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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百八十二章 牛、うし、ウシッ!

三百八十二章 牛、うし、ウシッ!


 エヴェレットはティルムの進言を聞いて、ふと思った。

(…そう言えば、ヴィオレッタ様はヤギの乳はお好きでしたね…。『牛』はヤギの何倍も乳を出すと聞く…。)

 エヴェレットは戸棚から金貨二十枚を取り出して…ティルムに言った。

「あなたの進言通りに…試しに牛を二十頭ほど飼ってみましょう。」

 ティルムは「かしこまりました」と言って、その金貨を受け取った。

 ヴィオレッタ様にも困ったものだが…それでも、ティアーク王国から帰ってきた時に牛の乳があったら…お腹いっぱい飲ませてあげることができたら、ヴィオレッタ様はどんなに喜ぶだろう。エヴェレットはヴィオレッタの喜ぶ顔が見たかった。


 朝、ヨワヒムとライバックはガレルの家の寝室で寝ていた。お年寄りということでゆっくり寝てもらうために、わざわざ女性たちが使っている寝室を空けてもらったのだ。そのせいで、ガレル、レンド、ピックは外でテントを張って寝るはめになった。

「ジジィ〜〜…起きろぉ〜〜。朝メチだぞぉっ!」

 老人二人はシーラに起こされた。ライバックはもう少し眠りたかったので寝たふりをしていると…

バチンバチンッ…!

 シーラに両手で両頬を叩かれた。…起きるしかなかった。

 その後も、もそもそと食卓の方に移動する時にシーラは二人の老人のふくらはぎ辺りを蹴ってくるのだった。…何か、含むところがあるようだ。

 ルルブがスタリーを抱っこして、挨拶をした。

「あっ、ヨワヒムさん、ライバックさん、おはようございます。」

「…おはようございます。儂らは、シーラに何かしましたかな…?」

「あははは、多分…ガレルが外で寝たからでしょうかねぇ…。」

 シーラは父親のガレルが大好きである。それに、ゆっくり寝られる寝室を盗られた恨みも…。

 みんなで朝食にパンとタマネギスープを食べていると、ティルムがやって来た。

「みなさん、おはようございます。」

 ガレルが挨拶した。

「おはようございます、ティルムさん。…今日は、何か?」

「ガレルさん、喜んでください。『牛』の件、試しに二十頭ということで…OKが出ましたよ。」

「うおぉっ…ホントかっ⁉︎や…やったぞっ!」

 するとシーラが…

「お父ちゃん、どーちた?」

「シーラ、『牛』が来るぞっ!」

 ガレルはシーラを左手と義手で高く抱き上げた。シーラは父親が喜んでいるので訳も分からず嬉しかった。

「ウチが来るっ!ウチが来るっ!ウチがうちにやって来るうぅ〜〜っ‼︎」

 ガレルはすぐにレンド、ピックを呼んで相談を始めた。

「たった三人で二十頭かぁ…。あの細い峠道をだろ?…素直に牛がついてくるかなぁ…。」

「…難しいかなぁ…。」

「犬ならまだしも、牛は集中力がないからなぁ…。」

 スープを啜りながらその話を聞いていたライバックは…ひと言いった。

「儂ならできるぞ。」

「…ん?」

「手伝ってやろうか。一宿一飯の恩義があるし…シーラに嫌われたままというのも何だしな…。」

「いやいや、三人が四人になったところでなぁ…それに、無理しなさんな、ご老体。」

「俺はテイマーだ。…牛は哺乳類だろ、俺の専門だ。」

「…テイマーって?」

「動物を自由自在に操る魔道士のことだ。」

「何いいぃ〜〜っ!それは本当か…ありがたいっ‼︎」

 ライバックの協力は…どストライクだった。

 ライバックを入れた四人が相談を始めると…仕方がないので鳥類専門のヨワヒムも加わった。そして…「牛二十頭大移動計画」を立案した。

 ざっくり説明すると…まず、馬車を使ってライバックたちが三日掛けてステメント村へ行く。一日で牛二十頭を買い付け、ライバックがリーダー牛をテイムする。次の日にはステメント村を出発し、ライバックは馬車で移動しつつリーダー牛を操作する。その一週間の行程で、常にヨワヒムがカラスを使って不具合がないかを監視する…という計画だ。

 ガレルが言った。

「それじゃぁ、すぐに出かけよう!」

「バカ者!…ヨワヒムがカラスを捕まえて、テイムしてからだ。」


 ヨワヒムはその日のうちに一羽のカラスを捕まえてテイムしてしまった。

 ヨワヒムは「セコイアの懐」の近くでカラスを見つけ、神聖魔法「神の威厳」の呪文を唱えた。

「法と秩序の神ウラネリスよ、我は汝の子にして汝に忠実なる者…。神の御坐す玉座を汚すことなかれ、神の行幸を遮ることなかれ、神羅万象これ神の御懐にあり、心ある者は耳をそば立ててその声を聴け、魂ある者はその威光を見よ…顕現せよ、神の威厳!」

 ヨワヒムが左手に死んだバッタを持って、右手で根気よく手招きするとカラスはヨワヒムの左腕に止まってバッタを食べた。その状態で…何度も「神の威厳」を掛け続け、カラスが完全に懐いたところを見計らって「意識共有」を試みた。「神の威厳」の影響でカラスの意識や五感がヨワヒムに流れ込んでくる。そこで、今度は自分の意識をフィードバックさせて目を凝らすと…カラスが見ている視界が広がった。

 ヨワヒムはカラスを肩に乗せて、ガレルの家に戻ってきて言った。

「よし、こっちは準備OKじゃ。明日には出かけられるぞい。」


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