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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百六十八章 殴り込み

三百六十八章 殴り込み


 オリヴィアたちはヘイダルの先導で、町外れのハッサンの店を目指した。

 店の前までやって来ると、オリヴィアはヘイダルに言った。

「危ないから、ヘイダルはここで待っていて。すぐに終わらせて戻ってくるから。」

「でも…」

 ヘイダルは、たった六人の女で五十人の男相手に勝てるとは思えなかった。そこで、オリヴィアたちがハッサンの店に入るのを見届けると、すぐに憲兵を呼びに走った。

 ハッサンの店は煉瓦と漆喰で作られた小さな酒場だった。

 オリヴィアたちが中に入ると、酒を飲んだり、カードを楽しんだりしていた四十人近い男たちがジロッと視線を送ってきた。

 オリヴィアはカウンター席まで行って、バーテンダーらしき男に言った。

「ここに鍛冶屋の親方はいるぅ?」

「へへへへ、さぁな…。」

 男たちは相手が女と見て…鼻っから舐めて掛かっていた。そして、親方も同じくオリヴィアたちを舐めていた。親方はこの店に籠って明日の朝をやり過ごせば、それで全てが終わると思っていた。

「おい、バーテン…もっと酒をくれっ!…カネなら明日、借金もまとめて全部払うからさ…あっ、お前…‼︎」

「あっ、親方っ…やっぱいたっ‼︎」

 オリヴィアは、奥の部屋からひょっこり現れた鍛冶屋の親方と鉢合わせした。すぐにオリヴィアは親方の首根っこを怪力で押さえつけ、店の外に引きずって行こうとした。

「ハ…ハッサン、助けてくれぇ〜〜…こいつらを何とかしてくれぇ〜〜っ!」

 すると、奥の部屋からハッサンと呼ばれた男が、片手にオリヴィアの槍を持って出てきた。ハッサンが顎で合図をすると…その場にいた男たちが一斉に立ち上がり、腰のナイフやショートソードを抜いた。

 オリヴィアはニヤッと笑うと、親方の顔面に蹴りを入れて動けなくして…無言で腰の二本の柳葉刀を抜き、一本を丸腰のカタリナに投げ渡した。

 オリヴィアが…言った。

「ふふふふ…ここの床は石畳なのねぇ…。」

 数人の男がオリヴィアに詰め寄ってきた。オリヴィアはすかさず右足を強く踏み込んだ。

「うわっ…いきなりか…!」

 リューズたち五人はぴょんと後方に飛び退いた。

ドオオォンッ…!

 オリヴィアは「迎門三不顧」は必要ないと感じ、深度2の「大震脚」を発動させた。綺麗に並んで嵌め込まれていた石畳数枚が外れて、テーブルや椅子が50cmほど宙に浮いた。三人の男がひっくり返り、二人の男はその場で脳震盪を起こしうずくまった。オリヴィアは柳葉刀の峰で、その男たちの頭部をブン殴っていった。

 オリヴィアほどではないが、リューズたちも武闘家房の中堅で、それぞれが深度1をカンストしている猛者だ。武闘家スキル「鷹爪」「鉄さん布」を発動させて、男たちの中になだれ込んでいって、男たちと交戦した。

 ハッサンは笑っていた。だが、リューズが大槍で右の男の頭を叩き割り、その足で左の男の顎を蹴り上げると、ハッサンの笑いは止まった。そして、カタリナが柳葉刀でショートソードを受け、体を翻して後ろ蹴りを男の腹にぶち込むと…ハッサンは脂汗を流し始めた。オリヴィアが「軽身功」を発動させ、頭上に飛び上がって男たちをどんどん蹴り倒していくと、ハッサンは一歩二歩と後退りを始めた。

「この女ども…なんでこんなに強いんだ…?」

 男たちの約半分が床に倒れると、他の男たちは戦意を喪失して武器を捨てて逃げ出していった。所詮は…群れを作って粋がっている素人だった。

 オリヴィアは最後に残ったハッサンの前に歩み寄った。

「あんただけになっちゃいましたねぇ。その槍、わたしのだから返してよ。」

「うぬぬっ…寄るなっ!近づいたら、こいつで突き殺すぞ…知ってるか?こいつは『四硬』のひとつ…砂蟲の歯だぞ、最強の武器だぞっ‼︎」

「ヨンコウ…何じゃ、そりゃ?」

 オリヴィアは構わずにハッサンに向かって歩を進めた。ハッサンは槍でオリヴィアの胸を突いたが、オリヴィアはそれをするりと避けて、ハッサンの片口に柳葉刀の峰を打ち込んだ。

「ヨンコウだか最強だか知らんけど…当たらなけりゃ意味ないっしょ。」

 オリヴィアはうずくまって苦悶の表情をしているハッサンから槍を取り上げ、それをハッサンに突きつけて言った。

「もう一枚は?…言わなきゃこのヨンコウでドタマ、突いちゃうっ!」

「ううう…やめてくれぇ〜〜…奥の部屋の…戸棚の中だぁ〜〜…。」

 オリヴィアはハッサンを放置して、奥の部屋の中に入って、もう一枚の砂蟲の歯を見つけて回収した。

「あったあった。よし、終わった。みんな、帰ろぉ〜〜。」

 その時、ヘイダルが二十人の憲兵を連れて駆けつけて来た。憲兵たちは店の中の状況を見て驚いていた。椅子やテーブルが散乱した店の中で、二十数人の男が床に倒れていて…その中で六人の女が平然と立っている。

「うおおっ…これは一体、どうなっているんだ?」

 すると、ハッサンが叫んだ。

「た…助けてくれ…これはみんな、この女どもがやったんだっ!」

 オリヴィアも叫んだ。

「あんたがわたしのモノを盗ったからでしょーがっ!…あんた、全然懲りてないわねぇ…⁉︎」

 オリヴィアが槍を振り上げると、憲兵のひとりが中に割って入った。

「待て待て、事情を説明してくれ…」

 オリヴィアは自分たちはイェルメイドで、商隊を護衛してマーラントに来たこと、鍛冶屋の親方に砂漠で拾った白い鱗を持ち逃げされたことを説明した。

 憲兵がヘイダルに尋ねた。

「ヘイダル、今の話は本当か⁉︎」

「本当だよ…この槍先はこの姉ちゃんが拾った。鍛冶屋の親方がそれを持ち逃げして、ハッサンの店に逃げ込んだんだ。俺はこの目でちゃんと見てたよ!」

「そうか、分かった。…よし、ハッサンの一味を引っ立てろっ!余罪についても、憲兵詰所でじっくりと吐かせてやるっ‼︎」

 マーラントには独特の風習がある。子供は嘘をつかないとして…十歳以下の子供の証言は尊重される。

 ハッサンの一味は憲兵たちによって連行されていった。

 最後に、憲兵のひとりがオリヴィアに近づいてきて…言った。

「イェルメイドかぁ、通りで強い訳だぁ…。大手柄だったな。それで…ちょっと、その槍を見せてくれないか?」

「…いやあぁ〜〜ん!」

「…盗らないから。」

「…ホントォ〜〜?」

 憲兵はオリヴィアから槍を受け取ると、その槍先をじっと見つめた。

「す、凄いな…これは砂蟲の歯だ。あんた、この辺りであんまりこいつを見せびらかさんでくれよ。こいつは貴重な品だ…欲しい奴はいくらでもいるからな…。」

「えっ、そうなの…お高い物なのっ⁉︎」

「うん…ちょっとしたお城が買えるくらい高いっ!」


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