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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百二十六章 村のエルフたち

四百二十六章 村のエルフたち


 ユグリウシアは、ヴィオレッタとエヴェレットにエルフの村を案内した。

 村に入ってすぐの広い場所には、巨木の大きな切り株がテーブル代わりになっていて、たくさんの綺麗な陶器の入れ物が置いてあった。そして、その場所を囲むように大きな樹木がそびえていて…見慣れたとんがり屋根の円筒形の小さな住居がまるで樹になった果実のように並んでいた。

 ヴィオレッタは言った。

「まるでリーンの『セコイアの懐』みたいですねぇ。」

 エヴェレットも感心していた。

「本当に…。リーンにいるようですわ…。」

 ヴィオレッタが古い樹々を仰ぎ見ていると、蝶々や花の形をした小さな「生き物?」がたくさん集まってきた。

「叔母様、あれは何ですか?」

「あら…セレスティシアは妖精を見るのは初めてですか?この辺りは妖精が多く棲んでいます。セレスティシアとエヴェレットを見にやって来たのでしょう…ララ、チャム、フラゥ…いっぱい来ましたねぇ。セレスティシアには妖精が見えるという事が分かっているのかしら…?」

「ふふふふ…多分、これのせいでしょう。」

 ヴィオレッタは腰のナイフを抜いて、ユグリウシアに見せた。ユグリウシアには一見してそれがミスリル製のエンチャントウェポンである事が判った。

「まぁ、こんな凄い物をどうして…?」

「手に入れたのは偶然です。ガブリス=ガルゴという人の作品みたいです。」

 その名前を聞いて、ユグリウシアは口に手を当てて笑い出した。

「おほほほほ…ガブリス=ガルゴの作品ですか。」

「…叔母様のお知り合い?」

「シーグアの棲家に居候しているドワーフです。あなた、幸運ですよ…ガブリス=ガルゴはエンチャントウェポンの名人…多分、そのナイフは伝説級アイテムですよ。」

「ほえええぇ〜〜っ…!」

 ヴィオレッタが驚いていると、メグミちゃんが背中から肩まで出てきてしきりにフェアリーを八個の目で追っていた。

「おや…その蜘蛛は?」

「私のお友達のメグミちゃんです。元々はシーグアさんの眷属で…何度も命を助けてもらいました。風の精霊シルフィは見えるようだから、フェアリーは見えているみたいですね。」

「ああっ、シーグアから聞いたことがあります。目蜘蛛だからメグミちゃんなのですね…うふふふふ。」

「メグミちゃん、ちょっと遊んでらっしゃいな。」

 ヴィオレッタが右腕を伸ばすと、メグミちゃんはその腕の上を走っていき、そこからシルフィに飛び乗って空中をシルフィサーフィンし始めた。すると、宙に浮かんだメグミちゃんの周りにフェアリーが集まってきて、しきりにメグミちゃんの体を突ついていた。メグミちゃんも応戦して、前足でフェアリーを捕まえようとしていたが、するりするりと逃げられていた。

 すると…円筒家屋から、数人のエルフが出てきて地面の上に降りてきた。みな三千歳をとうに過ぎた老エルフたちだ。

 老エルフたちは少女であるヴィオレッタを見て、話しかけてきた。

「おお…お前がログレシアス様の孫のセレスティシアか…。おそらくは…最後の純血のエルフ…よく来たねぇ…。」

 この老エルフたちは人間には興味を持っていない。だが、ユグリウシアからヴィオレッタの話を聞いており、リーンの正統で同族という事で姿を現したのだ。

 ユグリウシアが老エルフたちの紹介を始めた。

「こちらはスライ家のヒューメレク様…」

「初めまして、セレスティシアです。よろしく…」

「この方はレイブルクリュー家のアクシセイレス様…」

「セレスティシアです、よろしくお願いします…」

「こちらが…」

「…です、よろしく…」

「こちらは…」

「初めまして…」

 ひと通りの紹介が終わると…老エルフたちは急に馴れ馴れしくなって、ヴィオレッタとエヴェレットをもてなしてくれた。

「セレスティシア、こちらにいらっしゃい。私のお古だけど、シルクの肩掛けを差し上げましょう。」

「先ほど作った焼き菓子がありますよ…いかが?」

「エヴェレットには、琥珀で作ったこのネックレスをあげましょう…きっと似合うと思いますよ…。」

 古い時代のエルフたちにとって、「挨拶」や「紹介」は絶対に避けては通れない「通過儀礼」のようなものなのかもしれない。「挨拶」と「紹介」が終わらないと何も始まらないのである。

 次にヴィオレッタたちが案内されたのは「談話室」…村の奥まった所にあって、大きな円卓がひとつ置いてあった。そして…そこにはすでに、異常に肌白の赤い瞳をしたエルフがひとり座っていた。

