三百八十九章 再びライスショック
爆睡してしまいました。
…申し訳ありません。
三百八十九章 再びライスショック
ティアーク城下町の東門から約1km離れた街道沿いの林の中。
コッペリ村からやってきた六人のイェルメイドたちは荷馬車の積荷をどんどん地面に下ろしていた。
すると、街道からやって来た荷馬車がその横で停まった。
「コッペリ村からですか?ご苦労様です…」
「ユーレンベルグの馬車だな?早く積荷を下ろせ、こっちは急いでるんだっ!」
「は…はい。」
イェルメイドたちは二十樽のワインを荷馬車に積み込むと、早々にイェルマに引き上げていった。彼女たちは六月十日の「建国祭」を楽しみにしていたので、それに間に合うように急いでイェルマに帰って行ったのだ。
ユーレンベルグ男爵の人夫たちはキャシィから送られてきた薬草の詰まった樽と米1tを荷馬車に積み込むと、ゆっくりとティアーク城下町へ引き返した。
ベロニカは冒険者ギルド会館の一階ホールに積み上げられた米の袋を見て、興奮して絶叫した。
「来た…来た来た来たあぁ〜〜っ!お米ちゃん、待ってましたよおぉ〜〜っ‼︎」
ホーキンズがレイチェルに言った。
「前回同様…三分の一は修道院に寄付して、残りは極楽亭に卸してくれ。」
「えええっ、三分の一もぉ〜〜…⁉︎全部、極楽亭に卸しちゃいましょうよぉ〜〜。」
「こらこら、ベロニカ…そんなに米が食いたいのか?じゃあ、全部お前が買い取るか?」
「ううぅ〜〜…」
ベロニカは極楽亭に搬送される米袋にくっついて行って、極楽亭に到着するなり叫んだ。
「ヘクター、肉野菜炒めとご飯大盛り…大至急ねぇ〜〜っ!」
ベロニカが肉野菜炒めとご飯大盛りにありつくまでに…約三時間の時間を要した。
ティアーク城下町にはいくつかの修道院がある。修道院は神官を目指す修道僧が修行をする場所で、修道僧たちは神への礼拝や慎ましい生活を送ることで虚栄心や物欲を削ぎ落としていく。
修道僧にとって、弱い者、貧しい者への「施し」も修行の一環である。しかし、普通の修道院は上位組織の「教会」や「聖堂」などからの援助金でなんとかギリギリ運営されていて、なかなか貧者への施しまで手が回らない。
そこで期待されるのが「寄付」である。一般市民からはもとより、貴族からも寄付をもらって、それを施しに充てることが多い。
ここ、メラニー修道院はティアーク城下町の南の外れにあり、男子禁制の女性のみの修道院である。神官になると婚姻は許されるが、修道僧の期間は男女の接触は許されていないのが一般的だった。
今日はとても嬉しいことがあった。前回同様に、冒険者ギルドから30kgのお米を寄付してもらったからである。週に一回、貧民のための炊き出しをするのだが、そのための食糧をかき集めるのに修道女たちはいつも頭を悩ませていた。その悩みが一気に解消されたのだ。
この修道院では定期的に炊き出しが行われるので、それを見越して城下町じゅうから貧しい人々が集まって来ていた。
その日、以前キャンセルした修道院視察の公務を順調にこなしていたエヴァンジェリン王妃は馬車で城下町の大通りを走っていた。ヴィオレッタの護衛に近衛兵団長のパトリックとエビータが就いたことで、王妃は自由に動けるようになったのだ。
法務尚書配下の事務方が乗る馬車、エヴァンジェリン王妃と側付きのフランチェスカ、ティモシーが乗る馬車、そしてたくさんの寄付の衣料や食糧を載せた馬車が十騎の近衛兵に護衛されて走っていた。
みすぼらしい格好の群衆が歩いていくのを馬車の中から見かけたエヴァンジェリン王妃は隣のフランチェスカに尋ねた。
「あの方たちはどこに行くのでしょうか?」
「多分、この近くで炊き出しをしているのだと思います。」
「この辺りにも修道院があるのですか?」
「…さぁ?私は存じておりません。」
すると、対面に座っていた王妃の側付きとなったティモシーが言った。
「王妃様、僕が見て来ましょう。」
そう言うと、ティモシーは慌てる二人を残して走る馬車から飛び降りていった。そしてすぐにティモシーが戻って来て言った。
「メラニー修道院ってのがありました。」
「そうですか。…ちょっと寄ってみましょう。」
