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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百十七章 大脱出! その3

四百十七章 大脱出! その3


 太陽が西に傾き、今にも夜のとばりが降りてこようとしていた。ヴィオレッタたちの馬車は快調に街道を走っていた。

 しかし、馬車の速度が急にガクンと落ちた。突然、重さを感じた馬は驚いていななき、早駆けから並足になった。御者をしていたジェニは一生懸命手綱を操って馬を制御した。

「うわ…うわわっ!馬さん…突然どうしたのっ⁉︎」

 アンネリが手綱を取って、とりあえず馬車を停止させた。馬車が止まっても馬車の中のヴィオレッタとエヴェレットが何も文句を言ってこなかったので…アンネリは馬車の中を覗いてみた。ヴィオレッタが…死に掛けていた。

 ぐったりしているヴィオレッタを見て、アンネリは慌てて言った。

「おいおいっ…ヴィオレッタ、どうしたんだよっ!」

 エヴェレットがすかさず言った。

「…馬車酔いです。セレスティシア様は…船は大丈夫みたいなのですが、馬車は苦手のようで…」

 ヴィオレッタが馬車酔いでダウンしてしまったので「水渡り」が解けて、ヴィオレッタとエヴェレット二人分の体重を突然感じた馬が驚いてしまったのだ。

 すると、先行していたヒラリー、トムソン、デイブの騎馬が戻ってきた。

 ヒラリーが言った。

「どうした…?」

「ヴィオレッタが馬車酔いだってさ…。」

「そっか…そりゃ、仕方ないな…。」

 ヒラリーはデイブに追手の様子を探ってくるように頼んだ。デイブは後戻りして馬を走らせた。

「うう…うううぅ〜〜…うぷっ、ぐええ…」

 嘔吐えずいているヴィオレッタを気遣ってエヴェレットが手拭いで優しく顔を拭いてあげていた。

 しばらくするとデイブが戻ってきた。

「追手はまだ…姿形も見えないのぉ…。」

「そうか…なら、少し休もう。今のうちに夕食を摂って、馬にも水をやろう。」

 ヒラリー、トムソン、デイブは手分けして馬を脇の林の中の岩清水が作った水場に連れて行き、水を飲ませた。その後、連れて来た予備の馬四頭から二頭を選んで、馬車馬を交換した。

 エヴェレットはヴィオレッタに「ヒール」を掛け、さらに状態異常を改善する神聖魔法「神の処方箋」の呪文を唱えた。

「セレスティシア様、ご気分はいかがですか?」

「…うん、だいぶ良くなった…ありがとう、エヴェレットさん…。」

「ここで、しばらく休むそうですよ。夕食にしましょう。」

 みんなは馬車に積んでいたパンとチーズを食べた。


 その頃、修復されたティアーク王城の正面城門から一個師団の王国騎士兵団が出発した。六頭曳きの大型荷馬車に食糧と水を満載し、予備の馬を数多あまた引き連れて、625名の騎士兵が馬に騎乗して進軍した。

 無数の松明を掲げて、王国騎士兵団の軍勢は東の街道を夜通し騎行して、ヴィオレッタの馬車を追撃した。先発していた約150名の騎士兵を途中で吸収し、その数は800近くになった。


 夜が明ける前に、ヴィオレッタたちは軽い朝食を摂って馬車を出発させた。そして、昼頃にはオリゴ村の近くに到達した。

 ヴィオレッタは必死で「水渡り」をやっていたが、二、三時間走ると馬車酔いで気分が悪くなり、エヴェレットの膝枕で嘔吐と格闘した。エヴェレットが「神の処方箋」を掛けると回復するのだが、しばらく走るとまた気分が悪くなった。これを繰り返していたので、エヴェレットはヴィオレッタを憂いて御者のアンネリに言った。

「…もう少し、ゆっくり走っていただけませんか⁉︎」

「いや…そんな事したら、追手に追いつかれちゃうよっ!」

 ヴィオレッタは言った。

「…こ…ここが正念場です…私の事は気にせずに馬車を…おええぇっ、うえぇ…うぷぷ…」

 すると、エヴェレットの頭の中で言葉が響いた。それはベロニカの「念話」だった。それを受けて、エヴェレットは並走するヒラリーに言った。

「もうしばらく進んだら…こちらの伏兵がいるそうです…。」

「そうかぁ…!ランサーたちだな、良いタイミングだ。そこを越えたら、少しゆっくり走ろうか。」

 先行したヒラリーが街道の脇の林の中で、手を振るベロニカの姿を見た。

(おっ、この辺りにランサーの伏兵を潜ませているのか…。頼んだぞ、追手を蹴散らしてくれよぉ〜〜!)

 ヴィオレッタたちの馬車と王国騎士兵団の追手の距離は次第に縮まっていた。それは…鍛え抜かれた兵士と馬の差だった。

 騎士兵たちは不眠不休で馬を走らせていた。馬上でパンや水を摂り…小ぐらいならそのまま用を足した。軍馬は馬の中から選抜された「選りすぐり」で、その上に訓練されて足も早く、持久力も高い。それでも軍馬が疲れると、隊列を止めて荷馬車に積んできた水を馬に与え予備の馬に交換する。

 日が暮れた頃、王国騎士兵団の軍勢はオリゴ村付近を通過した。

 さらにしばらく走ると…先頭を走る騎士兵が後ろの列に向かって叫んだ。

「障害物発見…止まれぇ〜〜、全軍止まれぇ〜〜っ!」

 松明を持った騎士兵が馬から降りて、街道の真ん中に放置された物を確認した。横倒しにされた五台の荷馬車がバリケードのようにして街道を塞いでいた。

「…事故でも起こしたのか?それにしても、不自然だな…。」

 十数人の騎士兵が馬から降りて、荷馬車を撤去しようとしたその時…夜の空から強く光を放つ光球がひとつ落ちてきて、騎士兵たちのど真ん中に着弾した。

ズドドォ〜〜ンッ!

 それはベロニカが放った「ファイヤーボール」の火球だった。火球は地面に落ちると爆裂して…直撃を受けた騎士兵は致命傷、周りにいた者も火の飛沫しぶきを浴びて火傷の重傷を負った。

「敵襲、敵襲うぅ〜〜っ!魔道士の伏兵がいるぞぉ〜〜っ‼︎」

 騎士兵たちが盾を構え剣を抜いたその時、両側の街道脇の林の暗闇から多数の「何か」が飛来してきて数人の騎士兵を串刺しにしていった。林の中に伏せていたランサーたちの「スピア」のスキルで投擲された槍だ。

 二回の投擲が終わると、六人のイェルメイドは騎馬で騎士兵団の隊列に突っ込んでいった。

 ランサーのリーダーのケリーが叫んだ。

「みんな、無理するなよぉ〜〜…馬を狙えっ!」

 ランサーたちは縦横無尽に槍を振り回し、騎士兵たちや馬を突き刺し、殴り倒し、翻弄した。そして、15分ぐらいの戦闘を終えてサッと引き上げていった。約800の騎士兵団を全滅させるのはさすがに無理だ。足止めができればそれで良い。

 ケリーは引き上げながら、みんなに言った。

「みんな、揃ってるか⁉︎…ケガをした者は?」

「エダが肩に軽傷を負った…大したことはない。」

「そうか、まずまずだな…ベロニカさんに『ヒール』をもらったら、もう一回行くぞっ!」


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