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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百四十四章 クズ鉄屋のチネッテ

四百四十四章 クズ鉄屋のチネッテ


 女が重そうに荷車を引いていたので、ティモシーが無理矢理割り込んで代わりに荷車を引いた。

「そんな無理しなくていいよ…。」

「いいから、いいから…。」

 しばらく進むと、女はティモシーに止まるように言った。それは大衆向けの料理屋の前だった。女は大皿がくっついた天秤棒を持ってお店の裏に回ると、勝手口の戸を開けて叫んだ。

「穴のあいた鍋、錆びたフライパン…鉄クズはないかねぇ〜〜っ!」

 店の主人は古い鍋やフライパンを持って来た。それを女は天秤の大皿に乗せて棒の支点となる部分に括り付けた紐を持ち、棒の反対側の重りを右に左に動かして、天秤が水平になるように調整した。そして、目盛りを読んで店の主人に言った。

「5kgだねぇ…銅貨10枚ね。」

 女が銅貨10枚を支払って鉄クズを抱えて出てくると、ティモシーはそれを受け取って荷車に積んだ。

「すまないねぇ…。今年の冬に体を壊しちまって…それからどうも、重たい物を持つと体の節々が痛くてねぇ…」

「僕は体力が有り余ってるからね、大丈夫だよ。」

「…ボクは何て名前なんだい?」

「僕はトムって言うんだ。おばさんは?」

「…チネッテ。トムはこの辺りの民族じゃないよね…ひとりかい?」

「ええと…東の方から仕事を探してやって来たんだ、母さんと一緒に…。」

「そうなのかい…で、今、母さんは?」

「ええと…働き口を探してるよ。僕もお金を稼ごうと思って冒険者になったけど、なかなか仕事がなくてねぇ…。」

「けっ、今の冒険者は血も涙もないからねぇ…小さい子供にも容赦はないのさ。」

 二人は話をしながら、城下町の大通りを進んだ。時折、路地に入っては捨て置かれた鉄クズを探して、何かを見つけると「持ってくよ〜〜」と声を掛けて荷車に積んだ。

 お昼頃になって、チネッテは言った。

「ちょっと休憩するか。」

 二人はその辺に座った。チネッテは懐から皮袋と陶器の小さな器を出すと、器を手拭いで拭ってそれに皮袋の中のお茶を注いでティモシーに差し出した。ティモシーはぺこっと頭を下げてそのお茶を飲んだ。それはハーブティーだったが、薄くてほとんど白湯だった。

 夕方近くになって、二人は城下町の鍛冶屋を訪れた。

「全部で48kg…銅貨144枚だ。いつも通りでいいかい、チネッテさん?」

「ああ、それでいいよ。」

 純利益は銅貨48枚…まずまずじゃないか、ティモシーはそう思った。

 鍛冶屋からの帰りがけ、ティモシーはチネッテに言った。

「一日で銅貨48枚なら、ひとりなら十分食べていけますね。僕はティアークの冒険者ギルドでネズミ駆除をやったことがあるけど、一日駆けずり回って銅貨6枚ってこともあったよ。」

「いやいやぁ…今日のは二日分だし、雨が降れば外には出れないし…町じゅうの鉄クズが無くなったら町の外にも行かなくちゃいけない…。」

「そ…そうなんだ…大変だぁ…。」

 チネッテは帰り道でもちょこちょこと路地裏に入っていっては、小さな鉄クズを拾ってきた。それで、ティモシーもすばしっこく路地裏を駆け回ってチネッテの手伝いをした。

 ティモシーは路地裏である物を見つけた。

「チネッテさん、チネッテさん…これ…!」

「お、荷車だね。でも、これ…壊れてるじゃないか。」

「うん…でも、片方の車輪は使えそうだよ。」

 その荷車は軒下に放置されていて、雨ざらしの状態で木造の本体の半分は腐っており、苔が生えて傾いていた。しかし、軒下の内側の車輪は雨に濡れなかったようで元の形を保っていた。

 ティモシーはすぐに荷車の所有者であろう家のドアを叩いた。

「クズ鉄屋でぇ〜〜す。前の壊れた荷車…まだ使いますか?」

「ありゃぁ…もうだめだ。タダでいいから持っていってくれ。」

「ありゃぁ〜〜っすっ!」

 ティモシーはナイフを出して、腐った荷車を解体してクズ鉄屋の荷車に乗せた。

「後で車輪だけ交換しよう。他の部分は焚き付けにでもしてさ…。」

 チネッテはニコニコしていた。

 大通りから横道に入りさらに細い路地に入って、日が暮れる前にチネッテの自宅に到着した。そこは木造三階建ての古い建物だった。

 ティモシーはすぐに荷車の修理を始め、チネッテは建物の中に入って燭台を持ってきて、再び建物の中に戻っていった。

 修理が終わると、ティモシーは荷車を引いてみた。なかなか良かった。

「おばさん、荷車、直ったよぉ〜〜。」

「そうかい、ありがとね。トム…こっちおいでな、お茶をお飲みよ。」

 ティモシーが建物に入ると、一階は共同の厨房でテーブルがひとつ置いてあって、チネッテの他にも老人が二人座ってお茶を啜っていた。ここはアパートメントのような集合住宅のようだ。

 薄いお茶を飲みながら、ティモシーは言った。

「おばさんはここに住んでるの?」

「そうだよ、ここの三階の角部屋が私の部屋だよ。主人と息子が遺していってくれた唯一の財産だ。おかげで私はバカ高い家賃を払わなくて済む…一日に銅貨数枚ありゃあ、生きていける。」

「…良いよね、自分の家があるのって。」

 ティモシーはリーンの「セコイアの懐」の村近くにある、シーラたちが住む小屋を思い出した。

「トムは…今日、寝る場所はあるのかい?狭くて良ければ、私の部屋に泊まって行きなよ。」

「…ええと、少しの蓄えがあるから…今は母さんと一緒に宿の部屋を取ってるんだ。」

「…そうかい。」

 そう言うと、チネッテはテーブルに銅貨5枚を置いた。

「今日の駄賃だ、持っていきな。」

「い…いらないよぉ〜〜。何もすることが無かったから、暇だったからおばさんに着いて行っただけなんだから…。」

「トム、そんなんじゃぁ…このエステリックでやってけないよ⁉︎」

「いいって、いいって…じゃ、また暇だったら来るからね…。」

 ティモシーは銅貨を受け取らずに、部屋から飛び出していった。


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