三百五十五章 耽美会
三百五十五章 耽美会
ガルディン公爵は王宮のサロンでひとり超高級ハーブティーを飲んでいた。このハーブティーは最近になってサロンのメニューに追加されたもので貴族の間で非常に流行していた。…うむ、確かに美味い。銀貨一枚の価値はある…。しかし、儂の好みとしてはもっと濃い味だったらなぁ…。
すると、王宮の警護兵がやって来て、公爵に伝言を伝えた。
「何ぃ…宝石商のウェスターが儂に至急会いたいだと…?せっかく良い気分でハーブティーを嗜んでおったものを、儂を急がせるとは何様のつもりだ…」
「…ヴィオレッタの件と言えば判るそうです…。」
「…!」
公爵は慌ててハーブティーを飲み干すとサロンを飛び出して、そして、王宮の南通用門まで走った。
「おおっ、ウェスター、良い宝石が手に入ったそうではないか。儂の注文通りか?」
「は…はい、それはもうとびっきり上等な品でございますよ…」
「そうか、よし。儂の執務室へ来い。」
二人は警護兵に前後を挟まれて、ガルディン公爵の…宰相の執務室の前まで来た。
「おい警護兵、誰も入れるなよ。」
「はっ!」
奴隷商人ウェスターはガルディン公爵の御用達だった。奴隷商人が王宮を出入りすると障りがあるので「宝石商」という肩書きを与えてやった。
二人は執務室に入ると、早速話を始めた。
「…で、ヴィオレッタの件だと聞いたが…?」
「はい、捕まえました…ヴィオレッタを捕まえましたっ!」
「それは本当かっ!…して、今どこにおる⁉︎」
「私の地下牢に…!」
「よしっ、明日の朝…南通用門に連れてこいっ!傭兵を十人雇って護衛させろっ‼︎」
「え…護衛を十人…⁉︎」
「バカ者、よもや忘れたのではあるまいな…一年前、取り引きの前日にアザル盗賊団にヴィオレッタを掻っ攫われたのを…!お前の失態じゃ、儂は大恥をかいたぞっ‼︎同じ轍は踏まんっ‼︎」
「わ…分かりました。」
「儂は今からジェローム侯爵のところへ行ってくる…間違いなく明日の朝、ヴィオレッタを連れてくるのだぞっ!」
ガルディン公爵の馬車は郊外のとある庭園の前に停まった。すると、十数人の私兵が集まってきた。
「何だ、お前は…ジェローム侯爵に用か⁉︎」
「無礼者め、儂はガルディンじゃっ!早く門を開けよっ‼︎」
「あ…太公様…⁉︎」
私兵が庭園の正門を開けると、ガルディンの馬車は中へと進んでいった。
庭園の中の植栽は手入れが非常に行き届いていて美しかった。それを横目に見ながらどんどんと馬車が進むと、突然…広大な花畑が出現した。
こぢんまりとした二階建ての屋敷があって、その周りには白や黄色の花が溢れんばかりに咲いていて、その中で、数人の小さな女の子たちが花を摘んだり花輪を作ったりして遊んでいた。
女の子の中のひとりがガルディン公爵の馬車に気づいて近寄ってきた。
「おじちゃん、何か御用ですかぁ〜〜?」
その女の子は細い鉄の首輪をしていて、金色の綺麗な髪をまとめて二つのお団子にしていた。そのお団子は金糸で編んだ袋に収まっていて金銀のかんざしで飾られていた。さらには、年端もいかない少女だというのに赤い口紅と紫のアイシャドウの化粧が施されていて、上等な朱色の短めの外套を羽織ってはいたが…それ以外は何も着けていなかった。
「ジェローム殿にガルディンが来たと伝えてくれ。」
それを聞くと、少女は走って屋敷の中に入って行き、しばらくするとジェローム侯爵が玄関に出てきた。
「これはこれは、太公様。お久しぶりでございます。今日は…何か?」
二十代後半であろう若い侯爵は伝令の少女のお尻を撫でながら、そう言った。
「お約束を果たす時が参りましたぞ…ヴィオレッタを見つけましたぞっ!」
「おおっ…銀色の髪の青い瞳のエルフの少女…。やっと…やっと見える事が叶うのか…そして、私のものに…!素晴らしい…素晴らしいっ‼︎」
「その通りです…こちらの手落ちで一年も待たせてしまいましたな。」
「どうぞ、どうぞ中へ…!」
ガルディン公爵は一階の広い応接間に通された。そこにはたくさんのソファが置かれていて、その上で数人の同じような女の子がお茶やお菓子を食べながらくつろいでいた。女の子たちは座っているので…全てを露わにしていた。
ガルディン公爵が中央のテーブルに着くと、少し年上の女の子がティーセットをお盆に乗せて運んできた。
「それで…公爵様、ヴィオレッタはいつ私の手元に…?」
「心配召さるな。明日のお昼に王宮に来てください。そこでお引き渡しいたしますぞ。」
「…王宮で引き渡し?」
「うむ、前回の事がありますからなぁ…。ヴィオレッタを運ぶ馬車は…王宮までは傭兵に護衛させ、王宮からこのジェローム殿の別宅までは王国騎士兵団に護衛させまする。こうすれば、賊のつけ入る隙はありませんぞ。」
「おおっ、それはありがたい!」
「わははは、ジェローム殿も『耽美会』のメンバーではありませんか。同好の者同士…助け合うのは当たり前ですわい。」
ジェローム侯爵には少女愛好の趣味があった。それで、ガルディン公爵主宰の「耽美会」の一員となった。「耽美会」とは、貴族の間で同好の士が集まって作る同好会の中のひとつで、高尚かつ独特な趣味を持つ貴族の集団である。
そう言ってしまうと聞こえは良いが、実は…倒錯、屈折した性癖を持つ変質者の集まりだった。ゲイ、レズビアンはもとより…拷問、虐待、死姦、幼女姦など、暇と金を持て余した貴族が「耽美な趣味」と称してありとあらゆる禁忌を犯していた。
そんなジェローム侯爵は数年前、ラクスマン王国に絶世の美少女の愛玩奴隷がいるという噂を聞いた。銀色の髪に青い瞳、その上、エルフという希少種で歳をとらないと言う…。その時点では、妄想を膨らませるだけに留まっていたジェローム侯爵だったが、その少女がエステリック王国の貴族に転売されたという噂を聞きつけ、我慢ができなくなってエステリック王国にも人脈を持つガルディン公爵に相談した…金に糸目はつけない、謝礼金はいくらでも支払うから是非我が物にしたい…と。
ガルディン公爵はエステリック王国の伝手を手繰って金をばらまき、その少女…つまりはヴィオレッタを買い取ることに成功した。そして、エステリック王国からティアーク王国にヴィオレッタを移送したところを、仲介役の奴隷商人ウェスターの屋敷がアザル盗賊団に襲われヴィオレッタは拐われてしまった…それが約一年前のことだった。
その夜、就寝前にジェローム侯爵は寝室に二人の少女を呼んだ。
ジェロームは椅子に座って、自分の膝に少女ひとりを乗せるとその股間に手を忍ばせた。コロコロと笑っていた少女が体をくねらせ、吐息が次第に熱くなり…喘ぎ声になっていくと、侯爵はそのやるせない表情をニヤニヤしながらじっくりと観察した。少女が昇天して、目を閉じ口を小さく開けた瞬間…ジェロームは自分の股間に猛りを感じ、少し年上のもうひとりの少女が待つベッドの上に飛び乗っていった。
(ふふふふ…ヴィオレッタは美しくてあどけない顔で…どんな表情を私に見せてくれるのだろう…。)




