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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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四百二章 男爵の召集 その2

四百二章 男爵の召集 その2


 城塞都市イェルマは建国祭の二日目だった。

 キャシィは南の一段目の生産部管理事務所を訪ね、チェルシーとの面会を申し込んだ。チェルシーはすぐに面会に応じてくれた。

「何と…米が10トン売れた⁉︎…それも、小麦と同じ値段で…信じられん…!」

「ユーレンベルグさんの手紙には早急に送れ…と書いてありました。すぐに用意できますか?」

「うむ…それは問題はないよ。すぐにこちらで馬車をしつらえて準備しよう。」

「後ですねぇ…馬車の護衛のイェルメイドを何人か、指名してきてるんですよぉ…。」

「誰を指名してきたんだ…?」

「ええと…オリヴィア姉ぇ、アンネリさん、ダフネさん、ジェニさん…です。」


 オリヴィアは食堂に入り浸っていた。建国祭の三日間はお酒が無料で飲めるからだ。当然…その横にはベレッタもいた。いつもなら、横にいるのはルカなのだが、ルカは妊娠中でお酒を控えている。

 オリヴィアとベレッタはワインのコップを片手に管を巻いていた。

「ねぇ〜〜…ベレッタァ…。どっかに割りの良いどどぉ〜〜んと稼げるお仕事がないかしらねぇ…。」

「そんなんあったら…私がやっとるわい!」

 今、オリヴィアには銀貨80枚という借金があった。

 オリヴィアは食堂のカウンターに行って、ワインのアテになる物を探した。だが、管を巻いているのはオリヴィアたちだけではないので、一時間前まではあった豚の丸焼きは骨だけになっていた。

 オリヴィアは調理部門の女を探して、ふとカウンターの下を覗いてみると、調理部門の女三人が床に座ってパンや肉を食べていた。

 オリヴィアが声を掛けた。

「ねぇねぇ〜〜、何か作ってよぉ〜〜。」

 女たちは見つかってしまったので…渋々ながら料理を始めた。この期間、本来なら生産部もお休みである。しかし、それだとイェルマ全体が機能不全に陥ってしまうので、この期間に働いてもらう生産部の女には特別手当が支給されている。

 女たちも心得たもので、ある程度料理を作るとそれをカウンターに置いて隠れてしまい、イェルメイドが文句を言ってくるまでは何もしないのだった。

 するとそこに、魔導士の女がやって来た。

「オリヴィアさん、ここにいましたか…。お酒を飲んでご機嫌なところすみませんが、すぐに練兵部の事務所に行ってください。」

「…ほぇっ?」


 アンネリは南の生産部専用の食堂の床下にいた。「キャットアイ」で暗闇の中を移動し、同じ系列の「ウルフノーズ」を重ね掛けしてスパイが所持しているであろうハトを捜索していた。

 スパイの身元、名前はもう判っている。あとは決定的な証拠があれば…個々の判断で処断できる。ハトの居場所を特定して、そこにスパイがやって来たのを二人以上の斥候で目視すれば…その瞬間にこの件は終わりだ。

ギシッギシッ…

 誰かがやって来て、アンネリが潜むすぐ上の床を歩いた。それはナタリーだった。

 ナタリーは人の気配を感じて…泥棒だと思った。練兵部では滅多にないことだが、生産部だと駆け込み女が他人のお金や物を盗むということはままある。

 ナタリーは「風見鶏改」を発動させた。スキルの発動を感じたアンネリは焦った。

(えっ⁉︎…食堂に練兵部のイェルメイドがいる?…それも、スキル持ちが…ナタリーさんか⁉︎)

 アンネリは動けなくなった。動くと…「風見鶏」に感知されてしまうからだ。相手が練兵部のイェルメイドだとしても、スパイ探索は極秘任務で、その内容は明かせない。

 「風見鶏」「風見鶏改」の持続時間は30秒…二人ともひとつ処に静止して、相手の動向を探った。

 ナタリーは少し考えて…ひとりで喋り始めた。

「…動かないってことは、私のスキル発動が『風見鶏改』だと予想したんだね?お前は泥棒じゃなくて…斥候職か?」

「…うん。」

「斥候職が生産部で内偵してるってことは…スパイ狩りだな?…料理部門に同盟国のスパイがいるのか?」

「…答えられない。」

「…分かった。」

 ナタリーは去っていった。

 アンネリはひとつ大きく息を吐くと、再びハトの臭いを追った。

(一日一回は餌やりをしなきゃいけないから…きっと手近な場所に置いていると思うんだけど…あっ、近い…!)

 アンネリは床下から出てくると、麻のワンピースと三角巾を着けて生産部専用の食堂に忍び込んだ。建国祭二日目なので人は少なかった。

 アンネリは食堂の調理棚に当たりをつけて…中にある箱や壺を漁った。中くらいの壺の蓋を開けようとした時…

クル…クルルッ…

 餌を催促してハトが鳴いた…これだ!

 すると突然…アンネリの横に麻のワンピースの女が立った。アンネリはドキリとした。

「アンネリ、ご指名が掛かってるよぉ〜〜。」

「あっ、モリーンか…ご指名って?」

「私は詳しい事は分かんない、すぐに斥候房に戻って。ここは私が引き継ぐわ。」

「うん…よろしく。ハトは二段目の棚の壺ね。」

「了解。」

 

 昨日の余興の緊張がまだ残っていて、ジェニは射手房の集団寮の寝台の上でボケェ〜〜ッとしていた。

「班長、班長っ!焼き菓子いっぱい取って来ましたよぉ〜〜、一緒に食べましょうよっ‼︎」

 ジェニの寝台にやって来たのはクレアとターニャだった。ターニャも十三歳になって十二歳班から十五歳班に編入してきていた。

 ジェニはクレアが持ってきた焼き菓子をポリポリ食べながら、寝台の上で大の字になっていた。

「ジェニ班長、ここに居たって面白くないから食堂行きましょ〜〜よぉ〜〜。」

「ええぇ〜〜…動きたくない。まだ心臓がドキドキしてるし、また明後日から、ランニングの先頭を走らなきゃなんないのよ…今のうちにスタミナを温存しておきたい…。」

 すると、サリーがやって来た。

「おぉ〜〜い、ジェニ班長、練兵部の事務所に行ってください。」

「…え、何だろう?」

「護衛の仕事が来て…ジェニさん、ご指名らしいよ?」

「…ん?」


 戦士房の房主堂。ダフネは師範室で、薬師のクラウディアから教えてもらった胎教の体操をやっていた。四つん這いになって頭をやや下に向ける…これをやると、胎児の頭が下を向くらしい。

 それを房主のライヤと女魔導士が覗き見ていた。

 ライヤが言った。

「…あれは無理だろう。」

「…ですねぇ。理由を説明して…先方には諦めてもらいましょう…。代わりに、ケイトさんにでも行ってもらいましょうか?」


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