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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百九十七章 建国祭 その3

三百九十七章 建国祭 その3


 壇上に二人の魔道士が登った。彼女たちは土を入れたバケツを用意していた。

「我々は魔法の『共同発動』について研究しております。私は風と水の魔道士で、彼女は火と地の魔道士です。今から実演いたしますのは…」

(…魔法の研究発表かぁ…。)

 魔道士の説明が始まった途端、会場のみんなは酒やご馳走に手を伸ばした。ボタンもワインを手に取ってゴクゴクと飲んでいた。

 壇上では、魔道士が「ロックバレット」の呪文を二人して唱えた。すると、バケツの中の土が空中に浮いて、いくつかの小さな石つぶてとなって飛んでいき…舞台脇に備え付けていた大きな板に命中した。

パパパパンッ!

「…いかがでしたでしょうか?我々は精霊の性質上、ひとりひとりでは『ロックバレット』の魔法は行使できません。しかし、二人で同時に『ロックバレット』の呪文を詠唱すると、私の風の精霊と彼女の地の精霊が呪文に呼応して…『ロックバレット』の魔法の発動が可能となるのです。…ご静聴、ご観覧、ありがとうございました。」

 しんと水を打ったような会場にマーゴットと魔道士たちの拍手の音が響いた。

 まさにその時だった。祭事館の扉を蹴破って…オリヴィアが会場に飛び込んできた。オリヴィアは汗まみれ、泥まみれ、脂まみれだった。

 オリヴィアは会場を見渡して、武闘家房のテーブルを見つけるとすぐに駆け寄った。

「はぁっはぁっはぁ…ま…間に合ったあぁ〜〜っ!」

 そう言うと、すぐにオリヴィアはテーブルの上の陶器のコップとお皿を取って、ワインとご馳走を自分によそった。それを見ていたタマラとペトラは鬼の形相だったが、隣のジル房主は微笑んでいた。

 ワインをあおりつつ肉にかぶりついているオリヴィアにリューズが言った。

「ギリギリだったなぁ…もおぉ〜〜、汚ったねぇなぁ…顔ぐらい拭いてこいよぉ〜〜。」

「ぐぉほはへひっはぁ〜〜…?」

「…はあぁっ?」

「ゴクンッ…どこまでいったぁ〜〜?…隠し芸大会。」

「ああ、魔道士房が終わったところだ…。剣士房と槍手房も終わった。」

「そっか、そっか…ゴクッゴクッゴクッ…ぷはぁ〜〜、うみゃいっ!」

 バーバラが言った。

「オリヴィア…カネ。」

「分かってる、分かってるってぇ〜〜っ!…ねね、カタリナ、ワイン取ってきてぇ〜〜。」

「自分で行きなさいよぉ〜〜。」

 すると、オリヴィアは隣のテーブルのワインの入った壺に手を掛けた。

「飲んでないなら…もらいますねぇ〜〜…」

ドンッ!

 ナイフが飛んできたので、オリヴィアは手を引っ込めた…隣は槍手房のテーブルだった。

「オリヴィアァ〜〜…舐めたマネすんじゃねぇ〜〜ぞぉ〜〜っ!」

 …ベレッタに凄まれた。

「…怖っ。」

 壇上では、アーチャーが何やら準備を始めていた。若いアーチャーがステージの上に白く塗った大きくて横に長い板を運び込んだ。その板にはうっすらと何やら大きな文字が書いてあった。

 オリヴィアは言った。

「何が始まるのかしらねぇ…?」

 リューズが答えた。

「さぁね…。」

 すると、会場の後ろに十数人のアーチャーが入って来て列を作った。その中にはジェニもいた。

 ジェニの後ろでいくつもの矢筒を抱えたクレアが声を掛けてきた。

「ジェニ班長、頑張ってくださいね!」

「ひぃぃ〜〜…外したらどおしよぉ〜〜…。」

 十五歳班では、班長だったシモーヌが十八歳班に編入していったので、代わりにジェニが十五歳班の班長に指名されたのだ。

 もう大変だった…班長になると、自分の事だけでなく班全体に気を配らなくてはいけない。特に、ジェニが一番堪えていたのは…ランニングで常に先頭を走らなくてはいけない事だった。毎日のランニングで、ジェニは死に物狂いで班の先頭を走るのだった。

 隣のサリーが笑いながら言った。

「ジェニさん、リラックス、リラックス。いつも通りにやれば良いんですよ。ジェニさんにそれだけの腕があると認めたから、房主や師範はジェニさんをこの建国祭の余興チームに選んだんですから。」

「ううう…」

 ステージの上のアーチャーが、「みさなん、絶対に立ち上がらないでください」と言って、カウントダウンを始めた。射手房の余興が始まる。

3、2、1…

 ジェニは深度2になった「イーグルアイ」を発動させた。他のアーチャーも一斉に「イーグルアイ」を発動させた。

 列の左端のアーチャーが矢を放つと、それに続いて次々とアーチャーたちは順番に矢を放っていった。矢は椅子に座っている観客の頭上を飛んでいって、白い板に見事に刺さり、その矢のすぐ隣に次の矢が刺さっていった。矢はどんどんと連なっていって…アルファベットの文字を形成しつつあった。

 アルファベットは九文字…ジェニの射撃の出番は二十回近く回ってくる…。

(失敗しませんように、失敗しませんように、失敗しませんように…ん?)

 誰かがスキルを発動させるのを感じた。まだ、「イーグルアイ」の制限時間内なのに…。

(あっ…きっと「アジャスト」だわ。誰か、失敗して慌てて矢の軌道修正をしたんだわ!)

 ジェニは自分の前にすでに失敗し掛けた人がいると分かって少し気が楽になった。

 矢はどんどん連なっていき…白い板に、「VIVA YELMA」の文字を作り上げた。

パチパチパチパチ…

「射手房、なかなかやるわねぇ。うちの隠し芸はどうなってんのぉ?…ゴクッゴクッゴク…」

 オリヴィアの質問にドーラが答えた。

「若い連中が型の演武をやるんじゃなかったっけ?あと…柳葉刀の対練とか。」

「マジかあぁ〜〜っ⁉︎つまらん…ああぁ〜〜、やだやだ…ゴクッゴクッゴク…」

「…んじゃぁ、オリヴィアが何かやんなよ。」

「…やだ。」

 祭事館の会場の一角で何か問題が起こっていた。次に余興を披露するはずの若い斥候たち五人が、息も絶え絶えに…余興の開始を三十分待って欲しいと進行役のイェルメイドに談判していた。斥候たちはみんな汗だくで、今にも倒れそうでフラフラとしていた。…ついさっきまで、バックパックを担いでイェルマじゅうを走っていたので、体力が底を突いていたのだ。

 すると、その様子を見たボタンが叫んだ。

「魔道士諸君、斥候たちに『ヒール』を頼む。」

 女王ボタンのひと声で、魔道士たちは斥候たちに多重「ヒール」を掛け、斥候たちの汗は引き息は整っていった。

「あ…ありがとうございます!」

 斥候たちの疲労の原因を知っているボタンの粋な計らいだった。


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