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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百三十五章 エステリック王国へ

四百三十五章 エステリック王国へ


 オリヴィアたちがユーレンベルグ男爵の屋敷に移動して、五日が経った。

 エビータとティモシーは屋敷の裏庭で、毎日、ナイフ戦闘の訓練をしていた。

 オリヴィアとケイトはモスリンの白と浅葱色のワンピースを着て、日当たりの良い二階のベランダで小さなテーブルを囲んでお昼のお茶をしていた。 

「ケイトさん…ほら、見てごらんなさいよ。小鳥が梢の上でピーチクパーチク鳴いているわ…風情があるわねぇ…おほほほ。」

「見て見て、オリヴィアさん。あの雲はどこに流れていくのかしら…。まるで、あてもなく彷徨う私たちのようね…おほほほ。」

 毎日毎日、美味しいものをお腹いっぱい食べて、飲んで、ユーレンベルグ男爵からもらった綺麗な衣装を身に纏い、夕方にはバスタブで温かいお湯で全身浴をして…二人は貴族の生活を満喫していた。それで…二人はいつの間にか「お貴族様ごっこ」を始めたのである。

 そこに、ユーレンベルグ男爵が二人に当てがわれた部屋に飛び込んできた。

「やったぞっ!ヴィオレッタくんはどうやら、逃亡に成功したみたいだっ‼︎」

「…おおっ!」

「王宮にいる近衛のパトリックにこっそり教えてもらった…ティアークから出撃した追撃部隊一個師団と連絡が途絶えて、いまだに戻って来てないらしい。エステリックからも一個大隊が出たようだが、何者かの手によって壊滅したそうだ!…ははは、ガルディンの奴め、今頃はほぞを噛んでいるだろうな…」

 オリヴィアは大喜びして言った。

「まぁっ!ヴィオレッタ大脱出…大成功の巻ねっ!じゃ、これで私たちのお仕事は終わったわけね⁉︎ユーレンさん…お金くださいっ‼︎」

「まぁ、待て、話の腰を折るな。実はな…ガルディンは今回の事件で責任をとって一ヶ月の謹慎に入った…」

「あひゃひゃ…ざまあ見ろだわね!」

「まあっ、オリヴィアさんったら、なんて下品な言葉遣い…はしたない。おほほほ…」

 ケイトの言葉を制して、男爵はなおも続けた。

「謹慎というのは表向きで、ガルディンは密かにエステリック王国に向かったという情報があるのだ…」

「…何のために?」

「うむ、そこだ。元々、エビータとティモシーをエステリックに連れていく予定だったが、私も行ってみようかと思っている。実はな…パトリックの話だと、ガルディンは東の街道の至る所に義勇兵を配置して見張らせているらしい。つまり、あいつはまだ諦めていない…エステリック王国に行って、何か良からぬことを目論んでいるやもしれん。…それを調べるのだ。ついでに、久方ぶりにリヒャルドの顔も見てこようかな…と。リヒャルドというのは私の長男だ。それで…途中まで一緒に行こうじゃないか。中央街道は北の街道と繋がっている…北の街道はエステリックの領土だから、そこを通ってイェルマに帰ればガルディンの見張りはいないぞ。」

 オリヴィアは難しい顔をして、しばし考え込んでいた。そして…

「…で、お金は?」

 情報量が多過ぎたようだ。

「後から私もイェルマに行く…ちょっと、ヴィオレッタくんと話をしたいのでな。その時にお金を持っていくから、安心しろ!」


 次の日の朝、ユーレンベルグ男爵は旅客用ワゴン馬車と荷馬車の二台で「貴族町」の屋敷を出た。ワゴン馬車には男爵本人とエビータ母子、荷馬車にはオリヴィアとケイトが乗った。道の途中で二つの馬車は別れる。

 屋敷の正門を出ると…そこに女が待っていて、無理矢理馬車を止めた。

「ああぁ〜〜ん…男爵ぅ〜〜、私を忘れちゃ嫌あぁ〜〜っ…!」

「うっ…ベロニカッ⁉︎」

 すると、屋敷の門番の小男が見張り小屋から出てきて、男爵に言った。

「これはこれは、男爵様、おはようございます。この女は早朝からずっと門の前に居座っておりまして、何度も追い払おうとしたんですが…申し訳ございません…。」

「そうか…この女は…まぁ、いい。」

 ベロニカは強引にワゴン馬車の御者台…御者の隣に座った。ユーレンベルグ男爵は慌てた。

「お前はイェルマの…ティアーク城下町を内偵している密偵だろう?私たちはエステリック城下町に行くのだぞ…。」

「エステリック…面白そぉ〜〜っ!私も着いて行きますわぁ〜〜っ‼︎」

「お…お前…」

 ユーレンベルグ男爵の馬車一行はベロニカを乗せたまま屋敷を出発した。顔パスでティアーク城下町の南門を通過すると、一度東の街道に出てそれから北上し、ティアーク王国とエステリック王国を結ぶ中央街道に出た。

