四百二十九章 セレスティシアの歓迎会 その3
四百二十九章 セレスティシアの歓迎会 その3
ペーテルギュントが祭事館にやって来て、エヴェレットに付き添ってエルフの村まで送っていった。
ボタンが言った。
「よろしければ、鳳凰宮にお部屋を用意しますが…?」
ヴィオレッタは叔母のユグリウシアと顔を見合わせた。
「ご厚意には感謝します。ですが、私たちは叔母様のエルフの村に滞在したいと思います。エルフの村は故郷の村によく似ていますので居心地が良いのです…。」
「そうですか…無理強いはしませんよ。…では、たくさん食べて、たくさん飲んで行ってください!」
ヒラリーは湿っぽい野郎との晩酌に飽きて貴賓席を離れ、槍手房のテーブルに向かった。イェルマで知り合いといえば、ランサーたちだけだ。
「師範、ベレッタ師範…どうぞ、一杯…!」
「おおっ、ヒラリー!礼儀をわきまえているじゃないか…こっち来い、お前も飲めっ‼︎」
「…そう言えば、ルカ師範の姿が見えませんね…?」
「あいつは…ガキができて、もう七ヶ月なんだ。なので、酒は飲めないそうだ。」
「…えっ!」
その頃、衝立で隔離された貴賓席のテーブルでは、デイブとトムソンが向かい酒でわびしく飲んでいた。
トムソンが愚痴っていた。
「ちっ…これだから女はよぉ…。全体行動ってのを分かってない!俺たちは冒険者仲間だろう…俺たちに気を遣って、ここで飲めってんだ‼︎」
デイブが言った。
「愚痴るな、愚痴るな…男の愚痴ほど、みっともないモンはありゃあせんぞぃ。」
「でもよぉ〜〜…」
するとそこに、給仕のイェルメイドがお皿を下げにやって来た。イェルメイドは食べ終わった料理のお皿を下げつつ、言った。
「…もっとお料理ぃ…持ってきましょうかぁ〜〜…?」
「お…おおぅ…」
給仕のイェルメイドはトムソンの目をじっと見つめて…僅かに口に微笑を滲ませて、その場を去って行ったが…その途中、二度ほどチラリとこちらを振り向いて色目を使ってきた。
その様子を見たトムソンは興奮して言った。
「デイブ、見たかっ⁉︎…今のは…誘ってるんじゃないか?」
「そうかのぉ…?」
すると、再び同じイェルメイドがやって来て、鶏肉のおかわりを持って来た。
そこで…トムソンは試してみた。
「すまんが…厠はどこだろうか…?」
「こちらですよぉ…ご案内しますわぁ〜〜…。」
トムソンはホイホイと着いて行ったが、デイブは特に気にもしなかった。トムソンの遊女通いはそこそこ有名だったし、「男の生理」と割り切っていた。
ヴィオレッタとボタンはなおも話をしていた。
「イェルマの軍隊はどのくらいの規模なんですか…?」
「ああ、それはまだこの段階では軍事機密です…。もっと、親交を深めてでないとねぇ…ご察しください。」
「…失礼しました。仰る通りです…少し先走り過ぎました。私はオリヴィアやアンネリとちょっと親しいのですが、彼女たちが優秀な兵士だったもので、期待を膨らませてしまったと言うか…。」
「そうですか、それは嬉しいな!…アンネリは実は私の従姉妹です。オリヴィアちゃんは…優秀かどうかはさておき、イェルマでも屈指の強者である事は間違いありませんよ‼︎」
「ふはははは、オリヴィアはイェルマでも…傍若…じゃなくて縦横無尽なんですね!」
「はははは、オリヴィアちゃんとは幼い頃からの腐れ縁でして…五歳か六歳の時、殴り合いの大喧嘩をしましてお互いに前歯八本を折りました。乳歯だったから良かったものの、親から酷く怒られましてねぇ…それ以来、仲直りのために親の命令で名前を『ちゃん』付けで呼ばなくてはいけなくなりましたよ。」
「ぶははははははははっ…それは、それは…たいそうな武勇伝ですね…!」
「武勇伝だなんて…ただ、私とオリヴィアちゃんは他の人よりも負けん気が強いだけですよ。」
「負けん気かぁ…リーンにもいますよ。ベルデンの族長のジャクリーヌさん…ランサーなんですけどね。」
「ほほう、ランサーですか…」
「先ほど話した通り、リーンは放牧の国…草原の国なので、ほとんどの兵士がランサーなのです。馬が多いので、必然的に騎馬が主力になっていますねぇ。」
「なるほどぉ〜〜…ならば、どうでしょうか。明日は槍手房の訓練を見学なさっては?」
「是非、お願いします!」
その日の歓迎会は概ね円満なうちに終わった。
ヴィオレッタはユグリウシアと共にエルフの村に戻っていき、アナはヒラリーたちを連れて神官房へと歩き始めた。
アナが気づいた。
「あら、トムソンさんは?」
ヒラリーが辺りを見回して、デイブに尋ねた。
「あれ、デイブ…一緒だったよね、あいつ、どこ行った?」
「…知らん。途中からいなくなった。」
「えええっ…探さないとっ!」
すると、ひとりの女魔道士がやって来て言った。男が二人もイェルマに入城してきて、マーゴットが監視をつけない訳がない。
「ご安心ください。今、トムソンさんは北の一段目におります…。」
「何で、そんなところに…⁉︎」
「申し上げにくいのですが…剣士房と槍手房のイェルメイドと…仲睦まじくお酒を飲んでいる模様です…。」
「仲睦まじくって…まさかっ⁉︎」
「その…まさかでございます。」
ヒラリーはずっこけて、デイブは大笑いした。アナは…頭の中でなかったことにした。




