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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百二十四章 雑話 その7

四百二十四章 雑話 その7


 ボタンは言った。

「これはぶっち切りだろう…ねぇ、アナ殿?」

「そうですね、私もロミナの歌が一番心に響きました…。」

 建国祭一日目の房対抗隠し芸大会が終わり、「四獣」と「食客」が集まってどの房の余興が最も優れていたかを協議した。その結果、やはり生産部のロミナの歌が満場一致で一等賞となった。

 ボタンはステージまで歩いていくと、金貨十枚が入った皮袋を持った右手を高く掲げて大声で叫んだ。

「もう、みんなも予想しているだろうが、今年の余興大会の一等賞は…生産部、ロミナの歌だっ!」

「うおおおぉ〜〜っ…‼︎」

パチパチパチパチパチパチ…

 歓声が上がり大喝采が起こった。

 会場の隅っこにいたロミナとジニーは目を丸くして驚いていた。

「ロミナ…一等、一等賞よっ!私はロミナが一等を獲るって信じてた…信じてたけど、ホントに獲ってビックリだわっ!…さっ、早くステージに行きなさいよっ‼︎」

「えっ…?」

「ほら、賞金を貰って来なさいよ!」

 ジニーはロミナの腕を掴むとズカズカとステージまで引っ張っていき…ロミナの背中を両手でポンと押した。背中を押されたロミナはステージに登って、ボタンから賞金を受け取った。

「おめでとう、ロミナ!」

 再び、歓声と拍手が巻き起こった。

 ボタンは続けて言った。

「あなたの声は…建国祭の余興大会で披露するだけというのは、非常に勿体無いと思う…。どうだろうか…来賓や式典、祭典の度に歌ってもらいたいのだが…。望むなら、『食客』待遇にしてもいいぞ。」

「あ…ありがとうございます。…でも、もう決めていますので…私は今の待遇以上に何も望みません。なので、『食客』は辞退いたします。今まで通り、生産部で仲間と一緒に働きたいです。…でも、私の歌が必要になったらいつでも私を呼んでください、私はどこへでも行って…みなさんのために歌います。」

「そうか…あなたの歌が美しいのは、あなたの心が美しいからなんだな。」

 その言葉を聞いて…なぜかロミナの目に涙が溢れた。そして、三度みたび、歓声と拍手が巻き起こった。

 農産部門に戻って来たロミナは仲間みんなに祝福された。

「やったね、ロミナッ!」

「ああぁ〜〜ん、私も会場でロミナの歌を聴きたかったわぁ…。」

「賞金の金貨十枚は…何に使うの⁉︎」

 ロミナはみんなにお礼を言って、農産部門のリーダーのドーリーに金貨十枚の入った皮袋を差し出した。

「これは生産部のみなさんで分けてください…。」

「えっ、歌ったのはロミナだろう…これはお前のものだよ。」

「私が成功したのは…みんなのおかげです。今まで、甘えた考えの私を生産部の人たちは我慢して使ってくれて…生かしてくれてたんです。だから…これはみんなで分けて欲しいんです。」

「ふむ、分かった…じゃぁ、私が預かっておこう。生産部で何かあった時にロミナの賞金を使わせてもらうよ。」

 ジニーが言った。

「えええぇ〜〜…勿体ないなぁ、ちょっとぐらい使おうよ…。とりあえずさ、ヤギ一頭買ってきてさ、丸焼きにしてお祝いしようよぉ〜〜っ!」

「バカタレェッ!」


 ガルディン公爵は報告を受けた。

「何ぃ…まだ、ヴィオレッタは見つからんじゃとっ⁉︎どこを探しておるんじゃ、もっとよう探せ、空き家から納屋まで…隅々まで探せっ!」

 ヴィオレッタがジェローム侯爵の馬車から逃亡して数時間が過ぎていた。

 ガルディン公爵はふと思った。

(もしや、小娘め…城下町に逃げたと見せかけて、この王宮に逃げ込んだか?あの者はエルフ…儂らの知らぬ魔法を使って王宮に忍び込むことも可能かもしれん…王宮内も探すか…。)

 公爵は騎士兵を総動員して、王宮内を捜索させた。そしてさらに、近衛兵の詰所に向かい近衛兵たちに命令した。

「王宮内に不審な者が忍び込んだ可能性がある…すぐに近衛全軍をもって捜索してもらいたいっ!」

 詰所には王国近衛兵団長のパトリックがいた。パトリックは椅子から立ち上がると、ガルディン公爵に詰め寄って、そして言った。

「…宰相殿、勅書をお見せください。」

「うっ…」

(おっと、こ奴がおったかぁ…融通の利かん奴めぇ…。)

「我々、近衛は国王陛下の私兵でございます。国王陛下の勅命、もしくは勅書がなければ動くことはできません。それは宰相殿もよくご存知のはず…。」

 近衛兵は国王直属の軍隊である。これは国の法律で決まっており、国の軍隊である王国騎士兵団や王国義勇兵団からは独立していて別の命令系で動く。

 騎士兵団や義勇兵団は軍務尚書の管轄で、軍務尚書の命令で動く。なので、軍務尚書の上司に当たる宰相…つまり、ガルディン公爵の命令でも動かす事はできる。

 しかし、近衛兵団は違う。近衛兵団は国王の命令でしか動かない。その理由は、近衛兵団は「対クーデター」のための軍隊だからである。王国で内乱が起きた場合、王国軍が寝返って王族に危害を加えることがままあるのだ。

 そこで国王は絶対的な忠誠を誓わせた軍隊…近衛兵団を私兵にすることを法制化している。なので、近衛兵団はエリートであり、王国軍の中でも非常に良い待遇を受けている。

 ただし、この制度にも副作用がある。それは…どんなに悪辣非道な暴君であっても、近衛兵はその国王のために戦わなくてはならないという事だ。場合によっては、国王を護るために国民をも手に掛けなければならない。

 ガルディン公爵は口ごもりなが言った。

「…勅書は後で持ってくる。とにかく急ぐのだ、すぐに王宮を捜索…」

「いいえ。勅書が先でございます。」

「くううぅっ…!」

 ガルディン公爵は近衛兵団の詰所から飛び出していった。そして…しばらくして、ビヨルム国王に勅書を発行してもらい、再び近衛兵団の詰所を訪れた。

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