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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百八十八章 牛二十頭大移動計画 その2

三百八十八章 牛二十頭大移動計画 その2


 その日は街道の脇の林の中で野宿することとなった。夕方になると鳥目のカラスは役に立たないので、ガレル、レンド、ピックが牛が遠くに離れないように監視しながら牛の中で仮眠をとった。

 早朝、すぐにガレルたちは出発した。この日は事の他順調で、リーダー牛は馬車を追いかけてトコトコと走った。だが、お昼頃になるとリーダー牛はぐずって動かなくなった。

 ガレルが言った。

「どうしたんだ?」

「…喉が渇いたようじゃな…。」

 意識共有をしていると、牛が何を欲しがっているかも判る。

 ガレルたちが馬車に積んでいた水桶の水を汲んで底の浅い桶に移すと、全部の牛がダッシュで寄ってきて、桶の水をガブガブと飲み…水を足しても足しても追いつかなかった。やがて…水桶の水も無くなってしまった。

「こ…こいつら、死ぬほど飲むなぁ〜〜…!」

 レンドとピックが空の水桶を抱えて湧き水か岩清水を探しに行った。しばらくすると二人は水桶を満たして、重そうに抱えて帰ってきた。

 とにかくこんな感じで…牛の行列はその名の通り、「牛歩」だった。

 そして再び夜がやって来て、みんなは街道の脇で牛と一緒に浅い眠りに就いた。

 次の朝も早くから出発し、ピックが殿しんがりの牛の尻を叩きながら牛の行列は進んだ。

 カラスを操るヨワヒムが言った。

「…南の空から雨雲が来ておる…。明日あたり、降るかもしれん。」

「雨かぁ…。そう言えば、そろそろ梅雨か。ライバックさん、牛に雨って…どうなんだ?」

「まぁ、濡れても差し支えはないな。草が濡れるから、飲み水も大丈夫じゃろ。ただ…」

「ただ…?」

かみなりはまずい。音に驚いて牛たちがパニックを起こすかもしれん…。」

「…。」

 そんな話をしていると、御者をしているレンドが前方に何かを見つけて、突然叫んだ。

「一個中隊ぐらいの騎士兵が来るっ!ラクスマンの兵士ならまずい…みんな隠れろっ!」

 そうなのだ…ガレル、レンド、ピックはみんな、尖り耳なのだ。

 騎士兵たちが近づいて来て、手綱を握っているライバックに尋ねてきた。

「お前たち、こんなところで何をしている⁉︎」

「お前さん方はどこの兵隊さんかな?」

「ラクスマン王国の巡回兵だ。この辺りはもうラクスマン領だよ。」

「お仕事、ご苦労さんです…見ての通り、牛を運んでおるよ。」

「商人か…?」

「違う。儂らはな、ティアークの冒険者じゃ…依頼があってな、この牛をラクスマンの依頼人のところへ連れて行く途中なのじゃ。」

 そう言って、ライバックは自分の身分証と冒険者のメンバー票を提示した。

「なるほど…魔道士のライバックか。そっちは?」

 ヨワヒムもニコニコしながら、身分証とメンバー票を見せた。

「ふむ…よろしい、行って良し。」

「ラクスマン城下町はこの道でよかったかな?」

「あと半日ほど進んだら、右に入る街道がある。それを進むとラクスマン城下町の西城門だ。このまま直進するとベルデン族長区だ…検問があるから、そっちはダメだぞ。」

「ご親切にありがとう、兵隊さん。」

 ラクスマンの巡回兵が去ると、脇の茂みからガレル、レンド、ピックが出てきた。

「ふうっ…助かったぜ。」

「今、聞いたんじゃが…このまま真っ直ぐ進むと、ベルデンだそうじゃが…ベルデンからリーンに入れるのか?」

「ライバックさん…俺たちはリーンから一度ベルデンに入って、それからここに来たじゃないか…。」

「お…そうだったか…ふむ。」

 ガレルは一抹の不安を覚えた…それは決して間違いではなかった。

 夕方になって、牛の行列は街道を少し外れて近くの町に寄った。町の井戸を使わせてもらい野宿をした。ここは以前、ジャクリーヌの旅芸一座が興行を打った町だった。

 朝起きると…空は厚い黒雲で覆われ、遠くでは稲光が見えて…今にも降りそうな天候だった。とりあえず、行けるところまで行こうということで村を出発した。

 夕方には右に折れる街道の入り口があったがそれを素通りして、峠の抜け道へと向かった。すると、ポツリポツリと雨が降ってきた。

「とうとう降ってきやがったか…。」

「ガレル、こりゃ峠越えは無理なんじゃねぇか?」

「そうだな…どうするかな。」

「とりあえず…今日はちょっとでも雨宿りできる場所を探して野宿しようぜ…。それで明日の朝…様子を見よう…。」

 ライバックとガレルは牛たちを引き連れて、近くの森の中に入った。ここなら、街道沿いよりはマシだろう。牛番のガレルを残して、ライバックは戻り馬車の中で雨を凌いだ。

 ライバックはぼそりと言った。

「もう梅雨か…これ以上、雨が酷くならなければ良いが…。」


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