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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百三十一章 ヴィオレッタのイェルマ視察

四百三十一章 ヴィオレッタのイェルマ視察


 約束通りに、その日ヴィオレッタたちはボタンやマーゴットと共に、馬に乗って槍手房の視察に出た。ヴィオレッタは大切な物を入れてある肩掛け鞄を持って外に出た。

 北の一段目まで降りたヴィオレッタ一行が槍手房に到着すると、房主のカレン、師範のベレッタを筆頭に、中堅、十八歳班、十五歳班、十二歳班が房主堂前の広場に勢揃いしていた。

 房主のカレンが一歩前に出て、恭しく一礼した。

「セレスティシア殿、ようこそ槍手房へいらっしゃいました。責任者のカレンでございます。ごゆっくり視察していってください。」

「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。お言葉に甘えさせていただきます。」

 ヴィオレッタは広場に整列しているランサーの数をざっくり数えてみた。

(…約200人ぐらいか。ここに来ていない人もいるだろうから、全部で300ぐらい?それが七つの房があるから、単純計算で2100人…これがイェルマの最大兵力かな…?)

 カレンが言った。

「ご存知の通り…ランサーは唯一、騎馬戦に特化した兵士です。イェルマ中広場で乗馬戦闘訓練を行い、ここでは主に地上での戦闘技術の向上のための訓練を行なっております…」

 カレンの合図で、槍手房の訓練が始まった。ベレッタが師範を務めているため、その訓練は激烈だった。真剣の槍を使用してはいないものの、棍棒が腹を突き、腕を叩き、頭部を殴った。

「おおっ…勇猛ですね…。」

 ヴィオレッタの視察の手前、良いところを見せようと頑張っているせいもあって…訓練は苛烈を極め、あっという間に数人の怪我人が出た。

 ヴィオレッタは隣のエヴェレットに目配せした。エヴェレットは馬から降りて…怪我をしたランサーたちを神聖魔法で治療していった。

 ボタンとマーゴットは驚いた。

「おおぉ…エヴェレット殿はクレリックだったのですね⁉︎…これは、ありがたいっ!」

 エヴェレットが説明した。

「リーンの宗教では、『神官クレリック』は存在しません…。我々の間で神聖魔法、治療魔法を施す医療従事者は『僧侶プリースト』と呼ばれております。」

「そうなのですね、ふむふむ…これなら、兵を派遣しても無駄に死なせる事はありませんね…。」

 エヴェレットは少し自慢げに続けた。

「そうなのですよ。兵を無駄死にさせないよう…ヴィオレッタ様は各族長区に教会を設置し、『僧侶』の養成をしております。その上に、最近では『要塞』を築いて…本当に国民のために粉骨砕身の努力、采配をしておられるのですよ!」

「ヴィオレッタ殿が兵士や国民をどれほど大切にしているかが、よく判りました!」

 ヴィオレッタは謙遜した。

「リーンの盟主として…必要なことをやっているだけですよ…。」

 この後、ボタンの申し出に従って、北の一段目にある剣士房を視察し、そこから二段目、三段目と登って、それぞれの施設を見学した。

 ヴィオレッタたちは「ベネトネリス廟」と「神官房」も見学した。

 ベネトネリス廟に入ってすぐに、神ベネトネリスの立像が目に飛び込んできた。

(ああ、まさしくベネトネリス様だ…。)

 その後にすぐ裏にある神官房を訪れた。アナ、そしてヒラリーとデイブが快く迎えてくれた。

「セレスティシア様、ようこそお越しくださいました。」

 ヒラリーがマーゴットを見つけて慌てて言った。

「魔道士の婆さん…トムソンがどうなってるか知らないか⁉︎」

「場所を変えて…イェルメイドたちとよろしくやっているようです。この件については、私に任せておいてください。折を見て、コッペリ村に送り返しましょう…。」

「よ…よろしく頼む…!」

 イェルマに必要なのは、あくまでも「女児」…後腐れがないので、「行きずりの恋」、「一夜限りの恋」はむしろ歓迎されている。イェルマを通過する貿易商人との間に子を成す事はよくある事だった。

ドタドタドタドタ…

 すると、二階から騒がしい音を立てて、ひとりの青年が階段を駆け降りてきた。

「セレスティシア様、エヴェレット様…お二人にお目にかかれる事…この身の幸せと存じますっ!」

「む…あなたは…どなた?」

「セコイア教の僧侶見習いで…マックスと申します…」

 一瞬…ヴィオレッタの目の色が変わった。

「お…お前がぁ…マックスかぁ〜〜っ⁉︎」

「…?」

 マックスが英雄詩でヴィオレッタの素性をあちこちに暴露して回っていた事をヴィオレッタは激怒していた…が、そのおかげで、偶然にもヒラリーの命が救われた事もまた事実であった。

「…マックスさん…あなたは、私の英雄詩をあちらこちらで披露しているそうですね。是非、聴いてみたいですね。」

「おおっ、分かりました、今すぐにっ!」

 マックスはセレスティシアの英雄詩を吟じ始めた。

「…セコイアの森を育み、エルフの魔法いまだ健在なる遥かなる西の大地に…若きエルフ現れたり…太陽光を銀に染めるは、その長き御髪みぐしゆえ。月光を青に染めるもその眼差しゆえ。地獄より来たる同盟の亡者どもに訃音ふいんを告げ、地獄へと追い返すは黒の喪章をつけたる者の成せる業なり。…ゆえに、その者『黒のセレスティシア』と呼ばれたり。セレスティシア…ああ、セレスティシア。リーンの守護者にして裁き人、最後の純血にして大魔道士ログレシアスの嫡子。小さき銀の刃を一閃すれば、風の神は怒り狂い…侵略者を地の果てまで吹き散らす…いかがでしょうかっ⁉︎」

 マックスはヴィオレッタからお褒めの言葉をいただけるものと信じて疑わなかった…。

 ヴィオレッタはひと言だけ言った。

「恥ずかしい。…マックスさん、あなたは今後…英雄詩を作ることを禁じます…以上。」

「ええええぇ〜〜っ…どうして…⁉︎」

 ガックリと項垂うなだれたマックスを尻目に、早々に、ヴィオレッタとエヴェレットは神官房を後にした。


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