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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百五十一章 ヘビとサソリ

三百五十一章 ヘビとサソリ


 オリヴィアたちは商隊を護衛して大砂漠を歩いていた。

 先頭を歩くバーバラが叫んだ。

「警戒体制っ!砂に潜って、前から何か来るっ‼︎」

 バーバラの声に後方にいたオリヴィアとリューズが駆けつけた。

 バーバラが指差した方向を見ると、盛り上がった砂がうねうねとうごめいてゆっくりとこちらに近づいて来ていた。

 オリヴィアは自分の二本の柳葉刀を鞘に収め、カタリナの持っていた大槍を掴んでその盛り上がった砂めがけて投擲した。

ザクッ!

 その瞬間、砂の中から大蛇が現れその鎌首を持ち上げた。ヘビの頭は人間のそれよりもひと回りも大きく、顎のエラが張って三角形をしていてどこかでガラガラガラ…という音が鳴っていた。毒ヘビの特徴をしっかり具えたそれは…大きなガラガラヘビ…巨大サイドワインダーだった。

 首の辺りに刺さった大槍はぷら〜〜んとぶら下がっていて、外皮を貫通していない事を物語っていた。

 リューズが言った。

「皮…ぶ厚そうだな…。」

「おおうっ、上等だあぁっ!」

 オリヴィアは柳葉刀を鞘から抜くと、「鉄砂掌」「鉄線拳」を発動させて巨大サイドワインダー目掛けて走っていった。地面が砂だと足の踏ん張りが効かないので、「箭疾歩」系のスキルは発動させてもあまり意味がない。

 すると、巨大サイドワインダーもオリヴィアに狙いをつけて、カッと口を開き前方に飛び出した鋭い毒牙でオリヴィアに襲いかかった。

 オリヴィアは柳葉刀を二本並行にして、飛んでくるヘビの口を思いっ切り撃ち落とした。

ガキィィンッ!

 柳葉刀とヘビの鼻っ柱が壮絶に激突し、空中にヘビの小さな鱗がキラキラと舞った。

「うひゃ…真正面からぶつかって、鱗だけか…!」

 巨大サイドワインダーは首を引っ込めて、ガラガラという威嚇音はそのままにオリヴィアをじっと睨みつけていた。サイドワインダーの鼻っ柱に血が滲んでいた。

 その時、巨大サイドワインダーがピクッとして、わずかに首を後ろに下げた。

「…むっ⁉︎」

 突然、巨大サイドワインダーはオリヴィアの両眼目掛けて鼻から茶色の毒液を発射した。オリヴィアはケイトの情報でそれを予期していて、柳葉刀を目の前にかざした。毒液は柳葉刀で遮られオリヴィアは両目は守ったが、毒液を頭に浴びてオリヴィアの金色の頭髪はあっという間に金褐色になってしまった。

「うげえぇぇ〜〜っ…‼︎」

 怒ったオリヴィアは二本の柳葉刀を交互にぶん回して、巨大サイドワインダーを攻め立てた。サインドワインダーも応戦してオリヴィアに向かって大きな毒牙を突き立てようとした。

…キイィィン…!

 柳葉刀と毒牙が激しく交錯して、サイドワインダーの毒牙の一本が折れ飛んだ。サイドワインダーは異変を感じ、慌てて後退を始めた。

「さっせるかあぁ〜〜っ!」

 オリヴィアはすぐに駆け寄って巨大サイドワインダーの首の辺りに馬乗りになり、両足で胴体を挟み両腕でチョークスリーパーを仕掛けた。巨大サイドワインダーはその場で体をよじってオリヴィアごと回転し、さらにオリヴィアの体にぐるぐるとトグロを巻いた。

「…うぷっ…!」

 リューズやベラがオリヴィアを助けに入って、大槍や柳葉刀で巨大サラマンダーの腹部分を攻撃した。近距離からの刃は腹部分ならなんとか通って、ザクッザクッと一箇所に集中攻撃をして胴体の切断に成功し、オリヴィアに絡まったヘビの胴体を引き剥がした。

「オ…オリヴィア、大丈夫かっ⁉︎」

「…死ぬかと思ったっ…!」

「よしっ、今度またヘビが出てきたら、このパターンで行こうっ‼︎」

「二度とやるかあぁ〜〜っ‼︎」

 オリヴィアがリューズから手渡された手拭いで頭を拭いていると、辺りの砂がザワザワと騒ぎ始めて、あちらこちらで砂が盛り上がった。驚いたオリヴィアたちはすぐにその場から離れた。

