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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百九十八章 建国祭 その4

三百九十八章 建国祭 その4


 斥候たちが会場のテーブルの燭台の火を消していき、ステージの上のシャンデリアの燭台の火のみを残した。そして、ステージに何本かの少し背の高い燭台が用意され、火が灯されていった。その結果、燭台に照らされて見えるのはステージの天井から真ん中辺りまでで、足元は暗くて見えなかった。

 すると、舞台袖の左右から二人の斥候が現れた。二人はそれぞれ白と黒の舞台衣装と覆面をしていた。衣装も覆面も何の飾り気もなく、まるで白と黒の等身大の人形が立っているように見えた。

「ひゃひは、はひはふほはひは…?(何が、始まるのかしら…?)…ゴックン。」

 白と黒の人形はステージの真ん中で、手に持ったナイフで闘い始めた。しかし、振り付けされたように、ゆっくり大袈裟にナイフ同士をかち合わせた。

チィ〜〜ン…チャリィ〜〜ン…カチィ〜〜ン…

「ただのナイフの演武ではなさそうねぇ…剣舞?」

 すると、白と黒の人形は突然消えた。素早くしゃがみ込んで、「シャドウハイド」で足元の闇に隠れたのだろう。

 すぐに真ん中あたりの足元の闇から黒い人形が現れてソロでナイフの剣舞を踊った。左右の舞台袖から白の人形が二人現れて、同じ動きをしながら真ん中の黒い人形に近づいていった。

 左右の白の人形が黒の人形をナイフで襲った。黒の人形はそれを左右のナイフで受け止め…すぐ様、左の白の人形の喉をナイフで二連撃した。

「わっ…今の、マジで斬ったぞっ!」

 会場がどよめいた。

 二人の白の人形はすすっと足元の闇の中に沈んでいった。

 ボタンが驚いた顔でアナに言った。

「今のは…誤って喉に命中したんじゃないか⁉︎」

 多分…ボタンはアナに緊急の要請をしたつもりなのだろう。

 アナは落ち着いた表情で、笑みさえ浮かべていた。

「あれは斥候のスキル『デコイ』でしょう…鏡面虚像ですよ。」

「…ん?あっ、今のは…『デコイ』か…。」

 アナはアンネリの「デコイ」を実際に何度か見ているのですぐに分かった。だが、知識としては分かっていても、「デコイ」を初めて体験する者は虚像のリアルさに…はっと息を呑むのである。白と黒の人形のような扮装は、多分、「デコイ」を悟らせないようにするためだ。

 舞台袖と足元の暗闇から六人が現れて、白黒入り乱れて両手ナイフで切り結んだ。斥候は確か五人だったから、「デコイ」を使っている者が少なくともひとりいる。しかし、六人が複雑なフォーメーションで絶えず動き回っているので、どれが「デコイ」だか分からなかった。すると…

「ええっ…ウソだろっ⁉︎あはははは…!」

 どよめきと共に笑い声も起こった。なんと…黒い人形が天井近くの空中を平泳ぎで泳いで渡っていったのだ。足元の闇の中を「デコイ」を発動させた斥候が仰向けで床の上を移動していったのだろう。「デコイ」のスキルを使える者が少なくとも三人いたのだ。