フランチェスカは言った。
「メラニー修道院…視察の予定には入っておりませんが…?」
「ほほほほ…修道院は修道院ですよ。」
王妃たちの馬車は急遽、視察予定外のメラニー修道院へ寄ることとなった。
修道院前では、野菜とお米の雑炊が入った三つの大釜がもうもうと湯気を立てていて、修道女たちが行列を作っている人たちの持参した器に次々と雑炊をよそっていた。
そこに王妃たちの馬車が横付けした。
「エヴァンジェリン王妃陛下のお越しである、道を開けろっ!」
近衛兵の声にみんなは驚いて尻込みした。すぐに修道院長が駆けつけて来て、馬車から降りようとするエヴァンジェリン王妃の前で膝を折った。
「これはこれは王妃陛下…いらっしゃると分かっておりましたら、それなりの準備をしておりましたのに…」
「どうぞ、我々の事はお気になさらず、炊き出しを続けてくださいな。」
王妃はゾロゾロと近衛兵を従えて、修道院の前を歩きながらフランチェスカとティモシーに言った。
「ここの修道院は小さいのですねぇ…。ほら、あそこ…外壁の板が外れかかっています…」
「…ここだけの話ですが、視察の予定に入っている教会や修道院は見てくれの良いところばかりを選んでいるのです。同じ修道院でも、待遇の良いところ悪いところがあるのです。」
「分かりません…なぜ、同じ修道院で待遇の差が出るのでしょう?」
「それは…司教や法皇などを輩出した修道院は上に覚えがめでたいのですよ。ここのような女性だけの修道院は…そういった事がありませんから…。」
「なるほど…女の司教様など、見たことがありませんものねぇ。」
院長がやって来た。
「王妃陛下…何のお構いもできませんが、中でお茶をどうぞ。」
「ありがとうございます。」
王妃が小汚い応接室に通されると、数人の子供たちが人数分のお茶を用意するために、湯呑みやヤカンを持ってバタバタと走り回っていた。修道院で預かっている孤児たちである。
王妃は修道院の院長と話をした。
「こちらの暮らし向きはいかがですか?」
「はい、お陰様で何とか…。」
「何か、足りないものはありませんか?」
「足りないもの…何もかもが足りなくて…それでも心温かい皆様の寄付で何とかやっております。今日も冒険者ギルドからたくさんの食糧を寄付していただいて、こうやって貧しい方々への施しが出来ている次第でございます…。」
「今、みなさんが食しているアレは…何ですか?」
「…雑炊でございます。野菜とお米を塩で味付けしたものでございます。」
「雑炊…米…初めて聞く料理ですね。私にも少し、味見をさせていただけませんか?」
「いえいえ、あれは下々の者が食するものでして…王妃様の口に合うものではありません…」
「私は構いませんよ。」
「ですが…」
すると、ティモシーが言った。
「じゃ、僕が行って味見して来ましょう。僕は下々だから。」
ティモシーはすぐに炊き出しをしている場所にすっ飛んで行って、お椀をひとつ持って戻ってきた。そして、ふた口、三口食べて言った。
「あ…これは極楽亭で食べたのと同じものですねぇ。」
「どれどれ…」
フランチェスカは絶叫した。
「お…王妃様っ!人の食べかけを…はしたないっ‼︎」
王妃はお構いなしだった。
「ふむ、このつぶつぶがお米ですか…だいぶ、薄味ですねぇ。」
「極楽亭で出している雑炊はこれに鶏肉とか色々入っていて、もっと美味しかったですよ。」
王妃は王宮での濃い味の美味しい食事に慣れているので、それ以外の食事は薄味に感じるのだ。
修道院の院長が言った。
「このお米という穀物には大変重宝しております。小麦、大麦だとパンにする手間が掛かりますが、これは水で炊くだけで簡単に出来てしまいます。それに、栄養価も高く腹持ちもいいようで、炊き出しを楽しみにしている人たちの評判は良いですねぇ。」
「ふむ…ふむふむふむ…このお米とやらは、どちらで手に入るのでしょうか?」
それを聞いたティモシーがすぐに言った。
「多分、ティアークだと冒険者ギルドでしか売ってないですよ。」
実際の販売窓口はユーレンベルグ男爵である。
エヴァンジェリン王妃は言った。
「この次来るときには…お米をたくさん持って参りましょう。」