 すると…何匹もの巨大サイドワインダーと巨大サソリが砂の中から現れて、死んだサイドワインダーの死骸に群がった。

「うげえぇ〜〜…気色わるっ!」

 ヘビとサソリたちは死骸を取り合って、終いにはお互いに殺し合いを始めた。

 オリヴィアたちはラクダのお尻を叩いて、商隊を急がせた。

 リューズが叫んだ。

「まずいっ…サソリが一匹、追っかけて来るぞっ!」

「逃げろぉ〜〜っ…!」

 オリヴィアはラクダのお尻をパンパン叩いた。しかし、商隊と巨大サソリとの差はどんどん縮まる一方だった。

 先頭から香を持ったカタリナがやって来て、巨大サソリにその煙を浴びせたが…巨大サソリは止まらなかった。

 リューズが大槍で巨大サソリに向かっていった。オリヴィアはすかさず叫んだ。

「リューズ、尻尾…尻尾の毒針に気をつけてっ!」

「おうさっ!」

 リューズは砂に足を取られて…巨大サソリの左右のハサミと尻尾の針を大槍で捌くので精一杯だった。他のみんなもやって来て、それぞれの武器で巨大サソリを攻撃したが、外甲殻が硬くてダメージを与えることは出来なかった。

 武闘家の特徴は「俊敏な移動」からの「近接攻撃」である。相手の攻撃を素早く回避して懐に潜り込み、至近距離から強力な拳や蹴りで攻撃する。

 しかし、足場が砂となると「俊敏な移動」ができない。そこに砂漠のモンスターは鎌首や尻尾での中距離攻撃を仕掛けてくるのである。ケイトが言った「相性が悪い」とはそういう事だ。

 リューズの左足が巨大サソリのハサミに捉えられた。ハサミはリューズの皮靴の上から締め付け、リューズは悲鳴を上げた。

「うぐっ…痛ってえぇぇ〜〜っ!」

 その瞬間、リューズはバランスを崩して…巨大サソリの毒針を肩に受けてしまった。

「リューズッ…‼︎」

 オリヴィアがリューズのそばまで駆けて行って、柳葉刀でサソリの尻尾を払った。そして、ありったけの力で巨大サソリの頭部を右足の踵で何度も何度も踏みつけた。

 巨大サソリはリューズを放り出して、オリヴィアにその矛先を向けた。

 バーバラとカタリナはすぐにリューズを引き摺っていった。多分、解毒の処置をしてくれるのだろう。

 オリヴィア、ドーラ、ベラが巨大サソリとやり合った。だが、大槍も柳葉刀も巨大サソリの外甲殻を切り裂くことはできなかった。

「くっちょぉ〜〜っ…!」

 すると再び、巨大サソリの右のハサミがオリヴィアの左足を挟んだ。

「痛でっ…」

 オリヴィアは「鉄砂掌」と「鉄線拳」を発動し直して右足の激痛に耐えた。すると、もう一方の右足もハサミに捉えられてしまった。

「くううぅ〜〜っ!」

 怒り心頭のオリヴィアはドーラとベラに向かって叫んだ。

「ドーラ、ベラ…サソリの尻尾をお願いっ!」

「えっ…一体、どうするつもりだっ⁉︎」

 オリヴィアが両手の柳葉刀を砂の上に捨てたので、慌てたドーラとベラは大槍でオリヴィアを襲う巨大サソリの尻尾の毒針を必死に払い除けた。

 オリヴィアは精神集中をして…息を吸い込み、騎馬立ちになって一瞬静止した。そして…

「哈ぁっ‼︎」

 気合いもろとも…瓦割りの要領で巨大サソリの頭部に、オリヴィアは渾身の力で右の鉄拳制裁を突き込んだ。

グシャッ…ミシィ…!

 巨大サソリの頭部の外甲殻にひびが入り…それと同時に巨大サソリは脱力状態となって、ピクピクと痙攣し始めた。すぐにドーラとベラがオリヴィアを巨大サソリのハサミから救出した。オリヴィアは捨て台詞を吐いた。

「へっ…バカめっ!…自滅したわね…‼︎」

 巨大サソリのハサミで両足を万力のように締め付けられ、逆にオリヴィアの両足は固定され砂の上でも絶対的な安定を得た。そして、そこから放たれた鉄拳は100%の力を発揮して、巨大サソリの頭部に致命傷を与えることができたのだ。

 ドーラが言った。

「オリヴィア、やったなっ!」

「リューズは…?」

「大丈夫だ、バーバラとカタリナが毒消しを飲ませた。」

 それを聞いた途端、オリヴィアはその場にしゃがみ込んだ。

「痛ででででぇ…足痛い…拳も痛い…!」

 オリヴィアは裂けた自分の右手の皮手袋を見つめていた。オリヴィアも、そこそこに満身創痍だった。


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