三百七十章 素材集め
三百七十章 素材集め
十数匹の巨大サラマンダーと巨大サソリが現れて、皮を剥いだヘビの死体に群がっていった。
オリヴィアたちはすぐに退避した。
「あああ〜〜…今日の晩ご飯がぁ〜〜…。」
ドーラがラクダの尻を叩いて、商隊に逃げるよう促していた。しかし、餌にあぶれた巨大サソリが二匹、執拗に商隊を追いかけて来た。
オリヴィアが巨大サソリの前に躍り出て、砂蟲の歯の槍を振り回した。
巨大サソリが尻尾の毒針でオリヴィアを襲った。オリヴィアは槍をかちあげるようにしてそれを迎撃すると、僅かに「カチッ」という音がしてサソリの毒針は砂の上に落ち…怯んだサソリの頭にオリヴィアは槍を深く突き刺した。
すると、二匹目の巨大サソリはオリヴィアの方には行かず、仲間の死体をハサミで千切って食べ始めた。
「今のうちだ…急げ、急げっ!」
商隊はなんとかその場を切り抜けた。
リューズが言った。
「…危なかったぁ〜〜…!」
オリヴィアが何か口惜しそうだった。
「それにしても…もったいない…。あれだけのヘビとサソリ…ひと財産よねぇ。」
「…おいおい。」
すると、カタリナが言った。
「むふっ…良い事、思いついちゃった!」
「…ん?」
夕方になっても風は収まらなかった。
白の塔になんとか到着した商隊は、たくさんのかがり火を設置した。
「今晩は…来そうだな。」
ベラがモンス除けの香を焚きながら、商隊のテントの周りを見回った。他の仲間とヘイダルは焚き火のそばに座って、パンを齧りながら怯えていた。
風上の闇の中で…ザラザラという砂が動く音がした。
「来るわよっ!ベラ、商隊のテントの風上に立って、護ってっ‼︎」
雇い主が死んでしまっては元も子もない…商隊だけは死守しなければならない。モンス除けの香の風下に商隊がいれば、商隊の方にモンスは行かないだろう…。
ガラガラガラガラ…
威嚇音が聞こえてきた。
「ヘビだ…ヘビが来るぞっ!」
闇の中…地上2m辺りの位置に爛々と光る二つの目があった。そしてそれが、少しずつ近づいて来ていた。
オリヴィアは「鉄砂掌」「鉄指拳」を発動させ、槍で狙いを定めた。巨大サイドワインダーが鎌首をオリヴィアに向けて振り下ろした瞬間、オリヴィアの槍はヘビの下顎に命中しそのまま頭部まで突き抜けた…致命傷だ。
カタリナが叫んだ。
「すぐにヘビを解体してっ!皮剥いで肉だけにして…十個ぐらいに切り分けてっ‼︎」
「…えっ?」
「いいから、早くっ!」
みんなは巨大サイドワインダーを明るいかがり火のところまで引っ張り込むと、頭を落とし、腹を縦に割いて皮を剥がした。辺りに血の匂いが漂った。もちろん、解体作業はオリヴィアが砂蟲の歯の槍先で行った。オリヴィアが文句を言った。
「…皮を剥ぐまではいいけどさ、このぶっとい胴体を切り分けるのには、この槍先はちっちゃすぎるぅ…。」
「はいはい、文句言わない!…もう一枚を私に貸してっ‼︎」
カタリナはオリヴィアからもう一枚の砂蟲の歯を受け取ると、根元を持ってオリヴィアと一緒にヘビの胴体をザクザクと切っていった。
巨大サイドワインダーは直径約30cm、全長10mぐらいあって、十等分すると約1m…血が滴るそのヘビの肉の重さは30kgぐらいか…。
再び風上の方で、砂が動く気配がした。するとカタリナが巨大サイドワインダーの切り分けた死体の肉をその方向に放り込んだ。すると、二匹の巨大サソリがその肉に食いついた。一匹が肉を奪って逃げると、もう一匹がそれを追いかけて…闇の中に消え去った。
リューズが言った。
「おっ、いい塩梅だな…!」
別の方向でも砂の音が聞こえたので、今度はリューズがそこへヘビの肉を放り込んだ。肉の血の匂いに誘われて、一匹の巨大サイドワインダーがそちらの方向に移動していって、その肉を丸呑みにした…その瞬間、別のサイドワインダーが砂の中から現れて、肉を丸呑みにしたサイドワインダーに噛みついた。
ヘビの神経毒は生成した本人でも、その毒が血管内に侵入すると覿面に効果を発揮する。…結果、最初に肉を丸呑みしたサイドワインダーは動かなくなり、後から来たサイドワインダーが死んだサイドワインダーを丸呑みしに掛かった。
「おおっ…こっちに来ないな、いいじゃんかっ!」
カタリナが得意げに言った。
「皮を剥いだせいで血の匂いが強くなったのね…血の匂いで狂っちゃってるのよ。さっきちょっと考えてみたの…餌が一箇所だけだとそこに集まりすぎて…共食いしてくれるのはいいんだけど、餌にあぶれたヤツがこっちに来るでしょ?だから、餌を分散させて仲良く食べてもらうわけ。ある程度、お腹を満たしたら襲って来なくなるし、香の匂いだけで逃げていっちゃうと思ったのよ。」
「…小分けにして、持ち逃げできるようにしたのが絶妙だな!」
オリヴィが不思議そうな顔で言った。
「でもさぁ…それでもこっちに来るヤツはぁ〜〜?」
「それはあんたが始末すればいいじゃん。そしてまた、皮剥いで小分けにしたらいいじゃん。」
「…あっ、そっか。」
その夜は四匹のサラマンダーと三匹のサソリの襲撃を受けたが、なんとか乗り切った。
朝になると、オリヴィアたちは徹夜のまま、商隊を護衛して歩いた。この日は風が止んでいた。
イェルマで鍛えられたオリヴィアたちイェルメイドは一日ぐらいの徹夜はどうということはなかったが、ヘイダルがコクリコクリと船を漕いで今にも崩れ落ちそうだったのでバーバラが背におぶって歩いた。
ちょっとした目算があって、その日はモンス除けの香を焚かなかった。
巨大サソリが現れた。するとすぐに、オリヴィアが砂蟲の歯の槍で退治して尻尾とハサミを跳ねた。そして、残った胴体部分をズタズタに細かくして、商隊の進路の左右前方にばら撒いた。すると、ヘビやサソリが湧いてその肉片を持って、再び砂の中に潜っていった。その真ん中を商隊は悠々と歩いていった。
こうして、オリヴィアたちは貴重な素材を集めながら、イェルマへの帰路を急いだ。




