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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百十四章 決行!

四百十四章 決行!


 ヴィオレッタは「念話」を送った。

(メグミちゃん、そろそろ帰るよ〜〜…)

(待ってたよぉ〜〜!ヴィオッタ、ヴィオッタ…帰る、帰る…一緒に帰る…!)

(大きな城門のところで待ってるよ〜〜。)

(行く行く、すぐ行くぅ〜〜!)


 エヴァンジェリン王妃はヴィオレッタを抱きすくめた。

「ヴィオレッタ…ヴィオレッタと呼ばせてくださいね…。ヴィオレッタ、お元気で…無事にリーンに辿り着けることを神ウラネリスにお祈りしています…あなたの妖精の踊り…決して忘れませんよ…。」

「王妃陛下、ありがとうございました。私もこの恩は決して忘れません…!皇太子陛下もお元気で…!」

 ウィルヘルムは目に涙を溜めてうつむいていた。

 この後…ヴィオレッタと王妃母子が再びまみえることはなかった。ウィルヘルム皇太子は原因不明の病で命を落とし…エヴァンジェリン王妃には、それ以上に過酷な運命が待ち受けているのだ…。

 エビータが王国近衛兵の金属鎧を着けて王妃の部屋を出た。そしてすぐ後に、ドレスを着飾ったオリヴィアとヴィオレッタ、それからメイド服姿のアンネリとティモシーが後に続き、最後に王国騎士兵の金属鎧のレイモンドとダスティンが後方を気にしながら部屋を出た。

 いたって普通の王妃の行列のように見えた。王宮の一階に降りると、すぐに執事がやって来た。

「王妃陛下、これからどちらへお越しでしょうか?」

 オリヴィアの代わりに侍女に扮したアンネリが答えた。

「王妃様の馬車の用意をしてください。これから、冒険者のギルド会館に向かいます。」

「え…先日、訪問したばかりではありませんか?」

「また、用事ができました。」

「…いかなるご用でしょうか?使いの者を出しますゆえ…城下町は物騒ですので、できるだけ王妃陛下には王宮にいていただいて…」

 オリヴィアたちは執事を無視してズンズンと進んでいった。王宮入り口の検問で数人の騎士兵たちに止められた。

「王妃陛下…失礼とは存じますが、身体検査をさせていただきます。」

 その時である。向こうから年配の恰幅の良い紳士がやって来て、膝を折って王妃に挨拶した。

「これはこれは、王妃陛下…文部尚書のロットマイヤーでございます。王妃陛下におかれましては、今日もお美しく…」

 うっ!ロットマイヤー伯爵⁉︎…アンネリは咄嗟に顔を背けて反対方向を向いた。しかし…

「あらまぁ〜〜…お義父様、こんなところでお会いするなんて奇遇ですわねぇ〜〜。健康そうで何よりですわぁ〜〜っ!セドリックもお義母様も元気にしておりますのよぉ〜〜…今度一度、遊びにきてくださいな。」

 オリヴィアの言葉にアンネリは愕然とし、ロットマイヤー伯爵は訳が分からず…しばらく固まっていた。

 まずい!…と思ったアンネリは、みんなを急かして身体検査もそこそこに、正面玄関に回されてきた王妃の馬車にすぐに飛び乗った。通常であれば、近衛兵や騎士兵は騎馬で馬車を護衛するのだが、馬を調達する余裕がなくて…エビータ、レイモンド、ダスティンも一緒に馬車に乗り込んだ。

 馬車の御者は、いきなり隣に金属鎧のエビータが座ったので驚いた。

 ロットマイヤー伯爵は考えた。

(王妃陛下は…今、私を『お義父様』と呼んだな…あり得ない事だ。王妃陛下はなぜセドリックの事を知っているのだろう…んん…セドリック?…まさか、あの女は…王妃そっくりのオリヴィア⁉︎…そう言えば、今の王妃の髪は直毛ではなかったな…)

 真実に気づいたロットマイヤーはガルディン公爵の宰相の執務室へと走った。

 中庭を抜けた馬車は王宮の正面城門に近づいていた。オリヴィアたちは王妃の馬車に積んでいた槍、ナイフを各々持って、これから始まる強行突破に備えた。

 正面城門は開いていたが、さらなる検問のために十数人の騎士兵が待ち受けていた。

 エビータはナイフを御者に突きつけて言った。

「そのまま突っ込め、騎士兵を跳ね飛ばしても構わん。」

「えええっ…!」

ドガガガガンッ!

