四百二十五章 念願のイェルマ
四百二十五章 念願のイェルマ
ヴィオレッタの馬車はヒラリーたちを連れてコッペリ村に入っていった。
エヴェレットが辺りを見回して言った。
「ここがイェルマ…ずいぶん小さい村なのですね。それに…険しい渓谷ではなかったのですか?」
馬車と並走している魔道士が答えた。
「ああ…ここはコッペリ村です。まだイェルマではありませんよ。」
その時、一台の幌馬車がコッペリ村に入ってきた。幌馬車の荷台に乗っていたアナはヒラリーを見つけて、懐かしさのあまり大声で叫んだ。
「ああっ、ヒラリーさん…ヒラリーさあぁ〜〜んっ!」
「おおぉ〜〜、アナだ、アナがいるぅ〜〜っ!」
ヒラリーたちはすぐに幌馬車に駆けつけた。
「あら…デイブさん、トムソンさんも…どうして、みなさんコッペリ村にいるんですか?」
「護衛の仕事だよ。ヴィオレッタって覚えてるかなぁ?」
「…ヴィオレッタ?」
「私もアナも…ギルド会館で一度しか会ってないよねぇ…。エリーゼもまだいて、ダフネやアンネリと初めて会った頃だよ。一緒に小さな女の子がいただろ?」
「んん〜〜と…」
アナはヴィオレッタを覚えていなかった。
「まぁ、いいや。そう言うアナはなんで…?」
「あはは…私はクレリックだからねぇ…。」
ヒラリーが幌馬車の中を覗いてみると、アナと一緒に三人の重傷のイェルメイドが乗っていた。
イェルマで戦があればクレリックのアナが必ず随行する。単純なケガなら「神の回帰の息吹き」で即完治だが、そうもいかない患者もいる。この三人はこれから神官房まで行ってアナの手術を受けるのだ。
魔道士がヒラリーたちに言った。
「ヴィオレッタ様の護衛、ご苦労さまでした。とりあえず、今日のところは宿屋にお泊りください。後ほどそれなりの者が伺い、改めてお礼をさせていただきます。」
多分、ヒラリーだけならそのままイェルマに入城できたかもしれない。問題は…デイブとトムソンという男二人だった。
ヴィオレッタの馬車は400を超えるイェルメイドに護られてコッペリ村の大通りを通り、イェルマ橋を渡り、イェルマ回廊を抜けた。
眼前に聳えるイェルマ西城門を見て…「神の処方箋」で回復したヴィオレッタとエヴェレットは思った。
(とうとう来た…もうひとつのエルフの里、伯母ユグリウシアのいるイェルマに…!)
貿易商人の馬車を押し除けて、イェルメイドの軍勢は城門をくぐって城塞都市イェルマに凱旋した。門をくぐるとすぐに、マーゴットが待っていた。
「ようこそいらっしゃいました…ヴィオレッタ殿、エヴェレット殿。お二人のお越しはベロニカから聞いておりますよ…。」
ヴィオレッタは謝意を述べた。
「此度は追手から助けていただき、本当に感謝しております。」
「いえいえ…誰でもないユグリウシア殿の姪御殿…助けないわけには行きますまい…。しばし休憩されるが良いでしょう。その後、ユグリウシア殿のいらっしゃるエルフの村へご案内しましょう。」
「いえ、すぐにでもユグリウシア叔母様にお会いしたいです。これから案内していただけますか?」
「…分かりました。」
ヴィオレッタとエヴェレットは馬車から降りて、馬に乗り換えた。馬車はアンネリとジェニが北の一段目の厩舎に運んでいった。アナの乗った幌馬車から三人のイェルメイドが担架で運ばれて行くのを横目に見ながら、二人はマーゴットに先導されて北の斜面を登って行った。
北の五段目まで登ると、三人は馬を降りた。そして、険しい山道に足を踏み込んだその時、目の前にひとりのエルフの青年がどこからともなく現れた…ペーテルギュントだ。
「セレスティシア、待ってたよ。ユグリウシア様がお待ちだよ。」
ヴィオレッタとエヴェレットは驚いた。金色のストレートヘアー、尖った耳、綺麗なライトグリーンの瞳…純血のエルフだ。
マーゴットも驚いていた。
「何と…ヴィオレッタ殿の到着をユグリウシア殿は知っておられたのか⁉︎…ん、今、ペーテルギュント殿はセレスティシアと言ったかえ?…その名前はリーン連邦の盟主の名前のはずだが…。」
ヴィオレッタは少し躊躇って…言った。
「セレスティシアは…両親から頂いた私の本当の名前です…。」
「おおっ…まさか、あなた様が…。これは迂闊でした…失礼あらば、どうぞお許しください。」
(…ベロニカの奴めぇ…一番大事な部分を抜かしおってぇ〜〜…!)
