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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百二十三章 大脱出! その8

四百二十三章 大脱出! その8


 イェルマはもう目と鼻の先だというのに…ヴィオレッタの馬車はティアーク王国の騎士兵団の騎馬に追いつかれてしまった。

 後方約200mに騎士兵の騎馬が見えた。

 ヒラリーが叫んだ。

「敵襲ぅ〜〜っ!追いつかれたぞっ‼︎」

 約500騎の騎士兵が猛烈に追い上げてきていた。アンネリは手綱を握って馬車馬を全速力で走らせていた。

 ジェニはコンポジットボウに矢をつがえて馬車の御者台に立って後方に狙いを定めていた。敵が100m以内に入ったら射つ。

 ヴィオレッタは先ほどまでずっと「吊り下げ式」を使っていて魔力を使い果たし、その上馬車酔いが酷くて、魔法どころでななかった。

 その代わり、エヴェレットが大奮闘していた。

「名もなき神、万物の創造神の名において命じる…地の精霊ノームよ、冥府より這い出でて敵をその虎バサミで拘束せよ…縛れ、アーストラップ!」

 街道に穴が現れて、一頭の騎馬の脚を捉えて転倒させた。そして、その転倒した騎馬は後続を巻き込んで、数頭を戦線離脱させた。

 追手との距離が100mに近づいてきて、騎士兵たちが弓を構えて馬車に向かって一斉に矢を射ってきた。

 数十本の矢が馬車の上を飛んでいき、その中の一本が馬車の後部に突き刺さった。ジェニは弓を構えて御者台の上に立って言った。

「…これだから素人の弾幕アーチャーは…。射程に入ってから射ちなさいよ!」

 ジェニは「イーグルアイ」を発動させ、狙いを定めて「マグナム」で追ってくる騎士兵を矢で射った。

カァーンッ…!

 矢は騎士兵の兜を直撃して、騎士兵はその反動で落馬した。

 ジェニはすぐに二本目を放った。矢は騎士兵の胸に突き刺さり、そのまま落馬していった。

 エヴェレットの魔法とジェニの矢で、追手の数は着実に減ってはいるものの…絶対数が多いので、見た目、減っていっているようには見えなかった。まさに多勢に無勢だった。

 ヴィオレッタがムクリと起き上がり、馬車の後方の窓からリール女史を突き出して叫んだ。

「ブロウッ!…ぐふっ…ぷ…おええぇ〜〜、おええぇ〜〜…」

 ヴィオレッタが無詠唱で風魔法「ブロウ」を放った。追手の騎士兵たちは突然の突風を食らって、陣形を崩し…ドミノ倒しのようにバタバタと落馬していった。

 エヴェレットが慌ててヴィオレッタを介抱した。

「無理をなさいますなっ!」

「うぷぷ…いえ…魔力が回復したら…またやります…おえっ、おええっ…」

 騎士兵たちはすぐに陣形を立て直して追ってきた。ジェニが矢を放つも、騎士兵たちは「風見鶏」のスキルを持つ剣士職を前に押し出して、ジェニの矢を防いだ。彼らも学習している。

 ヒラリーが叫んだ。

「そろそろ、並ばれる…デイブ、トムソン、フードを深く被れっ!」

 ヒラリー、デイブ、トムソンは外套のフードを深く被って顔を隠した。もし、騎士兵たちと交戦することになれば、顔を見られてオリヴィア、レイモンド、ダスティンではないことがバレてしまい…その上、自分たちもお尋ね者になってしまう。

 騎士兵のひとりが馬車に追いついて、ロングソードを馬車の車輪に突っ込もうとしていた。すぐにトムソンが後ろに下がってきて、斧でその騎士兵を殴って落馬させた。トムソンは叫んだ。

「まずいぞ…もう、こりゃ…時間の問題だぁ〜〜っ…!」

 その時、御者のアンネリが前方を見て叫んだ。

「うひゃっ!前方にも…敵がいるっ‼︎」

「な…何だってえぇ〜〜っ⁉︎」

 前方数百mに…多数の人影が見えた。

 ヴィオレッタは観念した。

(ああ…エステリックの兵隊が挟撃するために出てきたのか…。あと一日の差で、脱出失敗か…)

 一本の矢が飛んできて…今にも馬車に取りつこうとしている騎士兵の頭部を貫いた。

「…えっ?」

 また一本飛んできて、後方の騎士兵の盾に深く突き刺さった。

「こ…これは…味方?」

 すると、十数本の矢がヴィオレッタの馬車の上を飛び越して、騎士兵団の上に降り注いだ。

 前方の集団の中に、高見櫓のような梯子が三本立てかけられていて、その梯子いっぱいにイェルメイドのアーチャーが登って弓を射っていた。梯子の一番上には遠距離射撃の名手、タチアナがいた。

 ジェニは「イーグルアイ」でタチアナを見つけると、半べそをかきながら叫んだ。

「タチアナ師範だ、タチアナ師範がいる…あれはイェルメイドの軍勢よっ!」

「おおおおぉ〜〜っ…た、助かったのかっ⁉︎」

 ランサーの投擲が始まった。無数の槍が馬車の横を抜けて、騎士兵団を襲った。「スピア」のスキルで投擲された槍は強力で、盾を貫き、うまく防いだとしても落馬は免れない。追手の騎士兵たちはバタバタと落馬していった。

 イェルメイドの大部隊を率いていたのは隻眼のベレッタだった。

「よっしゃあぁ〜〜…全軍、突撃いぃ〜〜っ!一匹も生かして帰すなあぁ〜〜っ‼︎」

「おおおうっ!」

 馬車の横を400名のランサーの騎馬がすり抜けて、追ってくる騎士兵に突撃していった。五日間の追跡行で疲弊していたティアークの騎士兵団はひとたまりもなかった。

 ベレッタは先頭を切って、青龍刀を振り回しながら騎士兵たちを血祭りにあげていった。それに倣って、イェルメイドの中で最も勇猛と謳われるランサーたちがすれ違い様に騎士兵たちを槍で突き殺していった。

 イェルメイドの戦士たちは接敵するやいなや、「ウォークライ」の多重攻撃を仕掛け、意識朦朧となった騎士兵を後続の剣士たちが首を刈っていった。

 ヘロヘロの騎士兵たちを一蹴し、ベレッタの軍勢はさらに直進して…後からやってくる補給部隊の大型荷馬車をも襲撃した。…こうして、ティアーク王国騎士兵団の追撃部隊は全滅した。

 部隊に参加していた魔道士がヴィオレッタの馬車に近づいてきて言った。

「こちらはユグリウシア様の姪御様…ヴィオレッタ様の馬車でしょうか?」

 ぐったりしているヴィオレッタの代わりにエヴェレットが答えた。

「はい…その通りでございます。」

「そうですか…。」

 その魔道士はイェルマに「念話」を飛ばした。

 追手の掃討から戻ってきたべレッタの部隊はヴィオレッタの馬車を護衛してコッペリ村に入っていった。

 ベレッタはヴィオレッタの馬車に随走する馬上のヒラリーを見つけた。

「…おっ、お前…レイピア使いか…?」

「あっ…ベレッタ師範⁉︎お…お久しぶりですぅ〜〜。」

「お前、ヴィオレッタを護衛して来たのか?」

「はい…ヴィオレッタはちょっとした知り合いでして…あははは。」


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