四百十六章 大脱出! その2
四百十六章 大脱出! その2
ティアーク城下町の南門に一個大隊…125人の騎士兵がやって来た。王宮の東城門から出撃した兵隊たちだ。
大隊長が通せんぼをしているオリヴィアたちに向かって言った。
「お前たちはヴィオレッタ逃亡に加担した一味だなっ⁉︎」
「それがどうしたっ!」
「お前たちはたったの四人…大人しく降参しろ、そして、我々を通せっ!」
「このオリヴィアさんを抜いて…通れるもんなら、通ってみなさい!」
「…偽王妃めぇ〜〜っ!」
騎士兵が馬を降りてオリヴィアたちと対峙すると、憲兵も集まってきて…その数は150を超えた。
「上等だぁ〜〜っ!但し、この数だと…手加減出来ないから、どんどんぶっ殺していきますっ‼︎」
オリヴィアは三つのスキルを発動させた。
レイモンドとダスティンはアンネリの忠告に従って、ティモシーを抑えて少し後方に下がった。
「ゲーモン行くぞぉ〜〜っ!」
(ゲーモンって、何だ…?)
ドオォ〜〜ンッ!ビュンッ…‼︎
オリヴィアは盾を前に立てて迫ってくる軍勢に突っ込んでいき、右足を強く踏み込み、それと同時に拳撃の代わりに槍を水平に振った。「震脚」で十人以上が戦闘不能になり三人が砂蟲の歯を食らって血飛沫を上げた。
「うぎゃっ…!」
ドオォ〜〜ンッ!ビュンッ…‼︎
ドオォ〜〜ンッ!ビュンッ…‼︎
「迎門三不顧」が完成した時には、四十人近い騎士兵や憲兵が地面に倒れていた。それを見て、レイモンド、ダスティン、ティモシーも敵陣のど真ん中に割って入って肉迫した。
ティモシーは戦闘が始まるとすぐに「ダークフォッグ」を纏った。ティモシーが素顔で戦闘に参加すると非常にまずい…。ティモシーをエヴァンジェリン王妃に引き合わせたのはユーレンベルグ男爵である。ガルディン公爵に追求された時に、いざとなれば、男爵はティモシーは人質に取られて連れ去られたと言い逃れをするつもりだったので、ティモシーは被害者で…行方不明になってもらわなくては困るのだ。
斥候たちは二本のナイフを巧みに操って、鎧で防御されていない喉や脇の下を切り、突き刺した。時に「シャドウハイド」で姿を消し、時に「セカンドラッシュ」で加速してどんどん敵を屠っていった。騎士兵たちは、あまりの火力差で何が起こったのかすら分からず…ただただ茫然として斥候たちのなすがままだった。
その時だった。騎士兵の後方で雄叫びが響き渡った。
「ウオオオオオォ〜〜ッ!」
それはケイトの「ウォークライ」だった。
後方から無防備な状態で「ウォークライ」を食らった十数人の騎士兵たちはバタバタと失神して倒れていった。錯乱状態に陥って、呆然として立っている騎士兵たちの頭部をケイトは片手斧で無慈悲に殴っていった。
オリヴィアも砂蟲の歯の槍をぶん回して、金属鎧ごと兵士を切り刻んだ。偶然命中したロングソードも、オリヴィアのドレスを切り裂くことはできても、「黄巾力士」を発動させたその肌に傷をつけることはできなかった。
あっという間に騎士兵の三分の二が地に倒れ伏した。恐怖に駆られた騎士兵と憲兵はオリヴィアたちから距離を取って…後方でひとつに固まった。大隊長はすでに斃れていて命令を出す者もおらず、ただオリヴィアたちと対峙しているだけで、誰ひとりとしてオリヴィアたちに攻撃をしようとする者はいなくなった。
レイモンドとダスティンが息を切らせてオリヴィアとケイトのそばにやって来た。
「あ…あんたら強いなぁ…。」
「…今まで、エビータさんが最強の女だと思っていたが…あんたら、勝るとも劣らないよ!」
オリヴィアが笑顔で言った。
「ふふふふ、ありがとおぉ〜〜…で、エビータって…誰⁉︎」
人の名前を覚えるのが苦手なオリヴィアだった。
