三百九十二章 エヴェレット出馬
三百九十二章 エヴェレット出馬
雨の中、ティアーク城下町の南城門近くに外套を深々と被ったエヴェレットがいた。エヴェレットはグラントからヴィオレッタの窮地を聞きつけ、自ら出馬して来たのだ。
南門の通行人の行列を見て、雑用係としてついて来たグラントが言った。
「…どうされますか?僕が先日来たときは…五時間ぐらい待たされましたけど…。」
「五時間も待っている余裕はありません。それに私は身分証など持っておりません…強行突破しかないでしょう。」
「えええっ⁉︎」
エヴェレットたちは馬車を曳いて、検問の近くまで移動した。
「おいっ、何だお前ら…!割り込みするんじゃない、順番を待っておれっ‼︎」
憲兵の言葉を無視して、エヴェレットは呪文を唱え始めた。
「名も無き神よ、原初の神よ、我は汝の子にして汝に忠実なる者…。神の御坐す玉座を汚すことなかれ、神の行幸を遮ることなかれ、神羅万象これ神の御懐にあり、心ある者は耳をそば立ててその声を聴け、魂ある者はその威光を見よ…顕現せよ、神の威厳!」
すると、その場にいたエヴェレット以外の人々は白昼夢を見ているかのようにぼぉ〜〜っとなって、羨望の眼差しでエヴェレットをじっと眺めていた。
エヴェレットが大声で叫んだ。
「通ります、道を開けなさい!」
「…はい、今すぐに…。」
検問の憲兵たち、門番たちは左右に退き、行列を作っていた通行人たちも馬車を後退させて、エヴェレットに道を譲った。
「これ、グラント。何をぼぉ〜〜っとしているのです、行きますよ。」
「は…はい、仰せのままに…。」
エヴェレットたちは何食わぬ顔で、南門を通過していった。それからしばらくして、憲兵や門番は正気に戻った。
「今、通って行かれた方は名前は何だっけ…。」
「やんごとない身分の方に違いない…詮索するのは失礼というものだ。」
神聖魔法「神の威厳」は、その名の通り、相手にある種の畏怖を与える魔法だ。しかしそれは、例えば、戦士スキルの「ウォークライ」などとは異なり、威嚇や威圧、恐怖など…ではない。
相手に強烈な幸福感や尊敬、畏れ、信頼感を与えて恭順、降伏、調伏させる魔法である。なので、術の効果が失われても相手はしばらくの間、術者に対して悪い印象を持つことができない。また、それと同時にお互いの意識や五感も共有することができるので、相手は術者に対して心の内を裸同然にしてしまう。ある意味、「洗脳」に近い魔法なので一部のテイマーはこれを習得して獣のテイムに使用する。
エヴェレットたちが冒険者のギルド会館に入ると、そこにはヒラリーとベロニカがいた。
「おっ、グラントじゃないか…おや、一体誰を連れて来たんだ?」
エヴェレットは言った。
「ここの責任者はいらっしゃいませんか?セレ…ヴィオレッタ様の件でお話したいことがあります。」
ヒラリーがエヴェレットをジロリと見て、それから言った。
「女かぁ…。グラント、なんでもっと強そうな奴を連れてこないんだよ。」
ベロニカがぼそりと言った。
「ホント…雑魚ねぇ…。」
グラントはヒラリーの言葉に反応して、慌てて言った。
「こ…こちらの方はセコイア教の大僧正代理、エヴェレット様です。リーン族長区連邦の…実質的なナンバーツーです…。」
「何ぃ〜〜っ⁉︎とんでもないのを連れて来たなぁ…ベロニカ、ギ…ギルマスを呼んで来いっ!」
「…何で私が…?」
エヴェレットとグラントは、ギルマスの部屋に通された。
「エヴェレット閣下、私はギルドマスターのホーキンズと申すものです。以後、お見知りおきを…。」
「私は聖職に就く者です…敬称で呼んでいただけるのでしたら、『閣下』よりもむしろ『師』を付けていただくのが適当かと…。」
(ヴィオレッタとはまた…毛色の違う人がやって来たなぁ…。)
「ごほっ、今回は…我々の不手際で、リーンの盟主たるヴィオレッタ様に多大なるご迷惑をお掛けしております…申し訳ない。ここにいるのはヴィオレッタ様とは少なからずの親交を持つ者です。ヴィオレッタ様救出のために、是非あなたの力を我らにお借しいただきたい。」
「無論、そのつもりでやって参りました…。みなさまが付いておきながら、本当に不手際ですね…まぁ、よろしいでしょう。それで、何か方策や手立てはお考えで?」
「む…ヴィオレッタ様が我々にある『計略』を示しております…」
「さすがはヴィオレッタ様!…いかなる時も、常に打開策を模索していらっしゃる‼︎」
「それが、敵の対抗策に遭いまして…恥ずかしながら現在、手の打ちようがありません。せめて…何とか、ヴィオレッタ様と連絡が取れればと思うのですが…。」
「私がヴィオレッタ様と連絡をとりましょう。」
「『念話』が出来るのですか⁉︎…エヴェレット師は魔道士でしたか!」
「私の職業は『僧侶』です。」
「…僧侶?」
「分かりやすく説明いたしますと…あなた方の世界で言うところの『神官』と『魔道士』を足して二で割ったようなものですね…。」
「…?」
すると、レイチェルからエヴェレットの来訪を聞きつけたレイモンドとダスティンがギルマスの部屋に入ってきた。そして、エヴェレットを見るや片膝を突いた。
「…よもや、エヴェレット様がいらっしゃるとは…ご足労をお掛けします…!」
「いえ、ヴィオレッタ様の危機…私が罷り越すのは当然でしょう!」
「我々の力が及びませんで…どうか、エヴェレット様のお力を…!」
「…分かっております。」




