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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百五十四章 拐(さら)われちゃった!

三百五十四章 さらわれちゃった!


 トム…ティモシーはシーグアの新居のそばで約一時間ほどじっとして、ヴィオレッタが二階から降りてくるのを待っていた。なかなか姿を見せないヴィオレッタにトムは痺れを切らせていた。

「お兄ちゃぁ〜〜ん!」

 どこかで誰かが呼んだ。ふとトムが声のした方向を見ると、小さな女の子がこちらに駆けてくるのが見えた。あれは…五日前に人さらいに拐われる寸前のところをトムが救ってあげた女の子だった。そして、女の子の後から買い物の荷物を両手に抱えた母親が着いてきていた。

「先日はどうもありがとうございました。あなたのおかげで、娘は拐われずにすみました…」

「あっ、いえいえ。冒険者なので、当たり前のことをしただけですよ。」

「何のお礼もしませんで…すぐそこが家なので、お茶でも飲んでいってください。焼き菓子も作ってありますよ。」

 トムは思った…ああ、女の子を助けたのはこの辺りだったっけ…。

「ああ…今、護衛の仕事をしてて…」

「すぐですよ、すぐっ!お礼代わりに体を温めて行ってください!」

(うぅ〜〜ん…喉も乾いてるし、お茶だけもらおうかな…。)

 母親の熱意に負けて、トムは母娘に先導されて近くの家の中に入っていった。

 不運にも、ヴィオレッタが二階から降りてきたのはその直後だった。

 ヴィオレッタはトムを探したが、見回してもどこにもいなかった。ヴィオレッタは裏通りを少し歩いた。

「トム…トムくぅ〜〜ん、ティモシー〜〜…?」

 すると、突然ヴィオレッタの視界が真っ暗になって、体が誰かに持ち上げられた。

(あれ…?)

 ヴィオレッタは大男にすっぽりと麻袋を被せられ、肩に担がれて…拐われてしまった。

 大男が見えなくなったそのすぐ後、トムが裏通りに現れた。そして、まだヴィオレッタが階段から降りてきていないと思い、階段のそばでぼぉ〜〜っと待っていた。

 一時間ほどしてさすがに何かあったかと思い、トムは二階への階段を登っていった。そして、真鍮のドアノブを回して見ると…鍵が掛かっていた。

(内側から鍵が…?)

 何度かノックをしてみたが反応がない。それで不躾ぶしつけとは思いながらも、トムは右手から闇を発して、鍵穴に流し込み…手応えを得たところで闇を固くし、右にひねった。

ガチャッ…

 「ダークエッジ」の応用技だ。

 開いた扉から、トムが恐る恐る中を覗いてみると…人の気配はなかった。

(…誰もいない⁉︎…えっ、セレスティシア様はどこへっ?)

 トムはすぐに一階に降り、念のために一階の部屋も覗いてみた…いなかった。

 ここでただ事でないことに気づいたトムは「ウルフノーズ」を発動させた。すぐにヴィオレッタの残り香を探し当てたが、同時に男の匂いも残っていてトムは確信した。

(…人拐いだっ!)

 トムは真っ青になってヴィオレッタの残り香を追跡していった。が、匂いは表通りに出たところで途絶えていた。トムはその後、裏通りという裏通りをくまなく走り回ってヴィオレッタを探した。

 その頃、ヴィオレッタは麻袋にくるまれたまま、馬車に乗せられて大通りを移動していた。麻袋でくるまれていなければ…メグミちゃんの出番があったかもしれない。人拐いの男をひと噛みすれば、ヴィオレッタは拐われなかったもしれない。

(…何が起こっているの⁉︎…これはどういう状況⁉︎)

 ヴィオレッタは半ばパニックになっていて、それはメグミちゃんも同じだった。

 メグミちゃんは、ヴィオレッタの体じゅうのどこに行っても真っ暗で、外套の外に出ても麻袋に遮られて何をして良いやら分からなかった。

 程なくして、ヴィオレッタは固い床に転がされて麻袋が取り外された…そこは鉄格子に囲まれた地下牢だった。この時初めて、ヴィオレッタは大男の姿を見た。

 すぐにメグミちゃんが反応した。

(こいつ、敵?こいつ、敵⁉︎…噛んじゃう、噛んじゃうよっ!)