「ベロニカ、良いのか?…お前の任地はティアークだろう?」

「あっ、いいのいいのっ…!」

 城塞都市イェルマがスパイを送り込むとすれば…本筋からすれば、実際に矛を交えたエステリック王国のはずである。それでも、マーゴットがベロニカをティアーク王国に送り込んだ理由は…実はユーレンベルグ男爵にあった。

 イェルマの庭先…コッペリ村に進出してきた貴族の第一号。キャシィズカフェの看板の隣に掲げられたユーレンベルグの紋章…マーゴットはユーレンベルグ男爵を非常に警戒していた。同盟国の工作員か?…その真意を探るのが、ベロニカの当初の目的だった。ベロニカにしてみれば、調査対象の男爵はそばにいて、その上エステリック王国の情報も得られる…一石二鳥である。ここで、ベロニカは色々とやらかした事の汚名挽回の機会を窺っていた。

(あのクソババァ、定期報告が遅れたぐらいで…。このままイェルマに帰ったら降格されるかもしれないわ…ちょっと点数稼ぎをしとかないとっ‼︎)

 ティアーク城下町とエステリック城下町との距離は馬車で二日といったところだ。

 街道の真ん中で、人集だかりができていた。二台の馬車が停止していて男たちと女が言い争いをしていた。

 御者が馬車の速度を緩めた。ユーレンベルグ男爵が御者に言った。

「どうしたんだ⁉︎…構わずに、通り過ぎなさい!」

「それが…このままでは馬車が通れません…。」

 仕方がないので、ユーレンベルグ男爵たちは馬車を降りて、揉め事の仲裁をすることにした。

「おいおい、道の真ん中で何をしてるんだ。邪魔で通れないんだが…。」

 麻の小汚いワンピースを着た初老の女が言った。

「こいつらがぶつかってきたくせに、因縁つけてきやがったんだ…こっちは荷車が壊れちまって商売ができなくなった…弁償してもらわないと困るんだよっ!」

 体格の良い数人の男たちは皮鎧や剣などの軽装備をしていた。

「何だとぉ〜〜っ⁉︎こっちはお貴族様の命令で急いでたんだ、そっちが避けて当然だろぉ〜〜っ!」

「お貴族様がなんぼのもんじゃぁ〜〜っ‼︎」

 粗方の状況は判った…ユーレンベルグ男爵は後続の荷馬車の上のオリヴィアとケイトに向かって、右手の人差し指をクイックイッと曲げて、二人の出動を促した。

 男爵の要請を受けて、オリヴィアとケイトは男たちの前に歩み出た。

 男たちは、二人がモスリンの綺麗なワンピースを着ていたので、ちょっと裕福な平民の女だと思った。

「何だぁ〜〜、お前らはっ⁉︎」

「…邪魔。」

 オリヴィアはいきなり皮鎧の上から男のどてっ腹に馬式冲捶を打ち込んだ。男は「うえっ…!」と呻いて…腹を抑えて地面にうずくまった。

 それを見た数人の男たちは馬車から飛び降りてきて、手に手に獲物を掴んでオリヴィアに殺到した。

「やりやがったなぁ〜〜っ…!」

 オリヴィアは一歩踏み込んだ。

ドドォ〜〜ンッ!

 男たちはオリヴィアの「大震脚」を食らって意識朦朧となり、その男たちをオリヴィアとケイトで殴り倒していった。女の方は呆気に取られていた。

「よし、終わった。あとはこの馬車をどかそう…」

 オリヴィアとケイトは二人で男たちの馬車を街道の脇にどかせた。すると、女がやって来てお礼を言った。

「あんたたち、助かったよ、ありがとね!…ホンット…今時の冒険者ときたら、手がつけられないよぉ…。」

「えええっ!…こいつら、冒険者なのぉ〜〜っ?…傭兵かと思った…!」

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