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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百三十九章 カマキリ夫人 その2

四百三十九章 カマキリ夫人 その2


 ベンジャミンはカウンターに行って、バーテンダーに言った。

「ビールを大ジョッキでくれ…八杯だ。」

 とりあえず、喉の渇きを潤したベンジャミンは一緒に飲んでいる仲間に言った。

「今回の上がりの半分を分配する。残り半分は次の仕事の準備に充てる…いいな?」

 街道を巡り、旅人や馬車を襲う…ベンジャミンたちは野盗で日銭を稼いでいた。

 仲間たちとビールを飲みながら、ベンジャミンは辺りを見回してホールの端で人集りができているのに気づいた。

「お前たち、何やってるんだ?」

「おっ…ベンジャミンか。久しぶりだな…いやな、この女が…」

 ベンジャミンはエビータの鋭く突き刺すような目を見て…「おっ…!」と思った。何かの目的、目標を持った目だ。ベンジャミンはアーノルドから事のあらましを聞いた。

「そうか…じゃぁ、あんた…俺のパーティーに来なよ…」

 そう言って、ベンジャミンはテーブルを挟んでエビータの対面の席に座った。

 ベンジャミンはビールを飲みながら、大ジョッキのビールをもう一杯注文した。

「…飲みなよ、俺の奢りだよ。」

 ベンジャミンはバーテンダーが持ってきたビールのジョッキをテーブルに置いて、エビータの方に押しやった。

「酒は飲まない。」

「…そうか、勿体無いなぁ。ええと…皮一枚?あんたをその席から動かしたら俺の勝ち…か?」

 ベンジャミンは左手に持っていたビールを飲み干すと、エビータに勧めたビールを自分で飲むために、そのジョッキを右手で自分の方に引き寄せた…その瞬間…ベンジャミンはそのビールをエビータに浴びせ掛けた…が、エビータはそれをひょいと躱した。

 ベンジャミンはすぐに両手に持った二つの空のジョッキをテーブルに立てた二本のナイフの上に被せた。エビータがそのジョッキをナイフの上から取り除こうとして、ジョッキを両手で持ち上げた時、ベンジャミンは待っていましたとばかりにすかさず二本のナイフのグリップを握って引き抜き、自分の胸近くまで引っ込めた。

「むっ…!」

 ベンジャミンは冷静を保って言った。

「これで…俺の勝ちにしてくれないか?」

「私は武器を盗られただけだ。お前の勝利条件は私をこの席から動かすことだ。」

「実は、俺は魔導士なんだ…あんたのナイフが届かない位置で、呪文詠唱をすることもできたんだ…」

「その時はナイフを飛ばして、呪文詠唱よりも早くお前の口を塞ぐだけだ…」

「そうなると…『皮一枚』の誓約は反故になっちゃうよねぇ…?」

「…!」

「魔法を使う方法だと、どっちも無傷では済まないし、周りの連中も巻き込んでしまう…ということで、俺の勝ちにして欲しいんだが…。」

 エビータはしばらく黙り込んだ。

(このベンジャミンという男は他の傭兵と違って頭が切れるな…。)

