四百三十章 ヴィオレッタエクスプレス
四百三十章 ヴィオレッタエクスプレス
日が落ちた。
原生林の巨木の根元近くの円筒家屋にこっそり入ると、寝台の上でエヴェレットが寝息を立てて静かに寝ていた。それを確認したヴィオレッタは安心して、談話室の方に移動した。
すると、途中で宙を飛んでくる団子…フェアリーの群れと遭遇した。フェアリーが群れを作るのは非常に珍しい。
「ありゃっ?」
よくよく見ると…その中心にはシルフィに乗ったメグミちゃんがいて、フェアリーに囲まれて前足をクルクルと互い違いに回していた。メグミちゃんは一度ヴィオレッタの肩に乗り移ると、ヴィオレッタが元気なことを確認して安心したのか…再びシルフィサーフィンで飛んでいき、その後をフェアリーの群れが追っていった。
(ふふふ、メグミちゃん…居心地が良さそう…。フェアリーはメグミちゃんを仲間だと思っているのかしら?)
ヴィオレッタが笑いながら談話室に来るとユグリウシアとシーグアが待っていて、ユグリウシアはヴィオレッタにハーブティーを勧めた。
「ボタンさんとお話しして、いかがでしたか?」
ヴィオレッタはハーブティーを啜りながら言った。
「まぁ、リーンもイェルマも同盟国と敵対してて、立場は同じ…互いに手を組むことによって、色んな可能性が生まれるのは事実ですね。ただ、あまりにも距離が離れ過ぎていて連携が難しい…その上、これが一番のネックなのですが、いざ何か起きた時に、現状、連絡を取り合う方法がないんです。『念話』は遠過ぎて届かないし、伝書鳩はリーンで育てたハトをイェルマに持ち込まないといけません。リーンとイェルマ…馬で片道二十日以上…現実的ではありませんね。」
ユグリウシアが言った。
「コッペリ村に最近、『鳩屋』なる民間の伝書鳩のお店が出店したそうですよ?」
「んん…リーンとイェルマの機密文書を第三者に委ねるというのは…ちょっとゾッとしますね…。ひとつの方法として、ここはシーグアさんに頑張ってもらいたいなぁ…」
シーグアは表情を変えずに言った。
「それは…目蜘蛛を活用するという事でしょうか…?あいにく、目蜘蛛はリーンとイェルマには配置しておりません…必要がないと思っておりましたのでぇ…。」
「そ…そうなんですか…。なかなか、都合良くいかないものですねぇ…うう〜〜ん…。仮に同盟を結んだとしても、お互いに迅速な連絡、情報交換が出来なければ…ただの『仲良しごっこ』で終わってしまいます…実効性がないと…ね。」
しばらく静寂が流れた。
ヴィオレッタは話題を変えようと、腰のリール女史を抜いた。すると、無数の光が集まってきて…あっという間に、ヴィオレッタは妖精まみれになった。
シーグアが言った。
「…それがガブリス=ガルゴのナイフですかぁ…。もしかすると、今後、それ以上のエンチャントウェポンは現れないかもしれませんねぇ…。」
ヴィオレッタはフェアリーを指であやしながら言った。
「そう言えば…叔母様もエンチャントアクセサリーの名人ですよね⁉︎とても興味があります、是非、作り方を教えてください!」
「そうですか、それほどに魔法に興味があるとは…セレスティシアはログレシアスお父様の才能を色濃く受け継いでいるのですね…よろしいですよ。ですが…エンチャントアイテム作成には神代語の習得が不可欠ですよ。」
「…それも含めてですっ!魔道を極める事は神代語を極める事と同義…頑張りますっ‼︎」
「魔道を極めて…その後はどうするつもりですか?」
「えっ…ええと…それは全然考えていませんでした…。」
ユグリウシアは大笑いした。
「おほほほほほ…いいでしょう。教えて差し上げましょう。」
「ありがとうございます、叔母様っ!」
ユグリウシアは…ヴィオレッタは生粋のエルフだと確信した。
次の日の早朝、ヴィオレッタたちが朝食を摂っていると、ペーテルギュントがやって来てヴィオレッタに言った。
「おぉ〜い、セレスティシア。お友達が来てるよ。」
「え…誰だろう…ヒラリーさんかな?」
ペーテルギュントはニコリと笑って後方の大樹の枝を指差した。そこには…一羽のハヤブサが止まっていて、ハヤブサの右足には小さな文字で「ヴィオレッタエクスプレス」と刻印された足環が付けられていた。それを見て、ペーテルギュントは「お友達」と言ったのだ。
ハヤブサはヴィオレッタを見つけると、なんとテーブルの上に舞い降りて来て、ヴィオレッタに向かって「ピィ〜〜」と一声鳴いた。
ヴィオレッタが左足に取り付けられていた小さな筒を外して中を調べてみると、小さな書簡が入っていた。ヴィオレッタはそれを読んだ。…ご帰還の日時をお教えください、ヨワヒム…。
「連絡方法が見つかったぁ〜〜っ!タイムリーです、ヨワヒムさんっ‼︎」
ヴィオレッタは思わず大声で叫んでしまった。
余談ではあるが、ハヤブサの視界の中にシーグアを見つけ、ヨワヒムは腰を抜かさんばかりに驚いたのだった。




