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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百十九章 大脱出! その5

四百十九章 大脱出! その5


 次の朝、馬車はゆっくり走っていた。できるだけ馬車を揺らさずに、無理をせずに一定の速度を保っていた。

 ヴィオレッタの体調が思わしくなく、昨晩は馬車を停めて野宿した。伏兵ポイントを通過して、また再び追手との距離が開いたという安心感からだが…もうひとつは、すぐに補給ポイントがあるからだ。

 昨夜、ベロニカからエヴェレットに「念話」があった。伏兵が奇襲をして、オリゴ村付近で追手の一晩の釘付けに成功した事を伝えて来た。追手の数は約600人強であることも…。ヴィオレッタと追手の差は約1日だ。

 街道を走っていると、脇の林の中から男が飛び出してきて手を振っていた。

「あんたたち…ヒッコリーの人か?」

 ヒラリーは答えた。

「ああ、そうだ。」

「こっちだ、こっち。」

 ヒッコリーは合言葉だ。ユーレンベルグ家の紋章がヒッコリーである。

 ヒラリーたちは馬車のながえから馬を外して林の中に連れて行った。すると、男のそばには食料と水を積んだ五頭の馬がいた。

「主人に礼を言っておいてくれ。」

 そう言って、ヒラリーたちは自分たちの馬をその場において、新しい馬たちを引っ張って行った。

 馬を交換すると、馬車は軽快に走り出した。

 アンネリは馬車を操りながら、ヴィオレッタに言った。

「さすがだね、ヴィオレッタさん。急ぎの旅をする時は、重要なのは馬だからね…こっから先、何度か馬を取り替えられるから、いくら軍馬でも追いつけないんじゃないかな?この一日の差をキープしてれば、私たちの勝ちだね。」

 ヴィオレッタは自信なさげに答えた。

「…だといいんだけどねぇ。」

 お昼を過ぎて…また、ヴィオレッタの具合が悪くなってきた。

「う…うぐぐ…うぷっ、ぐはあぁ…!」

 エヴェレットが叫んだ。

「ば…馬車を停めてくださいっ!」

 馬車が止まると、エヴェレットはすぐにヴィオレッタに「神の処方箋」を掛けた。

その様子を見ていて…ヒラリーを始めとする他の仲間は同じ事を考えていた。

(まずい…この調子だと、追手に追いつかれてしまう…。)

 気分を持ち直したヴィオレッタは言った。

「うう…馬車の振動が…どうも…。このままじゃ、追いつかれてしまいますね…。何とかしないといけません…。」

 ヴィオレッタが途方に暮れていたその時、メグミちゃんがヴィオレッタを心配して「念話」を送ってきた。

(ヴィオッタ…だいじぶ?ね、だいじぶ?)

(だ…大丈夫よ…大丈夫じゃないけど…。)

(メグミちゃん…何かするよ?…頑張るよ?)

 蜘蛛のメグミちゃんに頑張ってもらって…何か、できる事があるかなぁ…?

 その時、ヴィオレッタは閃いた。蜘蛛のメグミちゃんならではの…メグミちゃんにしかできないことがあった!

 馬車は再び全速力で走り出した。

 馬車の中では、ヴィオレッタは右手でエヴェレットと手を繋ぎ、左手には「リール女史」を握り締めていた。そして、馬車の屋根の裏にはメグミちゃんがしがみついていて、幾本もの蜘蛛の糸でヴィオレッタを吊り下げて、ヴィオレッタは馬車の座席から10cmほど浮いていた。「水渡り」で体重をほぼゼロにしたヴィオレッタは馬車の中で宙に浮いた状態になっていたのだ。馬車の振動はメグミちゃんの蜘蛛の糸がスプリングになって吸収してくれる。宙に浮いているとはいえ、多少上下左右に揺れるが、そこはエヴェレットが手を握ってくれていることで抑えてもらうという寸法だ。

「これなら…馬車の振動を感じない!…この状態を維持できるのはせいぜい三時間…その間にできるだけ距離を稼いでくださいっ‼︎」

「分かったっ!」

 御者のアンネリは馬に鞭をくれた。


 朝、約600強の王国騎士兵団の追撃部隊は轟音を響かせながら出発した。

 それを遠くの林の中からベロニカとケリー率いるランサーたちが見ていた。

「私たちはこれからイェルマに帰るけど、ベロニカさんはどうするんだ?」

「私はティアークに戻るよ。実は、密偵として来てるからねぇ…解任されない限りは任地から動くことができんっ!」

「…ご苦労なこった。で、私たちの護衛料諸々はどうなるんだろうか?」

「今、オリヴィアとケイトがティアークに残ってるから、彼女たちがカネを預かってイェルマまで持って帰ることになるのかしら…?」

「…うう…オリヴィアさんか…不安しかない。」

「とにかく、あんたたちはイェルマに帰りな、ご苦労さん。」

「分かった。…んじゃね。」

 ベロニカとランサーたちはここで別れた。

 ベロニカはすぐに詳細な事情を「念話」でマリアに送って、ゆっくりとティアークに戻った。

 ランサーたちは奇襲で疲弊している馬とボロボロの槍一本を携えて帰路についた。今は夏の走り…サバイバル訓練を受けている彼女たちは、林の中に入れば食料や水には事欠かない。ランサーたちもまたゆっくりゆっくりとイェルマに帰る。


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