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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百八十五章 四人の斥候

三百八十五章 四人の斥候


 グラントがレイモンドとダスティンを連れて来た。

「おい、グラント。どうなってるんだ?セレスティシア様がティアークに来るなんて聞いてないぞ⁉︎…その上、拉致されるなんて…!」

「いやいや…セレスティシア様の我儘わがままなんだってばっ!俺だって被害者なんだってばっ!…どうして止めなかったんだって、エヴェレット様に散々怒られたんだってばっ…‼︎」

 三人は口論をしながら、冒険者のギルド会館に到着した。

 グラントが受付けのレイチェルの前に姿を現すと、レイチェルは三人をギルドマスターの部屋へ案内した。

 部屋の中にはホーキンズがいた。

「まず、君たちの立場を聞いておきたい…。エビータやティモシーと同じく…ヴィオレッタのしもべでいいのかな?」

「はい。俺たちも斥候職です。エビータやティモシーとは親戚になります。」

「…なるほど。まぁ、なぜラクスマンとエステリックにいたかという理由は聞かないでおこう。これで四人は揃ったか…」

「…四人?俺たちとエビータさん、ティモシー…という事ですか?」

「うむ…男爵の話によると、ヴィオレッタには『計略』があるらしい。手元に五人の護衛役を置いて、王宮そして城門を力尽くで突破するつもりだ。…だが、あとひとり足りない。それにだ…現状、この『計略』の遂行自体が難しくなっている…。」

「…ん?」


 その夜、レイモンドとダスティンはヴィオレッタと繋ぎを取るため、王宮への潜入を試みた。二人とも斥候のスキルは深度1をコンプリートしており、実戦経験も豊富で腕利きである。

 二人は闇に紛れて「シャドウハイド」で王宮の通用門に忍び寄った。しかし、通用門には数人の騎士兵がいて、その上、数多くのかがり火が四方八方に設置されていたので「影」がなかった。その上、通用門の周辺は綺麗に整頓されていて、周囲10m以内には身を隠すような物は何ひとつなかった。

 二人は物陰で小声で相談した。

「…まずいな。これじゃ、『シャドウハイド』が使えん…。」

「仕方ない…城壁を登るか…。」

 警備兵を殺して良いのであれば、やり方はいくらでもあるが…それはできない。二人はダークエルフではなく純粋な人間だったので、エビータやティモシーが持つ闇魔法のスキルも使えない。

 二人は少し移動して、「キャットアイ」を発動させ、一時間かけて暗闇の城壁を二本のナイフで登った。

 しかし、ここでも難関が待っていた。城壁の上にも多数の騎士兵が松明を持って巡回していた。

 二人は三十分も城壁にしがみついて…騎士兵の巡回パターンを確認した。そして、巡回が途切れる僅かな隙を突いて城壁を越え、城壁の内側への侵入に成功した。だが、侵入して驚いたことに、身を隠す場所がほとんどなかった…というのも、城壁と王宮の中間の敷地にある樹木や薮が全て伐採されていたからだ。これは明らかに侵入者…特に斥候職の侵入者を意識しての対策だろう。

 二人は細心の注意を払いながら、ユーレンベルグ男爵から教えてもらった使用人の通用口を探した。壁にべったり張り付き、地面を匍匐前進で進み…二時間掛けてようやく使用人の通用口を発見したが、やはり騎士兵がいて、かがり火を守っていた。

 レイモンドがダスティンに囁いた。

「…どう思う?」

「兄貴、これは無理だな…帰りの事を考えると、体力が持たない…。」

「…だな。」

 二人は王宮への潜入を断念した。


 次の日、ユーレンベルグ男爵は王宮の中央区画の二階…サロンで自分が納めている超高級ハーブティーを飲んでいた。これから三階に登ってエヴァンジェリン王妃に声を掛けてもらい、ヴィオレッタと繋ぎを取る予定だった。

 すると…

「ユーレンベルグ男爵様…」

 騎士兵のひとりが声を掛けてきた。

「…何か用か?」

「はっ…これより私めがお供します…。」

「ん…その必要はないよ。王宮の中くらい、自分ひとりで歩ける。」

「いえ、今日より高貴なお方には、必ず騎士兵が随行する規則となりました。」

「…聞いてないぞ。」

「あの賊の一件より、念には念を入れよとのお達しで…。高貴な方の身の安全を確保せよとのことです…ご協力ください。」

「…む。」

 すると、あろうことか…向こうからガルディン公爵とジェローム侯爵がやって来て、ユーレンベルグ男爵に声を掛けてきた。

「これは、これは、ユーレンベルグ男爵殿…久しぶりですな。」

「これは宰相閣下、お久しぶりでございます。」

 男爵はジェローム侯爵を見て…思った。

(…このロリコン野郎が…!)

「男爵殿は…今日はいかなる理由で王宮へ?」

「あ…このハーブティーが好きでして、こうして日参しております。」

「そんな、見え透いた事を…。このハーブティーは男爵殿が納めている品…自分の屋敷でいくらでも飲めましょうに。…あまり、儂の手を煩わせないでいただきたい。」

「…どういう意味でしょう?」

「全てお見通しですぞ。しっかり、釘は刺しましたぞ…それでは、また…。」

 そう言って、ガルディン公爵とジェローム侯爵は去っていった。

 ユーレンベルグ男爵に付き添っている騎士兵が言った。

「これから、王宮のどちらへ…?」

「今日は…もう帰る。」


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