(ダメよ、メグミちゃん…状況がまだ全然判らないから…!)

 もし、メグミちゃんが誰彼構わず噛んで殺してしまったら…報復としてヴィオレッタにその責めが来て…殺されてしまうこともある。幸いなことに、鞄の中には「リール女史」があるので、いざとなったら全てを破壊し尽くせばいいのだが…とにかく、相手の戦力が判らないと安易には動けない。

 男は言った。

「…ん⁉︎こいつの耳はおかしいな…どっかの知らない土地の部族か?」

 男は金属製の首輪と大きなヤットコを取り出して、ヴィオレッタに近づいてきた。首輪には小さな穴が空いていて、そこに熱したリベットを差し通してヤットコで挟んで潰せば首輪は外れなくなる。首輪を外すためには…以前アンネリにしてもらったように、ヤスリで削り切るしかない。

 ヴィオレッタは鞄からリール女史を取り出すと男に向けた。

「首輪は嫌です、近寄らないでください!」

「へっ、ナイフ一本で何ができる…抵抗するんじゃねぇっ…」

 すると…

「おい、やめろ。商品に傷をつけるな…。」

 地下牢の通路の奥から、身なりの良い紳士風の男が現れた。

 男はヴィオレッタをじっと見た。見られたヴィオレッタは…その男の顔を思い出した。

(あっ…この男は…奴隷商人のウェスター!)

 男は狂喜して小躍りした。

「おおっ…お前、ヴィオレッタ…ヴィオレッタだな⁉︎…うははははは、ヴィオレッタが戻ってきた…我が手に戻ってきたっ…!」

「お…おかしら?」

「こいつには絶対傷をつけてはならん!俺は今からガルディン公爵様の屋敷に行って、この事を伝えてくる。それまでお前はヴィオレッタを見張っていろ、絶対に逃すんじゃないぞっ!」

 奴隷商人が地下室を出ていくと、男は首輪は諦めてそのまま地下牢の鉄格子に施錠し、椅子と小さなテーブルを持ってきてどしりと腰を下ろした。

 ヴィオレッタはやっと状況を理解した。

(…そうか、私は拐われたのか…。よりにもよって…また昔の奴隷商人に捕まっちゃうなんて…。何とかして逃げなくちゃ…!)

 ヴィオレッタは一生懸命考えた。ここは地下室のようだ…すると、下手に強力な魔法で牢を破壊すると自分も生き埋めになってしまう。それではどうするか…地の精霊ノームの力を借りて、「ビルドベース」を使って地下牢を部分的に変形させる…?スケアクロウのポットピットならば神代語呪文を使って自由自在に変形させてしまうところだろうが…まだ神代語を知らない私には無理だ。結局、一番現実的なのは…牢番の男が牢屋の鍵を開けた瞬間にメグミちゃんにその男を襲わせて逃げる…これしかないか…。

 日が暮れて、数人の男が地下室に入って来た。

 男たちは話を始めた。

「おや、ピューマ…お前、東地区の担当だったろ、何で戻ってきたんだ?」

「…やられた。タイガーさんのチームが全滅した…。」

「えっ、憲兵隊か⁉︎」

「違う…冒険者だ。アジトの中にレイピアのヒラリーがいた…。俺はちょっと遅れてアジトに戻ったんだ…そしたら、アジトから仲間の叫び声が聞こえて…。壊れた窓から中を覗いてみたら…地獄だった…。」

 男たちは別の部屋から酒を持ってきて酒盛りを始めた。

 ヴィオレッタの目論見は外れた。数えてみたら…男たちは七人いた。メグミちゃんの牙の毒は三人分で、四人目からは殺せない。

(うぅ〜〜ん…困った。)


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