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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百七章 水の妖精の「何か」

四百七章 水の妖精の「何か」


 次の日、ヨワヒムとライバックはガレルの家の物置き小屋から私物を入れた木箱を運び出して、そこからティアーク城下町から持ち込んだ製作済みのエルヴンシープの羊皮紙を取り出した。これで泉の水を試してみることにした。エルヴンシープの取れたての皮は消石灰の水に漬けたり、伸ばしたり、削ったりで…羊皮紙として出来上がってくるまでに三週間ぐらいかかるからだ。

 ナンシーは朝食の後片付け、ルルブはスタリーのおしめの取り替えをしている中で、煙たがられながらも…ライバックたちは居間のテーブルの上に羊皮紙と泉の水の入った瓶を乗せて、実験の準備をしていた。

 ライバックが言った。

「まずは…成功率100%の『ライト』のスクロールを作ってみよう。持って来たエルヴンシープの羊皮紙に水の妖精ミズホタルがいっぱいの泉の水を塗ってみる…。」

 ヨワヒムが言った。

「…成功するかな?」

「多分…成功する。」

「なぜ、そう言い切れる?」

「まぁ、見ておれ。」

 ライバックは獣毛の筆を瓶の中の泉の水に浸し、ペタペタと羊皮紙の上に塗っていった。しばらく乾かして、それから耐水性インクで『ライト』の魔法陣を描いていった。インクが乾くと、二人して寝室に移動し扉と窓を閉め切って…実験した。

「アヴァル オド…ライト!」

 …魔法陣が消失して、ライバックの手に「ライト」が宿った。実験は成功した。

 見ていたヨワヒムは驚いていた。

「…何と…あっさりじゃなっ!」

「やはりな…思ったとおりじゃ。水の妖精の『何か』とか勿体ぶっておったが、実はミズホタルそのものだったのじゃ。考えてもみよ…中級の単一魔法までしか封入できんようなスクロールに、例えば…あの危なっかしいナーイアスの涙とか言うてみぃ…費用対効果が悪すぎじゃ。エルヴンシープはどこにでもそこそこおる…水の妖精の『何か』もどこにでもそこそこおるもんじゃないと釣り合わんじゃろうし…大量生産もできん。製造法を秘密にするために、ミズホタルを『何か』と、回りくどい言い方をしただけじゃよ。」

「そうか、そうか…『何か』は判明した…。あとは神代文字じゃな…。」

「うむ…こればっかりは、セレスティシア殿かエヴェレット殿が帰ってこないことにはどうしようもない…。ログレシアス殿の研究ノートの所在を知っておるのはあの二人だけらしいからのぉ…。」

「いきなり…暇になったな。」

 とりあえず、魔法スクロールに関する研究成果をスクルに報告するために、老人二人はリーン会堂に向かった。

「おお、成功しましたか、それは素晴らしいですね。」

 老人は言った。

「こうして結果を出しましたので…つきましては、儂らにちゃんとした寝泊まりができる研究室を用意していただけまいか…。ガレル殿の家にずっと借り暮らしというのも…迷惑を掛けてしまって申し訳ないので…。」

「なるほど…」

 すると、缶詰状態だった情報担当のティルムが別室から出てきた。すぐにスクルが声を掛けた。

「やぁ、ティルム。あちらの様子はどうなってる?」

「…セレスティシア様とエヴェレット様は…城塞都市イェルマに向かうらしい…。」

「ええっ、ここに帰って来るんじゃなかったのか⁉︎」

「せっかくダーナにラクスマンの国境まで来てもらったけど…二人がイェルマに行ってしまったら『念話』は届かない。…連絡方法がなくなってしまう。」

「それは大変だ…」

 それを聞いていたヨワヒムがニヤリと笑って言った。

「それは儂が何とかしよう…」

「えっ…ヨワヒムさん、出来るかい?」

「その代わり…研究室をお願いしたい。」

「分かった、ガレルの家を早急に建て増ししよう!」

 ヨワヒムたちはリーン会堂からガレルの家に戻ると、ガレルたちに言った。

「すまんが…猛禽類の鳥を探して欲しい。できれば、飛ぶのが速いハヤブサが良いなぁ…。」

「何に使うんだい?…魔法スクロールの材料か?」

「違う…伝書鳩にする…。」

 伝書鳩はハトの「帰巣本能」を利用して手紙を運ばせる手段だが…いちいち、生まれ育った「巣」から離して持ち運ばなければならない。

 しかし、鳥類専門のテイマーのヨワヒムの伝書鳩はそれとは違う。鳥の「意識」と「視野」を乗っ取って、目的地まで飛んで行って帰って来るのである。


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