すると、ボロボロの騎士兵たちの後方に、土煙をあげて新たな一個大隊が現れた。ラクスマンの街道を封鎖していた隊だ。
「オリヴィアさん、ケイトさん、そろそろ引こう。これだけ追手を釘付けにすれば上等だ。俺たちの仕事は終わった。」
「そ…そうね。このくらいで勘弁してやるか…。」
やはり、前衛はヒーラーがいないときつい。オリヴィアたちの体力は半分を切っていた。
「あ〜〜み〜〜だ〜〜ばぁ〜〜…」
オリヴィアは右の手のひらを胸の前で立てて、そうひとこと言うと…レイモンドたちと共に城門の外へと逃げ去った。
ヴィオレッタたちの馬車はオリゴ村に至る東の街道を矢のように走っていた。今のうちに距離を稼いでおきたいヴィオレッタは、メグミちゃんに預けていた「リール女史」を取り出して、力一杯に「水渡り」状態をキープして自分とエヴェレットの体重をゼロにしていた。そのおかげで、馬車は風のようにもの凄い速度で街道を爆走した。馬車には四人以外の荷物を積んでいない。
御者台のアンネリが前方に三騎の騎馬を発見した。それは…ヒラリー、トムソン、デイブだった。ヴィオレッタの逃亡馬車を護衛する三騎…オリヴィア、レイモンド、ダスティンの替え玉でもある。
「おぉ〜〜い、ヒラリーさぁ〜〜ん…」
「おおっ、アンネリ。うまく脱出できたみたいだね、良かった良かった。これから、私たち三騎で露払いをやるよ。」
「あ…お願いっ!」
ヒラリーたちは馬車のずっと前を先行して、街道の旅人や商人の馬車に注意喚起をして回った。
「暴走馬車がやって来るよぉ〜〜っ!譲って、譲って…脇に逃げて〜〜っ‼︎」
オリヴィアはズタズタになったシルクのドレスを脱ぎ捨てて、そのドレスを勿体なさそうに見つめていた。
「ああ…せっかくのシルクだったのにぃ〜〜…」
それを見ていたケイトはオリヴィアを慰めた。
「まぁ、仕方ないじゃない…私たちイェルメイドにはシルクは似合わないわよ。」
「いやっ!…わたしに限って似合いますっ!なんたって…わたしは未来のシルク工場の社長夫人ですからっ…‼︎」
オリヴィアは例によってアンダースコートだけの体に外套を羽織って、ピタリと前を閉じた。そして、ケイト、レイモンド、ダスティン、ティモシーと一緒に王国騎士兵団一個大隊の後ろ姿を見送って…こっそりと城門を抜けて冒険者のギルド会館に戻っていった。
オリヴィアたちがギルド会館に入ると、それをレイチェルが見つけて、すぐに二階のギルマスの部屋に案内した。
ギルマスの部屋には、ホーキンズ、ユーレンベルグ男爵、そしてエビータがいた。
ティモシーがエビータに駆け寄った。
「母さん、無事だったんだね…」
「あのくらい、どうってことはないよ。そっちの首尾はどうだったんだい?」
「うん、うまくやったよ。」
エビータは正面城門の扉を落とした後、城壁を二本のナイフを使って登り脱出していた。
オリヴィアは胸をはだけてソファーにドカッと座ると、レンチェルに言った。
「レイチェルゥ〜〜、喉乾いたぁ〜〜…ビール持ってきてぇ〜〜。」
「ううっ…!」
眉間にしわを寄せたレイチェルに、ホーキンズは目配せをして手を振って追い払った。レイチェルはすぐに戻ってきて、女物の衣服をオリヴィアに投げてよこしてビールのジョッキをドンッとテーブルに置いて部屋を出ていった。
オリヴィアはジョッキを手に取ってゴクゴクと飲んだ。
ホーキンズが言った。
「オリヴィアよ、ビールより先に…服を着てくれんか。その大きな胸がチラチラ目に入って気が散る…。」
「だって…喉が乾いてたんだもん。」
オリヴィアはビールを飲み干すと、麻のワンピースを着始めた。
オリヴィアを無視して…ユーレンベルグ男爵は他の四人に尋ねた。
「追手の数はどのくらいだ?」
「今のところ…150人ぐらいでしょうか…。」
「…それで済めば、何とかなりそうだな。」




