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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百七十七章 ヴィオレッタの正体

三百七十七章 ヴィオレッタの正体


 朝になって、王妃の部屋でヴィオレッタはエビータをエヴァンジェリンたちに紹介した。

「彼女はエビータ…私のしもべです。私が拉致されたと知って、自分の命も顧みず…わざわざこの王宮に私を救出しに来てくれたのです。」

 エビータは片膝を折って、みんなの前で挨拶した。

「エビータと申します。此度は…ヴィオレッタ様を人拐いの手から救っていただき感謝しております…。」

 エヴァンジェリン王妃とウィルヘルム皇太子は、エビータが色黒で耳が尖っているのを珍しく見ていて…そして言った。

「エビータも…エルフなのですか?ヴィオレッタの…一族の方?」

「いえ、んんと…エルフの分家…亜種…庶流?…まぁ、エビータはエルフに近い種族のハーフです。とても強い斥候ですよ。」

 ヴィオレッタはあまり「ダーク」という暗い印象のある言葉をみんなの前で使いたくなかった…エビータに配慮したのだ。

 パトリックが言った。

「是非お聞きしたい…ヴィオレッタさんは、どう考えても…ただの奴隷ではありません。その威厳と教養、そしてエビータのような強者つわものを従える器…本当の正体を明かしていただきたい…。」

 ヴィオレッタはパトリックの鋭い質問に少し焦った。

「いえ、本当に私は奴隷です。エヴァンジェリン王妃陛下の奴隷です。」

「それは…同盟国の法律では奴隷…という意味ですよね?ということは、同盟国の外では…ヴィオレッタさんの身分は…?」

「今、私は同盟国の中におりその同盟国のみなさんのおかげでこうしております…ですから、私の生殺与奪の権はみなさまの手にあります…奴隷以外の何者でもないでしょう?」

 聡明な侍女のフランチェスカが少し頭を巡らして…ヴィオレッタではなくエビータに質問した。

「エビータさん、あなたはその肌の色、耳の形からして生まれ育ちは同盟国ではありませんね?…あなたもヴィオレッタと同じところのご出身ですか?」

 色んな意味で真っ直ぐな気性のエビータは即答した。

「はい。私はリーン族長区連邦のマットガイスト族長区で生まれ…育ちました。しかし、今はリーン族長区の民です。」

 エビータにしてみれば、流浪の民だった自分の一族がヴィオレッタのおかげでリーン族長区の市民権を得たことを強調したかったのだが…。

 エビータの言葉を聞いて、ヴィオレッタは「まずい!」と思った。フランチェスカはヴィオレッタの口から真実を語らせるのは難しいと察し、矛先をエビータに変えて言葉のペテンに掛けたのだ。

 フランチェスカは…ボソボソッとエヴァンジェリンの耳元に何かを告げた。エヴァンジェリンは驚いた顔をして…言った。

「ヴィオレッタとエビータは同郷…そして、エビータはヴィオレッタの僕…と言うことは、ヴィオレッタはリーン族長区の…貴族…ですか⁉︎」

「…。」

 さすがに…ヴィオレッタはこれ以上の誤魔化しができず、また、恩のあるエヴァンジェリンにさらなる嘘を重ねることに抵抗を感じて…無言を通した。

 フランチェスカは粛々と語った。

「リーン族長区連邦はエルフの多い国です。多分、ヴィオレッタはそこの一介のエルフではなく、もっと高い地位にあるのだと思います。リーン族長区連邦は同盟国と敵対しており、ラクスマン王国とは今も睨み合っております。もし、ヴィオレッタが同盟国の中で自分の正体を明かせば…我々はすぐ様、ヴィオレッタを憲兵隊に引き渡さねばならないほどの高い地位にあるのではと推察されます…。」

 エヴァンジェリンが言った。

「ヴィオレッタ…それは本当なのですか?…私はあなたを気に入っていますよ。どうか私に本当のあなたを見せていただけませんか?」

 ヴィオレッタは、エヴァンジェリン王妃の前に歩でると…膝を屈して語り始めた。

「申し訳ありませんでした…王妃陛下。私は故郷リーンでは…セレスティシアと呼ばれております…」

 パトリックは役職柄、その名前を知っていた。

(ラクスマンを悩ませている…あの「黒のセレスティシア」か⁉︎…リーンの盟主にして、リーンを守護する大魔導士!まさか…こんな少女が…いやいや、見た目は少女でも六十六歳…それにしても…‼︎)

「リーンの盟主であり…同盟国と敵対する者です。なので、自分の正体を明かすことを差し控えておりました。けれど、ここに至っては…これ以上の嘘をつくことは私の本意ではありません。ご恩を賜った王妃様に今以上の温情を求めるつもりはありませんが…どうか、お見逃しください。私はどうしてもリーンに戻らなければいけないのです…でないと…」

 エビータが察してヴィオレッタの側に立った、二本のナイフに手を掛けて…。

 すると、エヴァンジェリン王妃は突然、大声で笑い出した。

「おほほほほほ…そうなのですね。ヴィオレッタ…いえ、セレスティシア様はリーンの元首でしたか…。それでは、私とあなたは対等ですね!…そうですね、フランチェスカ?」

「いえ…ティアーク王国の元首はビヨルム国王陛下で在らせられます。王妃様は…ちょっと下…でしょうか…?」

「あらあら…では、私は…セレスティシア陛下とお呼びしなくてはならないの?ほんにまつりごとにはうとくて…おほほほほほ!」

 ヴィオレッタは突然の事で面食らった。

「…あの、王妃様…?」

「ここはラクスマン王国ではありません…そして、私はティアーク王国の王妃です。セレスティシア様は心配なさらないで、身の安全が確認できるまで…どうぞ、ごゆるりとして行ってくださいませ。セレスティシア様を逃したからといって、リーンがティアークに攻め込んで来るわけではないでしょう?」

「…あははは、それはあり得ません。地理的にも戦略的にも不可能ですし…そのつもりも毛頭ありません。」

 リーンがティアークに攻め込むとなると、まずラクスマンを抜かねばならない。

 パトリックは思った。ラクスマン王国とティアーク王国は同盟関係にあり、ラクスマン王国の敵対国の元首がここにいるのであれば捕縛してラクスマン王国に引き渡す義務がある。しかし、自分の主君筋である王妃がその元首を保護すると言うのであれば…自分もそれに従うのは当然で、「近衛」の立場、さらには「騎士」の道からも逸脱しないと思われる。むしろ、同盟国の義務よりも、主従の繋がりの方を重視するのが「近衛」であるし「騎士」だ。また、仮に、この場でヴィオレッタを捕らえようとしても…はてさて、このエビータを倒すことができるだろうか?…それに、ヴィオレッタが本当に「黒のセレスティシア」であれば、この二人を相手にして…ひょっとして倒されるのは自分の方ではないか…?

 ヴィオレッタはうやうやしく言った。

「私がここにいる間は…私は王妃様の奴隷です。ウィルヘルム様のお世話もしとうございます。どうか…セレスティシアではなく、今まで通り、ヴィオレッタとお呼びください。」


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