四百一章 男爵の召集 その1
四百一章 男爵の召集 その1
その日、ユーレンベルグ男爵は冒険者のギルド会館のギルドマスターの部屋にいて、「ヴィオレッタ救出チーム」の会合に参加していた。
新たに参加していたレイモンドが言った。
「俺がリーンに戻ってもっと仲間を呼んできましょうか?ガレル、ピック、レンドならダークエルフの血統だから、俺たちより腕は確かだし…」
エヴェレットが言った。
「王宮に入れないのですから…誰が来ようと同じでしょう。」
「あっ…そうか。」
すると、扉をノックする者がいた。受付けのレイチェルだった。
「ギルマス…王宮から使いの人が来て、ギルマスにお会いしたいと言っております。」
「な…何っ?」
一瞬、みんなは誰かの謀略を考えて身構えた。
ひとりホーキンズが部屋を出て、一階に降りていった。一階ホールには小綺麗な身だしなみの紳士がいた。紳士はホーキンズを見とめるとピンと背筋を伸ばして近づいて行った。
「私はティアーク城で執事長をやっておりますルイと申します。ホーキンズ殿が『米』なる穀物の売買をしていると聞き及びまして…エヴァンジェリン王妃陛下の命でやって参りました…。」
「…米だと?…王妃陛下がどうして…?」
「王妃陛下が米を10トン…ご所望でございます。値段は如何様とも結構でございます。」
「…ちょっとお待ちを…。」
ホーキンズは二階のギルマスの部屋に駆け込むと、みんなにこの事を話した。
ユーレンベルグ男爵が言った。
「米を買い付けに来ただと…それも王妃様が欲しがっていると…分からん。」
ヒラリーが言った。
「誰かが…男爵やギルマスをはめようとしてるんじゃないか?」
「そうかもしれんが…なぜ、『米』なのだ⁉︎…相手の意図が全く読めないな…。」
何の事はない…王妃が修道院を視察した折、炊き出しに使われていたお米を大変気に入ったのだった。そして、そばにいたティモシーがお米は冒険者ギルドで買うことができると王妃に教えたのである。
ベロニカが言った。
「エヴェレットさぁ〜〜ん、出番じゃないですかぁ?」
ホーキンズがポンと手を打った。
「おおっ、そうだ…エヴェレット…師にヴィオレッタ…閣下と連絡してもらって、裏を取ってもらおう。」
「分かりました…セレスティシア様に『念話』を送ってみましょう。」
裏が取れて、この件に何の陰謀も絡んでいないことが分かり、ユーレンベルグ男爵は嬉々として言った。
「よしっ…米10トンか。すぐに用意させよう!」
ホーキンズが言った。
「ユーレンベルグ男爵は…お米をどこで仕入れているんですか?」
「…すぐに鳩屋のハトを飛ばす。行き先は…コッペリ村だ。キャシィと連絡を取って、それから…むっ、そうか…その手があったかっ!」
「…男爵、どうなされましたか?」
「ホーキンズよ…一発逆転、起死回生の手を思い付いたぞっ‼︎」
「…?」
次の日のお昼過ぎ、鳩屋のクラインがキャシィズカフェを訪れた。
だが、キャシィズカフェはもぬけの殻で誰もいなかった…いや、ひとりだけ厨房で小麦粉と水を捏ねている女がいた。キャシィズカフェはこの時間、小休憩の時間だ。
ビッキーは塩を振り、そこにバターひと欠片をこっそりと練り込んでニヤリと笑って上機嫌で鼻歌を歌っていた。バターは高級品だ。こんなものをパンに練り込んだら絶対に採算は取れない。
クラインはビッキーが耳が不自由なのを知っていたので、養蚕小屋の方に行ってみた。小屋の中を覗いてみると…桑の葉だらけだった。いくつもの桑の葉満載の背籠が置かれていて、テーブルの上にも桑の葉が積まれていた。
そこに、セドリックがひとり立っていた。桑の葉を一生懸命食べている一万匹を超える小さな蚕の幼虫を、セドリックはうっとりと眺めていた。
「セドリックさん…。」
クラインの言葉でセドリックは我に返った。
「あっ…気がつきませんでした。ええと…鳩屋のクラインさんでしたっけ、どうしました?」
「キャシィさんに手紙が届きまして…。今、キャシィさんはどちらに?」
「多分、粉屋の方じゃないかなぁ?」
「ありがとうございます。」
クラインは五軒先の粉屋に向かった。粉屋の中ではキャシィとハインツが帳簿を見ながら在庫の確認をしていた。その息の合った様子を見て、クラインはお似合いだな…と思った。
「あ…キャシィさん…」
「あっ、はいはぁ〜〜い…もしかして、ユーレンベルグさんから手紙?」
「はい、ティアークからですので…多分。」
キャシィは手を止めて、クラインから手紙を受け取るとそれを読んだ。そして、握り拳を作って叫んだ。
「よしゃあぁ〜〜っ!お米が10トン売れたあぁ〜〜っ‼︎」
ハインツが言った。
「コッペリ村でも、お米がぼつぼつ売れ始めてるから…なんか、大きな波が来てるのかな?」
「だねっ⁉︎だねっ⁉︎」
キャシィは手紙の続きを読んだ。手紙の続きの意図がよく分からなくて、キャシィは困惑した。
「むむ…これは、どゆことだぁ??」
とりあえず、キャシィは急いでイェルマへと向かった。




