三百四十六章 懐かしきギルド会館 その1
三百四十六章 懐かしきギルド会館 その1
ステメント村を出発したヴィオレッタとガレルはその日の夕方にはティアーク城下町の南城門に辿り着いた。
「ガレルさん、何とか気づかれずに馬も一緒に城門を抜けられないかしら?」
「お任せください。」
自分ひとりだけなら「水渡り」で城壁を飛び越せば良いのだが、ガレルと馬が一緒だと無理だ。
ガレルは「シャドウハイド」で城門近くまで移動すると、左手に闇を纏い、その闇を地面に這わせてそれを城門の衛兵たちの足元まで移動させた。闇は門番たちの革靴に入り込んで地肌から浸透していった。
「うう…気分が悪い…」
六人の門番はパタパタと昏倒していった。ダークエルフの闇魔法「ダークディシーズ」である。
ヴィオレッタとガレルは馬を連れて城門を抜けていった。ヴィオレッタにとっては約九ヶ月ぶりのティアーク城下町だった。
二人はその日は極楽亭と赤貧亭以外の宿屋を探して泊まった。
次の朝、宿屋を出たヴィオレッタとガレルはその足で冒険者ギルドに向かった。
二人は冒険者ギルドに入ると、何食わぬ顔で窓際のテーブル席に対面同士に座り、お茶を注文した。隣同士で座ると常駐している精霊が反発し合って、大変な事が起こる。
「久しぶりですねぇ、ここ。」
「え、セレ…ヴィオレッタ様はここに来られたことが?」
「ええ…懐かしいですねぇ。もう、あれから九ヶ月も経つのかぁ…。」
すると、極楽亭で朝食を摂ったジョルジュとトムが冒険者ギルドに入って来た。ジョルジュはすぐにクエストの掲示板に走っていったが、トムは気配を感じてか…窓際のテーブルを見た。バンダナを深めに被ったガレルが手を振っていた。
(うえええええええぇっ…!何でガレル義叔父さんがここに…⁉︎)
トムが近くに寄るとヴィオレッタがいたので、トムは二度びっくりした。
「えっ…えっ…ええっ⁉︎…セレスティシアさ…ま?」
「やあ、ティモシー。頑張ってますかぁ〜〜?」
三人は再会を喜びあって、ティモシーはこれまでの城下町での出来事をヴィオレッタに一生懸命話して聞かせた。するとジョルジュがやって来た。
「あれ、この人たちトムの知り合い?」
「ま…まあね。」
「へえぇ、あなたはティモ…じゃなくてトムのお友達?」
「ああ、俺はジョルジュってんだ、よろしく。あれ…前にどっかで会ったことなかったっけ…?」
ヴィオレッタは思い出した。
(…あっ!この子って…以前、オリヴィアが追いかけ回してた男の子ね⁉︎背が伸びたなぁ…。)
「そうね…会ったことある…かも?とにかく…よろしくね。」
すると、ギルド会館の外から下品な笑い声が聞こえてきて、ベロニカが二人の老人を連れて入ってきた。何事かあると必ず顔を出すベロニカの才能は非常に恐ろしい。
「うひゃひゃひゃひゃっ…マスターヨワヒム、そんなに落ち込むことないってぇ〜〜。誰にだって失敗はあるんだからぁ〜〜…くひひひひ…。」
「だったら、そんなに笑うでないわっ!」
ベロニカはジョルジュとトムを見つけると、駆け寄ってきて言った。
「ねぇ、聞いて聞いてぇ〜〜っ!マスターヨワヒムったらねぇ…」
「あっ、こら…!」
「…『ブロウ』と『ヒール』の魔法スクロールへの転写が成功したって言うんで、今、実験に付き合って来たのよぉ…『ブロウ』は成功したんだけどさぁ、『ヒール』って怪我人がいないと確認できないじゃん?それで私が被験者を探してきて…一発ぶん殴った訳よぉ〜〜。そしたらさぁ、『ヒール』の魔法スクロールが発動しなくてさぁ…賠償金払えとか、憲兵呼ぶとか…大事になっちゃって…可笑しいったらありゃしない…ぷふふふっ!」
ヴィオレッタはベロニカの言葉のある一部分が凄く気になった。
「…今、魔法スクロールとか…転写とか、言いましたよね。それって…?」
「ん…誰、この人たち…新顔?」
するとジョルジュが言った。
「トムの知り合いなんだって。名前は…えっと、まだ聞いてないや、あははは。」
「ヴィオレッタと申します。」
その名前を聞いて…ジョルジュとベロニカは「あれ?」と思った。
(…そういう名前の女の子を、うちのギルドで探してたんじゃなかったっけ?)
首を傾げている二人をよそに、ヴィオレッタは二人の老人…ヨワヒムとライバックに質問をした。
「今、お話にあった魔法スクロールって何でしょう?」
ヨワヒムが答えた。
「その名の通り、魔法のスクロールじゃ。魔法を羊皮紙に転写して、魔力を持たぬ者でも魔法が使えるようにした画期的な発明じゃ。」
「おおっ…それは凄い!本当にそんなことがっ⁉︎」
「本当じゃとも。お嬢ちゃんは…魔法に興味があるのかな?…であれば、魔法スクロール…一本買わないか?銀貨一枚じゃ。」
「買います!」
ベロニカはヴィオレッタに必死に手を振って、「やめとけやめとけ」の合図を送っていた。
しかし、ヴィオレッタはヨワヒムに銀貨を渡して、「ブロウ」の魔法スクロールを一本買った。そしてすぐに、そのスクロールを開いて丹念に調べ始めた。
「おぉ〜〜、見事な魔法陣ですね。この文字は…古代エルフ語…神代文字ですね。ふむふむ、お爺様の日記でちょっとだけ見ましたけど…この文字は…シルフィと読むのかな?」
ヨワヒムとライバックは血相を変えた。
「お…お主、何者じゃっ⁉︎なぜ、神代文字を知っておるっ⁉︎」
「私も魔道士の端くれなので…あははは。」
「お嬢ちゃん…話が合いそうじゃ、ちょっと話そう!」
みんながテーブルに腰掛けて魔法に関する込み入った話が始まると、ベロニカはさりげなく受付カウンターのレイチェルのところに行って…ホーキンズを呼んで来るように伝えた。




