三百四十一章 小遣い稼ぎ
三百四十一章 小遣い稼ぎ
お昼頃、オリヴィアは房主堂の高床の上に寝そべって、房主のジルと一緒にお茶を啜っていた。その前では、数人のイェルメイドが正拳突きの練習をしていた。彼女たちはオリヴィアの華麗でいて尚且つ強い武術に魅せられて集まった若い拳士たちだ。
オリヴィアは鼻をほじりながら言った。
「ほらほらっ、姿勢が疎かになってるわよ!お尻を締めて仙骨を中に入れなさい、もっとお腹をへっこまして…そんなことじゃ、相手に拳が当たっても仰け反っちゃうわよ‼︎」
オリヴィアは隊長としてイェルマ橋駐屯地に行って…セドリックと×××する以外は暇で暇で仕方なかった。
その時、オリヴィア愚連隊のひとり、ベラが息を切らして武闘家房へ駆け込んできた。
「オリヴィアァ〜〜ッ…!」
「ん…ベラ?どったの?」
「お前、暇かっ⁉︎」
「見ての通りよ。」
「じゃ、護衛やろうぜ…!」
「…ん?」
それを聞いていたジルがオリヴィアが寝そべっている縁側まで出てきた。
「あっ…房主様…いらっしゃったとは気付きませんでした。失礼しました…。」
ジルが言った。
「確か、お前とリューズ、それからドーラは当番で西城門の人員整理をしていたはずだな?」
「はい…。」
ベラが詳細を語った。
西城門を通過しようとする貿易商人の馬車隊をリューズが停めたところ、その貿易商人はオアシス国家マーラントまで行くと言う。その上、マーラントまでの護衛をイェルメイドに依頼したいと言ってきたのだ。
リューズはすぐにドーラを練兵部管理事務所に走らせて、護衛業務の許可と護衛料の見積もりを申請した。管理事務所はすぐに許可を出し、リューズに護衛隊の編成を一任したのだ。
リューズは武闘家房で護衛の仕事をひとり占めするため、ベラを武闘家房へ走らせたのだ。護衛の仕事は良い小遣い稼ぎになる。
「護衛は六人…マーラントまでは往復で約二十日だ。日当はひとり当たり銀貨1枚で…もし、モンスターが出て倒したらその都度、別途謝礼金が出る。半分は事務所に持っていかれるが…行って帰れば最低でも銀貨10枚になるぞ、行くか⁉︎」
「どっしよっかなぁ…。セドリックには会いたいし…六月には建国祭があるし…」
「…セドリックにはいつでも会えるだろっ!建国祭は六月十日…十分、間に合うじゃないか!」
「…タマラとペトラが一緒だと、嫌だなぁ…。」
不平の多いオリヴィアだった。すると、ジルが言った。
「オリヴィア、行っておいで。タマラとペトラには留守番させるから。」
「えっ、ホント⁉︎じゃ、行ってくるぅ〜〜!」
ジルがタマラとペトラに留守番をさせるにはそれなりの理由があった。六月には、もしかしたら同盟国の侵攻があるかもしれない。武闘家房の主力の三人全てをイェルマから遠ざける訳にはいかなかったのだ。
ベラは武闘家房の中堅二人、カタリナとバーバラにも声を掛けた。二人は喜んで引き受けた。これで、オリヴィア愚連隊の四人とカタリナ、バーバラの六人でのオアシス国家マーラントへの護衛の旅が決定した。
みんなが中央通りまで降りていくと、ドーラが二十日分の食料と荷馬車を用意してみんなを待っていた。
「お〜〜い、こっちこっち!」
みんなは皮鎧と槍や剣を手に持って荷馬車に乗り込んだ。
リューズが言った。
「このメンバーで行動するのはチョ〜〜久しぶりだなっ!」
すると、カタリナが言った。
「オリヴィア愚連隊と一緒にしないでよぉ…。」
みんなはゲラゲラと笑った。馬車は先行する貿易商人の馬車隊を追いかけた。
馬車隊は丸一日を掛けてイェルマ渓谷の中央通りを抜けた。馬車隊を見た東城門の衛兵はリューズの魚璽を見て城門の扉を開けた。
城門をくぐった馬車隊の目の前には草原が広がっていた。これを左に曲がって北上すると、獣人族の国がある。右に折れて南下していくと、いくつかの草原の民の民族国家がある。オアシス国家マーラントに行くためには、ここを直進してトリゴン大砂漠を横断せねばならない。
一日掛けて草原を渡りきると、そこには大きなゲルがいくつも建っていた…コジョーの町である。何十頭という薄茶色の獣が紐で繋がれていて、その獣は顔はヒツジに似ていて背中が非常に盛り上がっていた。
リューズが叫んだ。
「おおっ、オリヴィア、見ろよ!ラクダだ、ラクダ…‼︎」
「わっ、面白い顔…初めて見たわ!」
「ここで馬車を預けて、荷物をラクダに載せ替えるみたいだ。」
ここは「砂漠交易路」と呼ばれる比較的安全に砂漠を横断できる航路の終点で、周辺の砂漠の民が簡易的な宿やラクダの貸し出しをして、商隊相手の商売をしている。
また、根本的に人種が違うようで、西世界とは全く違う文化や風習を持っているようだった。例えば、一年を通して日射量が多いせいか、日光から肌を守るためにローブのような長めの着衣で、膝のところまで伸びる大きめの外套を頭から被っていて…それがずれ落ちないように帽子のような物を頭に乗せているのが特徴的だった。
オリヴィアたちの商隊はここで一泊し、荷物を載せ替えて明日の早朝…広大なトリゴン大砂漠へと出発する。
オリヴィアたちは荷馬車からの荷下ろしを完了させると、六人でゲルを見て回った。ゲルでは見たこともない食べ物や料理、東の国の小物などが売っていた。
「おっ…何か、食い物売ってるぞ。」
「どれどれぇ…これはお米の食べ物かなぁ?」
ゲルの料理人が火に掛かった底の薄い大きな鍋に研いだお米と水を入れ、そこに調味料とニガウリ、タマネギ、トマト、ピーマン、パプリカ、鶏肉などの具材を直接放り込んで蓋をした。そして、「四十分したらおいで」と言った…パエリヤだ。
バーバラが叫んだ。
「みんな、こっちこっち!」
「何かあったか?…なんじゃ、こりゃ⁉︎…野菜か、果物か…?」
ゲルの主人が緑色の瓜の上部をナタでスパッと切って、銅貨15枚と引き換えにバーバラに渡した。バーバラはそれを唇に当てがって、中の果汁を飲み始めた…ココナッツジュースだ。
「…甘ぁ〜〜い!」
「あっ…わたしも、わたしも!」
「おおっ、こっちも!」
主人は銅貨15枚を四人に要求した。オリヴィアとリューズはバーバラの顔をじっと見つめて…言った。
「バーバラ、ごめんだけど…後で払うから、立て替えといてぇ…?」
「えええぇっ⁉︎」
その後、ナツメをひと袋買ってみんなで分けて食べ、パエリヤが出来上がったのでパエリヤを食べた。
バーバラが言った。
「あんたらさぁ…護衛料が入ったら、すぐ立て替えたお金返してよぉっ⁉︎…絶対、忘れないからねぇ〜〜っ!」
「分かってる、分かってるってぇ〜〜っ!」




