四百四十八章 オリヴィア帰還
四百四十八章 オリヴィア帰還
二週間をかけて、オリヴィアとケイトはコッペリ村に帰って来た。
「オリヴィアさん、コッペリ村が見えてきましたよ!」
「ああぁ〜〜…やっと着いたわねぇ…。よっこらしょっ…と。」
コッペリ村に入ると、オリヴィアはすぐに自分の荷物を持って馬車を降りた。
「オ…オリヴィアさん、どこに行くの⁉︎」
「キャシィズカフェ!」
「とりあえず…イェルマに帰還の報告をしないと…!」
「任せたっ‼︎」
「…げげっ!」
オリヴィアは振り向きもせずに、キャシィズカフェに向かって全力で走っていった。まぁ、こうなったらオリヴィアは止められない…ケイトは諦めた。
お昼近くだった。キャシィズカフェでは、駆け込みカルテットと養い子たちが店内を走り回ってお客のイェルメイドたちを捌いていた。
カリンがやって来てオリヴィアの注文を取った。
「ご注文は?」
「ん…セドリック。」
「へ…?あっ…セドリックさんの奥さん⁉︎…お久しぶりですぅ…」
「セドリックはどこ⁉︎」
「養蚕小屋の方にいますよ。」
オリヴィアは養蚕小屋に向かおうとして近道のワイン倉庫を通ろうとすると…
(な…何じゃ、こりゃあぁ〜〜っ!)
オリヴィアの視界に信じられない光景が飛び込んできた。ワイン倉庫の地面の上には…営繭のための格子状の衝立が固定された何十もの養蚕の飼育箱が所狭しと敷き詰められていた。箱の中には丸々と太った蚕の幼虫がいて、桑の葉をまだモリモリと食べているもの、半分透き通って『眠』の状態に入っているもの、すでに衝立に登って営繭の場所を確認しているものなど…繭を作る準備に入った幼虫ばかりだった。
オリヴィアは近道をやめて、一旦キャシィズカフェの外に出て養蚕小屋を目指した。すると、荷馬車からノコギリを持って来たリューズと出会った。
「よぉっ、オリヴィア…帰って来たのかぁ〜〜っ!」
「むむっ、何であんたがここに…?」
「セドリックの依頼で、工場を建ててるんだよ。」
「な…何いぃ〜〜っ⁉︎…工場って…シルク工場?」
「それは知らん。」
オリヴィアが建設予定地に行ってみると、基礎工事が終わりつつあって、みんな材木の加工をしていた。
オリヴィアを見つけたドーラ、ベラが叫んだ。
「おおっ…オリヴィア、帰って来たのかぁ〜〜っ!」
「バーバラが手ぐすね引いて待ってるみたいだぞ…!」
「うっ…バーバラか。…会いたくないな…。」
オリヴィアは少し引き返して、養蚕小屋を覗いてみた。セドリックとキャシィ、さらにはグレイスとその養い子たちが蚕の幼虫相手に奮闘していた。セドリックとキャシィは棚から幼虫の飼育箱を下ろすと、格子状の衝立を釘で固定し、それをグレイスが外に出し養い子たちに手渡して、リレーでワイン倉庫に運び込んでいた。
「ほらっ、カイト、ヘンリー、これワイン倉庫に持って行って…ひっくり返すんじゃないよっ!」
「…釘が無くなった。誰か、釘を持ってきてえぇ〜〜っ…!」
オリヴィアを見つけたグレイスは鬼の形相で叫んだ。
「オリヴィアァ〜〜ッ!突っ立ってないで手伝いなさいっ!…その箱持って行けえぇ〜〜っ‼︎」
「は、は…はいっ、義母様ぁっ…!」
お帰りの挨拶はなかった。ここから二時間ほどオリヴィアはグレイスにこき使われた。
お客が引いた午後一時頃、みんなで厨房のテーブルに着いてハーブティーを飲んだ。
ローラの息子アベルをおんぶしたサシャが言った。
「オリヴィアお義姉ちゃん、お帰りなさい。今回はどこに行ってたの?」
「エステリック城下町に行ってきたわ。もうね…女の子を救うために大活躍して来たわよぉ〜〜っ!」
グレイスが言った。
「あんたも大変だねぇ…。砂漠に行ったり、エステリックに行ったり…少しは稼いでるのかい?」
「…。」
キャシィが言った。
「ああ…そう言えば、この近くでも凄い戦闘があったみたいだねぇ…。」
「ユカリンの姪っ子がイェルマに来てるのよ。」
「…ユグリウシアさんの姪御さん…ってことはエルフね?」
キャシィは儲け話に繋がらないかなぁ〜〜と思っていた。
「ところでさぁ、リューズが工場を建ててるみたいだけど…シルク工場?」
セドリックが満面の笑みで言った。
「そうだよ、オリヴィアさんと僕の…『僕ら』のシルク工場だよ。やっとここまで来た、あとひと月足らずで僕らの夢が完成するんだよ!…ワイン倉庫の幼虫を見ただろ?あと、二週間で一回目の繭の収穫ができる、順調だよっ‼︎」
「あらまぁ〜〜っ!ロットマイヤーのお屋敷から逃げ出して約一年…遂に…遂に、わたしたちの夢が実現するのね…!あっ、そう言えば、王宮でお義父様とお会いしたわよ、元気そうだったわぁ…。遊びにいらしてぇ〜〜って、声を掛けといたわ。」
「…なぬっ⁉︎」
「…えっ!」
セドリックとグレイスは真顔になった。
しばらく歓談した後、キャシィが椅子から立ち上がった。
「蚕も一段落したことだしぃ…じゃ、粉屋に戻るねぇ〜〜。こっちもね、そろそろ小麦粉とか仕入れないといけないからぁ〜〜。」
グレイスがキャシィを労った。
「ああ、キャシィ、ありがとね。」
オリヴィアがお茶を飲みながら言った。
「ありがと、ありがとっ!後はわたしに任せなさいっ!」
あっ、この人イェルマに帰らないつもりだ…と、みんなは思った。




