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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百六章 ナーイアス

四百六章 ナーイアス


 ダーナを加えた四人は「セコイアの懐」の古代の森を掻き分け、再び古い泉にやって来た。

「ヨワヒムさん、ライバックさん、見えますか?ここは、昔と同じように精霊と妖精でいっぱいですよ。」

「そ…そうなのかっ!水…水の妖精はどうじゃっ?」

「ミズホタルですね…泉の水面みなも一面にいますよ。キラキラ光って眩しいくらいですねぇ…。」

 それを聞いたヨワヒムとライバックは背中のリュックから瓶を出して、泉の水を汲もうとした。

「あっ…だめですよっ!『挨拶』をしないと…」

 ダーナはすぐに神聖魔法「神の大盾」の呪文を唱えた。

「名もなき神、万物の創造神よ、我らは汝の子にして汝に忠実なる者…願わくば、その大いなる御手で包み、降りかかる災厄から我とその同胞を守り給え。而して、我らにひと時の安全をもたらし給え…顕現せよ!神の大盾‼︎」

 ヨワヒム、ライバック、ピックの前面に目に見えない魔法障壁が展開された。ダーナはベルデン教会堂の教主、僧侶なので神聖魔法が使える。

 老人二人が瓶を泉に浸した瞬間、泉の水面がザワザワと波立ち、泉の中から無数の生物が三人に向かって飛び掛かっていった。しかし、そのほとんどはダーナが施した魔法障壁にぶつかり、泉の中に落ちていった。

「な…何じゃ、今のは…⁉︎」

 ヨワヒムが足元を見てみると…魔法障壁にぶつかって地面側に落ちた生物が体をくねらせ、ピョンピョン跳ねながら泉に戻って行くのが見えた。それは…頭はカエルによく似ていたが両手両足はなく、胴体は魚そのものだった。ただ、胸びれが異常に大きく、まるでトビウオのようだった。

 ダーナが慌てて駆けつけて来て言った。

「ああっ…間に合いました…。三人とも、もう少しでウォーターリーパーの餌食になってましたよ!」

「ウォーターリーパー?」

「この泉には魚や生物は棲んでおりません。ただ、魔物のウォーターリーパーとナーイアスがいるだけです。水を盗もうとすると、ウォーターリーパーが襲ってきます。動物たちはそれを知っているので、ここの水を飲むどころか近寄りもしません。」

「そ…そうなのか。それではどうやって、泉の水を…?」

「…こうするのですよ。」

 ダーナは泉のほとりに立つと、泉に向かって大きな声で語り始めた。

「ナーイアス、ナーイアス…泉の貴婦人よ。ご機嫌よう…いらっしゃいますか?」

 すると…女性の形をした透き通った妖精が泉の中から現れて、沈むことなく水面にその体の半分を突き出した。勿論…他の三人には見えていない。

「…ログレシアス?…ログレシアスですか?」

「いいえ、私はログレシアスの曾孫、ダーナです。ナーイアス、私を覚えていませんか?ログレシアスと一緒によくここに来ていましたよ。」

「ダーナ…ダーナ…。ダーナは小さな女の子で、あなたのような大人ではありません…。」

「大きくなったのです、成長したのですよ。でも、中身はダーナのままです。」

 そう言うと、ダーナはポケットから銀貨を取り出して、泉の中に放り込んだ。

「これは泉の貴婦人への贈り物です。どうか、私たちがこの泉のほとりに留まる事を許し、私たちの身の安全を保証してください。」

「これはこれは、ご丁寧に…。ダーナ、ログレシアスの曾孫…ゆっくりして行ってくださいね…。」

 妖精ナーイアスは泉の中に姿を消した。

 ヨワヒムたちには声は聞こえるがナーイアスの姿は見えていないので、訳も分からず…ダーナに尋ねた。

「…どうじゃった?」

「もう大丈夫ですよ。泉の水は飲めるようになりました。」

「えっ…!」

 ヨワヒムとライバックが瓶を泉に浸すと…何と、その部分だけ泉の緑色が引いていって透明な水になった。

 二人は瓶いっぱいに泉の水を掬った。

「どうかな…。この瓶の中に水の妖精は入っているかな?」

「えっ、ミズホタルを捕まえに来たのですか?…んんん…。」

 老人の目的を知ったダーナは、ヨワヒムから瓶を受け取ると自分の首飾りを外し、それを瓶の中に垂らした。そして、その瓶を首飾りを入れたまま泉に浸した。瓶が泉の水でいっぱいになると、紐を手繰って首飾りを引き抜き…同じことをライバックの瓶でも行った。

「これで…瓶の中はミズホタルがいっぱいですよ。」

「お主…何をやったのじゃ?」

「この首飾りの…この小さな石の欠片はミスリルなのです。精霊や妖精はミスリルが大好きで寄ってくるのですよ。」

「ミスリル…名前だけは知っておる。これが…奇跡の石…ミスリルじゃったのか…!」

 とりあえずの目的を達して、四人は泉を去り急な山の斜面を降りていった。

 ヨワヒムがダーナに言った。

「すまんがしばらくの間、そのミスリルの首飾りを儂らに貸してはくれんじゃろうか…?」

「よろしいですよ。」

「あ…ありがたいっ!…それと、また泉を訪れる時には、銀貨が必要なのじゃろうか?」

「妖精はキラキラ光る物が大好きです…特に、ナーイアスは銀貨が大好きですので…。」

「まるでカラスじゃな。…キラキラ光る物…小瓶の蓋じゃダメかな?」

「う…それは気持ちの問題ですけど…妖精は純粋な心を持っております。妖精を騙すようなことは、金輪際やめてくださいね。バレたら…ナーイアスに殺されますよっ!」

「うう…怒られてしまった。」

 ダーナはリーン会堂の別室に籠っていたティルムの顔をチラリと見ると、すぐに任地に戻って行った。


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