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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百三十七章 偶然の再会

四百三十七章 偶然の再会


 オリヴィアとケイトはユーレンベルグ男爵たちと別れて、北の街道をイェルマ渓谷に向けて荷馬車を走らせていた。

 荷馬車には自分たちの約二週間分の食糧を積み、二人は御者台に座って景色を眺めながら馬車に揺られていた。

「ねぇねぇ、ケイトさん、見て見て。空でトンビがくるりと輪を描いているわ…優雅ねぇ〜〜…。」

 手綱を握っているケイトがうんざりして答えた。

「…オリヴィアさん、もうそれは終わった…終わったから…。」

 対抗方向から一台の小汚い荷馬車がやって来ていた。その馬車は十人ぐらいの皮鎧の男たちを乗せていた。

「おい、見えるか?向こうから女の荷馬車がやって来るぜ。白と浅葱色の高そうな服を着ている…カネを持ってそうだ…。」

「頂くか…ついでに、女も…」

「やめとけ。もうすぐエステリックだ、この辺の街道は目立つ。城下町に帰ったら女郎屋はたくさんあるだろう…」

「行きつけの駄賃…じゃなくて帰りがけの駄賃だ。ひひひ…」

 荷馬車を止めて、七人の男が荷馬車から飛び降りて脇の林の中に入っていった。

 ガスがローブ姿の男に言った。

「ベンジャミン、いいのか?」

「言っても聞くような奴らじゃないからな…放っておけ。」

 オリヴィアは馬を操っているケイトに言った。

「ねぇ、見て見て、ケイトさん。おかしな生き物が林の中をコソコソとこっちに向かってやって来るわ、頭の黒いネズミだわ…気持ち悪いわねぇ…。」

「ん…盗賊の類?荷台から斧と盾、こっちに持って来てくれる?」

「おっけぇ〜〜。」

 しばらく馬を走らせていると、突然、数人の男が林の中から現れてオリヴィアたちの馬を止めた。

「おいっ、女…カネを出せ…」

 男がそう言い終わる前に…二人は御者台から飛び降り、ダフネは片手斧で男の頭部を殴りつけた。男は即死だった。オリヴィアもまた、砂蟲の槍で男の喉を突いた。サクッと切れて…首が落ちた。

「オリヴィアさん、耳塞いでっ…!」

「わっ…やめろ…」

 ケイトが「ウォークライ」を発動させた。

「うおおおぉ〜〜っ!」

 二人の男が失神して倒れ、三人が錯乱状態に陥り頭を抱えてうずくまった。馬が驚いて何度も嘶いたので、オリヴィアが馬の鼻の手綱を捕まえて必死になだめた。

「こりゃ、ケイトッ!馬を巻き込むなぁ〜〜っ!」

「あ…そういう事かぁ、ごめん。」

 気を取り直して…オリヴィアとケイトは獲物を持って、生き残りの五人にとどめを刺そうとしたその時…

「待て…待ってくれっ!」

 オリヴィアとケイトに向かって大声で叫ぶ者がいた。ベンジャミンだった。

「…ん?」

「…俺だよ、ベンジャミンだ。オリヴィア、久しぶり…コッペリ村以来だな…」

「ベンジャミン…誰だっけ?」

 ベンジャミンの後から、カールとガスが駆けつけて来た。

「あ…オリヴィアの姐さん…お久しぶりっす…。」

「おおっ、こいつらは覚えてるっ!腰抜けのカールとガス…あんたらここで何してんの⁉︎」

 ケイトは訝しんで言った。

「…オリヴィアさん、なんで盗賊と知り合いなの?」

「いやぁ〜〜…一応、こいつらとは一緒に死線を潜り抜けた間柄というか、戦友というか…。」

 ベンジャミンが言った。

「仲間が申し訳ない事をした…相手がイェルメイドと分かっていたら絶対に止めたんだけどな…。この辺で勘弁してくれないか…。」

 そうなのだ…ベンジャミンは金輪際、イェルメイドとは関わらないと自分の胸に誓っていた。ユニテ村でのアンデッド討伐、東の街道での山賊家業…イェルメイドの恐ろしさは身に染みて理解していたし…どうも、相手がイェルメイドだと何故か分が悪い…これは巡り合わせだと本気で思っていた。

 ケイトは言った。

「でもさぁ…盗賊でしょ?盗賊、山賊の類は全殺し…」

 すると、ベンジャミンはケイトの肩に右手を置いて、顔を微妙に近づけて優しく囁いた。

「…すまなかった。本当にすまなかった。…キミ、可愛いね…俺たちの仲間にならないか?」

「えっ…仲間に⁉︎…ええっ…ちょうど、今、イェルマに帰る途中なんだけど…。お誘いは嬉しいけど…ご、ごめんなさい…。」

「そうか…それは残念だ。もし、気が変わったら是非エステリックの傭兵ギルドを訪ねて来てくれ…。」

「か…考えとくわ…。」

 ベンジャミンの手管で…なんとか「全殺し」は免れた。ベンジャミンはカールとガスに言った。

「カール、ガス、馬車に積んである酒を持って来い。」

「お…おうっ!」

 カールとガスは自分たちの荷馬車からお酒の入った壺二つを持ってきて、オリヴィアたちの荷馬車に積んだ。

「あらまぁ〜〜、悪いわねぇ…。仲間を二人も殺しちゃったのにぃ〜〜…あ〜〜み〜〜だ〜〜ばぁ〜〜…。」

「いや、俺の制止を聞かなかったあいつらが悪い…自業自得だ。それじゃあ、またどこかで会おう。」

 ベンジャミンは錯乱状態の三人をぶん殴って正気に戻した。そして、二つの死体を街道の脇に放り投げ、失神している仲間二人を抱えて荷馬車に乗せると、ティアーク城下町へと急いで去っていった。

 オリヴィアたちは今まで通り、何もなかったかのように馬車を走らせた。オリヴィアが砂蟲の槍を後ろの荷台に置こうとした時、槍に違和感を感じた。

「あれれん…?」

 オリヴィアが槍を両手で持って軽く捻ると…槍は木目に沿って縦に裂けた。

「うわわっ…わたしのオリヴィアスペシャルがぁ〜〜…!」

「…名前付けてたんだ。まぁ、槍先とオリヴィアさんの腕の力に比べて柄の部分が弱かったってことでしょう。」

「くうぅ〜〜…悲しいっ!」

 そう言って、オリヴィアは折れた槍を荷台に放り込むと、代わりにベンジャミンたちからもらった酒の壺を御者台に運び込んだ。そして、蓋を開けると手で掬って飲み始めた。

「…うんめぇ。これはなかなかに強い地酒だわねぇ…」

「あっ…ひとりだけずるいっ!私も…!」

 二人は酒盛りをしながら、イェルマへの帰路を馬車を走らせた。飲酒運転はやめよう。


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