「あっ…シーグアさん、こんなところにいたんですねっ⁉︎」

「これはこれは、ヴィオレッタさん…ご無事で何よりでしたぁ…。」

「ひ…人事ひとごとのように…。お城へ逃げ込め…とだけ言って、あとは梨の礫とか…酷いですよぉ〜〜!」

「でも、あの状況では正解でしたでしょぉ…?こちらも…目蜘蛛が潜り込めなくて、手の出しようがなかったのですよぉ…。」

「まぁ、無事だったので良しとしましょうか…それで、どうしてシーグアさんはイェルマにいるんですか?」

「もちろん…ヴィオレッタさんをお助けするためですよぉ…今回の脱出劇のメインキャストのひとつはエステリック軍の動向でしたぁ…それ如何で、悲劇にも喜劇にもなりましたぁ…。幸い、私たちより先にイェルマ軍が動いてくれたので、事なきを得ましたぁ…。」

 もし、イェルマ軍が動いていなければ…ユグリウシアがマーゴットに派兵要請をして無理矢理、イェルマ軍を動かす算段だった…。

「シーグアさん、私…ガブリス=ガルゴさんのナイフを持っているんですが、お返しした方が良いですかね?」

「クィッキィィ…貰っておきなさいな…。どうせ、もうすっかり忘れている事でしょう…。」

 ヴィオレッタとシーグアが歓談している間に、ユグリウシアがハーブティーを持って来た。

「うわぁ…このお茶、美味しい…。飲んだ瞬間から、体がポカポカする…。」

 エヴェレットも絶賛した。

「本当ですねぇ…。これは生薬が入っているようですね…美味しいわ。」

 ユグリウシアは得意げに言った。

「このお茶は私自ら、薬草やハーブを調合したものですよ。人間はもとより…特にエルフとは相性が抜群に良いお茶です。」

 ヴィオレッタが何かを思い出して言った。

「エルフと言えば…私以外の二人の純血のエルフと会いました。ひとりはレヴィストール叔父さん…ラクスマン王国とのいくさで長年、行方不明になっていて…リーンに戻って来て、その生涯を終えました…」

「おおおお…レヴィストール…私の従兄弟…。なんと、痛ましい事でしょう…。そうですか…最近まで、生きていたのですねぇ…」

「もうひとりはエスメリア=ハイデル…海のエルフです。」

「ハイデル家のエルフですか…エスメリアという名前は記憶にありません…。あの一族は魔族領に渡ったので、そこで生まれたのでしょうね。…ということは、セレスティシアとエスメリアはほぼ同年代でしょうか?」

「エスメリアさんは私より二十八歳も年上ですよ。」

「…ほぼ同年代ですね。」

「…。」

 三千年近く生きていれば…そういう見方になるか…。

「ふふふ…セレスティシア、お友達がいて良かったではありませんか。四千年を生きるということは、想像を絶するものがあります。ひとりではなかなかに難しい事ですよ…。」

 ユグリウシアの言葉を聞いて、ヴィオレッタは気がついた。

(…考えてもみなかった。そうか…私が四千年生きたら、その時にはエヴェレットさんもスクルさんもティルムさんも…みんないないんだ。いるのは…エスメリアさんだけなんだ…。)

 そう思うと、ヴィオレッタは物悲しくなって…チラリとエヴェレットを見た。

「セレスティシア様…どうかなさいました?」

 エヴェレットは不思議そうに小首をかしげていた。

 この後、シーグアが自分の書斎にヴィオレッタを連れて行ってくれた。小さな円筒家屋だったが、中の本棚にはシーグアの著作がずらりと並んでいた。

「うわっ…全部揃っているんですねっ⁉︎…壮観だわぁ〜〜…!」

「もうしばらくしたら…『第五次人魔大戦』の草稿が完成しますよぉ…。そうすれば、ここにもう一冊、加わる事になりますよぉ…。」

「素晴らしい!…また、ダントンさんの筆写事務所に製本を発注するんですか?」

「私はあそこしか製本所を知りません…まぁ、大丈夫でしょう。『人魔大戦』シリーズは発禁になったことはありませんのでぇ…。」

「…なるほど。『神の祝福』と違って、純粋に人魔大戦の資料みたいな感じですもんねぇ…。」

 そうしていると、ユグリウシアがやって来た。

「セレスティシア、今マーゴット殿の使いの者がやって来て、私たちを歓迎会に招待したいそうです…どうします?」

「ううぅ〜〜ん、あまり仰々(ぎょうぎょう)しい場所は…好きではありません…」

「どうも…あなたのための歓迎会のようですよ。あなたが主賓なのだから、行ってあげないと…。エヴェレットはたいそう喜んでいましたけどねぇ…。」

 エヴェレットは…どんな理由であれリーンの盟主たるセレスティシアが一国を訪問したのだから…「かくあるべき!」…と小躍りして喜んでいた。


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