「…分かった。勝ち負けは別として…お前のパーティーに入る。」

「よし…」

 ベンジャミンはちょっと考えて、それから言った。

「エレーナ…つかぬことを訊くが、あんた、まさかイェルメイドじゃないだろうな⁉︎」

 そうベンジャミンに問われて、エビータは一瞬…オリヴィアやアンネリの顔が頭をよぎった。

「…イェルメイドって、一体何だ?」

 エビータは知らない振りをした。

「…ならいいんだ。」

 エビータはベンジャミンをリーダーとするパーティーへの加入手続きをした。

「それで…ベンジャミン、仕事はないのか?」

「今、ひと仕事終えてきたばかりなんだ。…当てはある、二、三日待ってもらえるか?」

「ああ、待つ。」

 エビータはそう言うと、もといた椅子に座って、また動かなくなった。

 ベンジャミンのところに仲間がやって来た。

「ベンジャミン、やったな!女の仲間なんて初めてだ…うひひひ、楽しみだなぁ…。」

「お前ら…あの女に手を出すんじゃないぞ。…死ぬぞ。」

「…えっ?」

「あの目は…目的のためなら躊躇なく人を殺せる目だ。どうも、旦那に操を立てているみたいだから、下手に手を出したら…あの二本のナイフで切り刻まれるぞ。」

「うひぃっ…!」

「まぁ…旦那が生きてりゃぁ、ひとりで傭兵なんかはしないだろう…。『ブラックウィドウ』って知ってるか?クロゴケグモの別名だ。この蜘蛛は交尾しにやって来たオスを食ってしまうのでこの名前がある。『後家ゴケ』は未亡人って意味だ。だが…エレーナは二丁ナイフ使いだから、どちらかと言うと『カマキリ』だな。カマキリもオスを食っちまう…強いて言うなら、『カマキリ未亡人』…『カマキリ夫人』だな…。」

 カールが言った。

「ベンジャミン、今…仕事の当てがあるって言ったが、どんな仕事だ?」

 戦争がない時は、傭兵ギルドへのクエスト…仕事依頼はほとんどない。数少ないクエストを仲間内で取り合っている。なので、傭兵が食い扶持を稼ぐために盗賊をやるのは珍しいことではない。

「さっきまでは…当てはなかった。だが、エレーナが加わったことで『当て』ができた。」

 ベンジャミンはひとり笑っていた。


 ユーレンベルグのワイン工場。

 エビータ、ティモシー、そしてベロニカは厨房で夕食を摂っていた。

「えええっ…母さん、傭兵ギルドに入っちゃったのっ⁉︎」

「ああ、こっちは順調だ。ティモシーの方はどうなんだい?」

「…えっとね。こっちは…ティアークの冒険者ギルドとは随分勝手が違うみたいで…あはは…。母さんの判断は正しかったよ。ここの冒険者ギルドじゃ大した情報収集はできそうにないや…。」

 エビータ母子が話をしている横で、ベロニカは料理人を捕まえて何やら文句を言っていた。

 そこにユーレンベルグ男爵が戻って来た。ユーレンベルグ男爵はワインの中卸を任せている貴族たちを回って情報収集をしていた。ベロニカがすぐに男爵に不平をのたまった。

「ねえぇ〜〜、男爵ぅ〜〜っ!お願いだから…お米を仕入れてよぉ〜〜っ‼︎」

「いやいや、エステリックには一週間しかいないんだから…我慢してくれよ…。」

 エビータが男爵に言った。

「で…どうでしたか、新しい情報は得られましたか?」

「ガルディンはディラン伯爵に莫大な資金援助をしているらしい…そして、そのカネがエステリックの貴族にばら撒かれているようだ。…何のために?その目的を探るのが今回私がエステリックにやって来た理由だ…。」

 エビータが言った。

「我が主…セレスティシア様に仇なす輩…ガルディン。禍根を残さないために、いっそ…奴がエステリックにいる間に…」

「そうだな…それが手っ取り早いとは思うが…。しかし、ガルディンはディラン伯爵…この国の軍務尚書の屋敷にいる。…警護は固いだろうな。」

「…。」

 ユーレンベルグ男爵は料理人に二等級のワインを持って来るように言った。工場の使用人がワインが運んでくると、ベロニカはそのボトルをさっと奪い取って、男爵のグラスに注いだ。

「男爵様も何かと気忙しくてお疲れねぇ〜〜、ささっ…どうぞ、どうぞ!」

「うっ⁉︎…すまんな。」

 ベロニカは男爵にお酌をしつつ…ちゃっかりと自分のグラスにも二等級のワインを注いで美味しいワインを堪能した。


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