 オリヴィアにはバカ受けだった。

「うひゃひゃひゃひゃっ、なかなか面白いじゃん!斥候房…省エネだけど、上手くやったじゃん‼︎…ゴクッゴクッ…。」

 斥候房の余興が終わって、次に斧を持った戦士が壇上に上がった。次は戦士房の余興だ。

「うわあぁ…嫌な予感しかしない…ゴクッゴクッゴク…。」

 オリヴィアの予想通り…壇上の戦士は「演武」を始めて、十分ほど斧を振り回して一礼して壇上を降りた。会場の観客は何もなかったかのように、酒を飲みご馳走を食べていた。

 すると、次に控えていた武闘家房の五人の若手が壇上に登っていった。

「こ…この状況で…あいつら、ホントに演武とか…ゴクゴクゴクゴク…!」

 武闘家房の若手のひとりが叫んだ。

「今から、『小虎燕シャオフイェン』の型をやりますっ!」

 そして、本当に型の演武を始めた。会場は…しーんとした。

「次は…太極刀の対練をやりますっ!」

 五人の武闘家が柳葉刀を手に持ったその瞬間…

「ちょっと、待てええぇ〜〜ぃっ‼︎」

 かなり酒が回っているオリヴィアが叫んで…フラフラしながらステージに歩いて向かった。狼藉の張本人がやって来たとあって、観客は何が始まるのかと固唾を飲んだ。

 オリヴィアは「軽身功」を発動させて、ピョンとステージに飛び上がると、何と…上着を脱ぎ捨て、上半身裸になった。

「…見てらんないっ!この…オリヴィア副師範がひと肌脱ぐぞおぉ〜〜っ‼︎」

「オ…オリヴィア副師範…一体、何を…⁉︎」

 オリヴィアは馬歩になって両腕を真横に伸ばして気合を入れた。会場のみんながスキルの発動を感じた。オリヴィアの「黄巾力士」である。

「お前たち、その柳葉刀でわたしを思っきしぶん殴れっ!」

「…えっ⁉︎」

「…頭は痛いからダメよ…おっぱいも形が崩れるからダメッ!…それ以外、それ以外よっ‼︎」

 武闘家の若手ははじめ顔を見合わせていたが…柳葉刀を大上段に構えた。

 ひとりがオリヴィアの右腕に柳葉刀を振り下ろした。

ガシィッ!

 オリヴィアの素肌の右腕は柳葉刀をしっかり受け止めた。刃を潰した模擬刀ではあるが鈍い音がして、会場がどよめいた。

「こらぁ〜〜っ…もっと力を入れて、全力で振って来いっ!」

 オリヴィアの肩口あたりに柳葉刀が振り下ろされた。

「哈ぁっ‼︎」

パキイィ〜〜ンッ!

 肩口に命中した柳葉刀がオリヴィアの気合いと同時に…折れて、半分が飛んでいった。

うおおおおぉ…!

 会場が一瞬沸いた。

「もいっちょっ…来おぉ〜〜いっ!」

 若い武闘家がオリヴィアの腹を目掛けて柳葉刀を振り抜いた。

「哈あぁ〜〜っ!」

ピキイィ〜〜ン…!

 柳葉刀はまた折れ飛んだ。

 ボタンは前のめりになっていた。

「うおっ…オリヴィアちゃん、凄いな!戦士のスキルに『パワードスキン』というのがあるが…これも似たようなスキルだろうか…ね、アナ殿?」

「…防具も付けてないのに…オリヴィアさん、痛くないのかしら…?」

 ボタン以上に驚いていたのは…タマラだった。

「オリヴィアめぇ…また新しいスキルを覚えやがったのかぁ…!」

「…『黄巾力士』って、あんなこともできるんだ⁉︎」

 リューズたちオリヴィア愚連隊は手を叩いて大喜びしていた。

 五本の柳葉刀を折ったところで、武闘家房の余興は終わった。

 オリヴィアが武闘家房のテーブルに戻ってくると、タマラとペトラが詰め寄った。

「おいっ、オリヴィア…お前、いつの間に新しいスキルを覚えたんだ⁉︎」

「うひゃひゃひゃ…ヘビとサソリをぶっ殺していったらねぇ…覚えちゃった。」

 房主のジルが言った。

「…あとひとつで深度3を終わらせると、上位職の『女傑』だね…もしかしたら、お前、人間ひとの身で…深度5に辿り着いてしまうんじゃないか⁉︎」

「…この調子で、人間を卒業しちゃおうかなぁ…あひゃっあひゃっあひゃっ…ゴクゴクゴク…!」


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