 何人かの騎士兵を跳ね飛ばして王妃の馬車は直進し、馬が驚いたため城門の外で停止した。その瞬間、エビータは馬車から飛び降り、わざわざ城門の内側に戻って城門開閉のための巻き上げ機を目指して走った。

 巻き上げ機を警護する騎士兵は、甲冑を着たエビータを見て近衛兵だと思った。エビータはその騎士兵二人の脇をナイフで突き…倒した。そして、巻き上げ機のレバーを思いっきり引くと、轟音と共に分厚い城門の扉が落ちて閉まった。その後エビータは、すぐにそのレバーの根元をナイフで切り刻んでボキリと折った。これで城門はしばらく開かず、王宮の外に兵隊を送り出すことは出来ない。

 馬車から降りてきたオリヴィアの右手には槍…あの砂蟲の歯の槍が握られていた。レイモンドとダスティンは金属鎧を脱ぎ捨てナイフを構えた。ティモシーもすでに臨戦体制で…黒いモヤを纏って敵の襲撃に備えていた。ティモシーは面が割れているため、「闇纏い」で顔を隠す必要があった。

 それを見たアンネリは不思議に思った。

(あの少年も斥候だったはず…斥候職にあんなスキルあったっけ…⁉︎)

 門の外にはまだ数人の騎士兵が残っていた。

 オリヴィアは騎士兵を視界にとらえると、「鉄砂掌」「軽身功」「黄巾力士」を発動させた。その瞬間…

ブチブチブチィッ…!

 オリヴィアのコルセットやドレスの背中の紐が全て千切れ飛んだ。


 宰相の執務室に駆け込んだロットマイヤー伯爵は、王妃に化けたオリヴィアがヴィオレッタを連れて逃走した事をガルディン公爵に告げた。

「な…何じゃと⁉︎…す…すると、朝議の王妃はオリヴィアじゃったのかっ!…いつの間に王宮に入り込んでおったのじゃっ…!」

 ガルディン公爵は数人の騎士兵を連れて、王妃の所在を確認するために王妃の部屋に押し掛けた。

「緊急ゆえ、失礼しますぞっ!」

 ガルディン公爵が王妃の部屋の扉を開けると…そこにはビヨルム国王、エヴァンジェリン王妃、ウィルヘルム皇太子、侍女フランチェスカ、そして王国近衛兵団長パトリックがいた。

 国王が言った。

「伯父上、どうしたと言うのだ⁉︎」

「ヴィオレッタ…ヴィオレッタはどこに…?」

 すると、エヴァンジェリン王妃が言った。

「ヴィオレッタは護衛のデンゼルと一緒にお手洗いに行きましたよ。…そういえば、時間が掛かっておりますねぇ…。」

「むぅっ…今、ヴィオレッタが王妃陛下を含めた六人と逃亡を図ったとの報告がまいりました…」

「えええ…私はここにずっとおりましたよ。ねぇ、国王陛下…?」

「うむ、その通りだ。」

 国王はともかく…王妃は一枚噛んでいるとガルディン公爵は直感した。

「とにかく…ヴィオレッタを捕縛せねばなりませぬっ!パトリック殿、近衛にヴィオレッタを追わせてくだされっ!」

 パトリックは立ち上がった。

「むむ…それは一大事だ!私はすぐに近衛を率いて、王宮の捜索をいたします!」

「な…なんとっ!…追ってくれと言うたに、なぜ王宮の捜索なのじゃっ⁉︎」

「ヴィオレッタは六人の曲者と行動を共にしていたと言われたではありませんか⁉︎潜入していた曲者がその六人だけとは限りません。念のために…これから、王国近衛兵団の総力を上げて、王宮内を捜索いたします…では失礼っ‼︎」

 パトリックは早足で王妃の部屋から退出した。

「くっ…!国王、近衛を動かす勅命を…‼︎」

 ビヨルム国王はウィルヘルムを膝に乗せて言った。

「いや…パトリックが正しい。逃げた奴隷よりも王宮の捜索の方が先決だ。」

「英明なり…国王陛下。うふふふふ…。」

 ガルディン公爵は悔しさで歯を食いしばりながら王妃の部屋を出た。そして、連れてきた騎士兵に命令した。

「すぐに騎士兵団に後を追わせろっ!良いか、必ずヴィオレッタと偽王妃は捉えるのじゃっ…その他は殺して構わんっ‼︎」


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