「失礼なんて…どうぞ、お気になさらずに。」
エヴェレットは、ヴィオレッタが一国の元首としてそれ相応の待遇を受けている事が、自分の事のように嬉しかった。
マーゴットは慌てた風で言った。
「エルフの村への案内はペーテルギュント殿にお任せいたしましょう…私はすぐに戻って、この事を女王のボタン様に伝えねばなりません…。」
ヴィオレッタがユグリウシアの姪…それで済む話であれば、マーゴットは慌てなかった。しかし、ヴィオレッタがリーン族長区連邦の盟主セレスティシアとなると、その扱いについて「四獣会議」で協議せねばならない。
ペーテルギュントの案内で、ヴィオレッタとエヴェレットは急な山道をどんどん登って行った。
馬車酔いから解放されたヴィオレッタは「水渡り」で軽快に急斜面を登っていたが…逆に今度はエヴェレットがお荷物になっていた。ヴィオレッタはリール女史を取り出して、「水渡り」ができないエヴェレットの体を支えて一緒に登った。
「あ…ありがとうございます…はあっ、はあっ…。」
ペーテルギュントはすぐに気がついた。
「おや…セレスティシアは『水渡り』の達人のようだねぇ…あははは、僕のシルフィを持っていかれちゃったよ。」
「ふふふ…エンチャントアイテムのおかげですよ。」
「…ん?」
三十分ほどして、三人はエルフの村の入り口に到着した。そこにはユグリウシアが待っていた。銀の髪、尖った耳、コバルトブルーの瞳…ヴィオレッタはひと目で判った。
「あなたが…ユグリウシア叔母様ですか?…初めまして、姪のセレスティシアと申します…。」
「おお…セレスティシア、よくぞ無事で…!…本当に妹のレヴリウシアにそっくりだ事…。ああ、あなたはエヴェレットですね⁉︎お別れした時はあんなに小さかったのに…美しくなりましたねぇ。」
「ああっ…ユグリウシア様、覚えています…覚えていますとも!…小さな私をよく抱っこしてくださいました、草笛の作り方鳴らし方を教えていただきました…。お久しゅうございます…まさか、生きて再び会えるとは…」
エヴェレットはユグリウシアの手をとり感極まって…はらはらと涙を流した。
マーゴットはすぐに「四獣」を招集した。
鳳凰宮に集まった「四獣」はすぐに「四獣会議」を開いた。
ボタンが言った。
「マーゴットさん、報告を聞こうか?」
「はい…昨夜、我が軍430名が出撃いたしまして、エステリック兵の一個大隊を殲滅いたしました。その後、ユグリウシア殿の姪御であるヴィオレッタ殿をお救いするために、ティアーク兵約500と交戦…これを殲滅いたしました。こちらの損耗は軽微…軽傷者は多数おりますが、重傷者は3名にとどまりました…。」
「ふむふむ…素晴らしい戦果じゃないかっ!それでは、ユグリウシア殿と姪御さんを招いて、今晩は祝勝会でもやろうじゃないかっ‼︎」
「…お待ちください。祝勝会よりも…大々的な歓迎会をせねばなりませぬやも…」
「…歓迎会?…どういうことだ?」
「はっ…お救いしたユグリウシア殿の姪御殿は…実は、リーン族長区連邦の盟主でございました…!」
「ええと…リーン?…盟主?」
「リーン族長区連邦は我がイェルマと同じく、同盟国と敵対しておる国です…。」
「なに、それは本当か⁉︎…是非、話を聞きたいな…同盟関係を結ぶことができれば心強いな…」
「その通りでございますっ!」
あっという間に、全会一致でヴィオレッタを「最恵国待遇」とする事となり、イェルマ挙げての大々的な歓迎会を開催する事が決定した。




