦

四百四十九章 食糧争奪戦


 キャシィとハインツは荷馬車に乗ってコッペリ村を出た。取引きをしている農家を回って穀物を仕入れるつもりだ。イェルマから仕入れれば良いようなものだが、イェルマは兵站…戦時食糧の備蓄に力を入れているので、今はなかなか放出してくれない。

 キャシィたちの馬車はお得意先のハンスの農家を目指した。ハンスの農家に到着すると、キャシィはすぐに母屋に駆け込んだ。

「こんちゃあぁ〜〜っ!ハンスさん、いますかあぁ〜〜っ?」

「やぁ、キャシィ、いつも元気だねぇ〜〜。」

「小麦ありますかぁ〜〜?」

「ああ…それがだねぇ…」

 ハンスは顔を曇らせて不思議な話を始めた。

「二日前に…兵隊さんがたくさんやって来てねぇ、うちの小麦を無理矢理、全部買って行ったんだよぉ…。今年はちょっと小麦の相場は高めなんだが、安めで売らされてしまったよ、おっかなかったねぇ…。キャシィがもうちょっと早く来てれば、キャシィに売ったんだけどねぇ…。」

「えっ、兵隊⁉︎…ここはエステリックの領土だから…エステリックの騎士兵団ってこと…?」

「この近隣の農家はみんな、兵隊が小麦を買って行ったそうだよ…。この辺じゃもう、小麦は手に入らんだろうねぇ…。」

「…一体、何があったんだろう?」

「分からん…。」

 キャシィは少し考えて、それから言った。

「他の…小麦以外の穀物は?」

「大麦、ライ麦ならまだあるよ。」

「じゃ、それを全部売ってくださいっ!」

 キャシィは大麦、ライ麦を売ってもらうと、それを荷馬車に乗せ慌てて次の農家に馬車を走らせた。

 ハインツは言った。

「どうしたの、何かあったの?」

「…分かんない。分かんないけど…何かが起こってる気がする。」

 キャシィは直感で、原因は判らないが「食糧争奪戦」が起こっているのだと思った。エステリック王国は小麦をごっそり買い込んで何をするつもりだろうか?小麦を買い占めて相場を操作し、大儲けをするつもりか⁉︎…それは分からない、分からないが、対抗策として…それならこっちは小麦以外の穀物を買い占めるしかない!

 とりあえず、荷馬車いっぱいに穀物を買い付けたキャシィはコッペリ村でハインツを下ろすと、その足でイェルマへと向かった。

 イェルマに入ったキャシィは南の一段目にあるイェルマの食糧倉庫に荷を預けると、すぐに生産部管理事務所を訪ね、生産部の長…黒亀大臣のチェルシーと面会した。

「キャシィ、それは本当かっ⁉︎」

「ホントですってばぁ…これは絶対、何かありますよ!」

「うむ…こちらも買い負けないように、小麦を買い漁るか…」

「それは得策ではないです。多分、これから小麦の相場は急上昇します。バカ高い時に買ったら損ですよっ!」

「では、どうしたら…?」

「小麦以外の穀物を今のうちに買い占めるんです!小麦が市場に無くなったら、当然、大麦もライ麦も値上がりします。今の安いうちに大麦やライ麦を買っておいて、エステリックが小麦を放出して相場が下がったら、その時に大麦やライ麦を高く売って小麦を買いましょう!」

「いや、そうはならない。エステリックは小麦を放出しない…。」

「えっ…?」

「そもそもだ…エステリック王国は相場で儲ける必要はないんだよ。兵隊を動かしてまでそんな面倒臭いことをしなくても、税金を上げたり新しく課税したりすれば済むことだ…人頭税とか、塩税とか、小麦税とか…。」

「…あっ。」

「キャシィは『妖精の予知』を知っているか?」

「な…何ですか、それはぁ〜〜っ…??」

「六月は何もなかったから…七月か八月だな。これは我がイェルマの軍事機密中の軍事機密なんだが、予知能力を持った妖精がどこかが何かしらの『攻勢』をイェルマに仕掛けてくると予知したのだ。この予知を信じるならば…エステリックはその『攻勢』のための兵站を集めていると考えれば辻褄つじつまが合う。我々、下々と違って…奴らは小麦粉のパンしか食べないからな…。」

「むむむっ…もしかして、『第三次エステリック大侵攻』ってことですかぁ…大変じゃないですかぁ〜〜っ!」

「…大変なのだ。」

「ふおおぉ〜〜っ…‼︎」

 キャシィの脳みそは一瞬、短絡し掛かった。だが、反対にチェルシーは冷静を保っていた。なぜなら…このひと月、このエステリック侵攻については「四獣」の間ではずっと議論されていたことだったからだ。

「キャシィに頼みたいことがある。」

「…な、何でしょう?」

「イェルマの代わりに、この近辺を走り回って…もっと穀物を買い集めてくれ。」

「わ…分かりました。」

 キャシィは右の手のひらを上にして突き出した。

「何それ…?」

「いえ…先立つ物を…!」

「あのさ、その前に…いつになったらお米11.5トンとその米の輸送と護衛の代金、支払ってくれるのかな…?」

「ぶっ…!わっ…分っかりました、その中から出しときますっ!」

 キャシィは慌てて立ち上がって、突き出した手を引っ込めてその手で敬礼をした。仲良くなったとは言え、黒亀大臣は黒亀大臣だとキャシィは改めて認識した。


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