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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百四十章 謝恩旅行

三百四十章 謝恩旅行


 早朝、ヴィオレッタはエヴェレットや他の人に気づかれないよう、音を立てずに宿屋の部屋を抜け出すと、宿屋の馬屋にやって来た。

 馬屋の前には、すでにガレルとグラントが待機していた。

 二頭の馬が用意されていて、馬には当座の食糧と水の皮袋が縛り付けてあった。

 ガレルとヴィオレッタはそれぞれ馬に跨って静かに宿屋を出ていくと、グラントはそれに手を振った。

「セレスティシア様ぁ〜〜、気をつけてくださいよぉ〜〜!」

「グラントさん、またティアークの冒険者ギルドで会いましょう。」

 ヴィオレッタはドルインを抜け出してベルデンを突っ切り、そのままラクスマン王国へ入るつもりだった。どうせしばらくすればエヴェレットたちにばれるだろう…しかし、そのためにグラントを残したのだ。

 グラントの役目はヴィオレッタの失踪に気づいたエヴェレットたちにひたすら説明をして、後を追いかけて来させないようにすることだ。

 その後グラントはラクスマンとエステリックの城下町の冒険者ギルドを回り、レイモンドとダスティンから情報を回収した後、ティアーク城下町の冒険者ギルドでヴィオレッタたちと落ち合う手筈となっていた。

 ヴィオレッタとガレルは馬に乗ってベルデンの国境を目指した。お昼前にはベルデンの国境を越え、夕方にはベルデンの検問所に到着した。そこを通過して、峠の抜け道を登って行った。

「…追って来ないようですね。グラントさん、ちゃんと役に立ってくれたみたいですね。さすがに、エヴェレットさんたちに追いつかれたら、引き返さなくてはならないですからねぇ…。」

「でも、大丈夫ですか…?」

「ガレルさんなら…私ぐらいはちゃんと護衛してくれるでしょう?そのために、着いてきてもらったんですよ。」

「は…はい!命に換えましても…‼︎」

「命に換えちゃダメですよ。」

 ヴィオレッタとガレルは峠で早めの夕食を摂り、そこで野宿をした。

 朝早く出発した二人は、峠を抜けてすぐにラクスマン王国の領土に入った。馬を操りながらガレルが言った。

「私はラクスマンは来たことがありませんが…セレスティシア様は?」

「私は来た事がありますよ。まさにこの道を通ってリーンに帰ってきたんです。今回はお世話になった人たちにお礼をして回ろうと思ってます。…謝恩会ならぬ謝恩旅行ですね。まぁ、そのついでに…本を一冊回収しようかなと。」

 ヴィオレッタは本当は伯母のユグリウシアがいると言うイェルマ渓谷も訪問したかったが、それは日にちが掛かり過ぎるので断念した。が、しかし…実は、この後ヴィオレッタは事件に巻き込まれ、謀らずもイェルマを訪れることとなる。ヴィオレッタが予想した以上に遥かに長い旅の始まりである。

「それで…この道をまっすぐでいいんですか?」

「そうですねぇ…来た時はヤギの足で十日ぐらいだったから、馬なら三日ぐらい南下したら、ステメント村に入る横道があるはずです…」

「…ヤギの足?」

「ステメント村は『牛』で成功した村だと聞いてます。ちょっと視察のために立ち寄りたいと思います。」

「わ…分かりました、横道に注意します。」


 三日経過して、ガレルとヴィオレッタが馬を走らせていると横道が見えてきた。

 先頭を行くガレルが言った。

「横道が見えてきましたよ。きっと、あれでしょう…。」

 二人の馬は横道に入ってずっとまっすぐ道なりに進んだ。すぐに二人は「牛」を強烈に感じた。道の上に無造作に落ちていて凄い匂いを放つ黒い物体…遠くから聞こえてくる「モ〜〜ッ」という鳴き声…。

 ヴィオレッタはいつも首に巻いている喪章代わりの黒いスカーフを肩掛け鞄にしまった。

 ヴィオレッタたちは外套とフードを深く被ってステメント村に入ると、村じゅうのあちらこちらを牛が徘徊していた。

「おお…これが牛か、ヤクに似てますね。それにしても…村の中で放し飼いとは変わってますね。」

 二人は宿屋を探した。ガレルに馬を曳かせてヴィオレッタが村の中をトコトコ歩いていると、第一村人が駆け足で二人の前を横切って行って、牛の耳のタグを調べると牛の一頭を引っ張っていた。

 ヴィオレッタはその男に声を掛けた。

「あのもしもし、お忙しいところすみません…この村に宿屋はありませんか?」

「何だ、旅人か?あそこの大きな家が宿屋だ。早く行って…あんたらも避難した方がいいぞ。もしかしたら、ここまで降りてくるかもしれんからな。」

「…?」

 男は牛を一頭、もう一頭と集めながら急いで走って去っていった。

 ヴィオレッタとガレルは宿屋に入った。ヴィオレッタはカウンターに行って宿屋の主人に言った。

「泊まりたいんですけど、部屋は二つありますか?」

「あるよ。しかし…あんたたち、運が悪いねぇ。こんな時にステメント村に来るなんてさ…。」

「どうかしたんですか?」

「出たんだよ…はぐれオークが…。」

「はぐれオーク?」

「ここは夏になると、毎年決まってオークが沸くんだよ。オークが沸くと、冒険者たちが来てオークを退治してくれるんだが…たまに、時期はずれで何匹か群れからはぐれたオークが山から降りてくるんだ…」

 ヴィオレッタは思った。そういえば、ダフネたちがオーク討伐に出かけていた時に、この村を目指してティアーク城下町を抜け出したけれど、途中で食中毒に見舞われてジャクリーヌたちに救われた…そんなことがあったなぁ…。

 主人が続けた。

「…牛を見ただろう?」

「…見ました。」

「牛の放牧地にオークが現れやがって、三頭ほどやられた。…だもんで、放牧地の牛を全部村に降ろしたのさ…今はそれで村の中はてんてこ舞いさ。」

「そうですかぁ…もう少し落ち着いた状態の村を視察したかったなぁ…。」

 すると、ガレルが主人に言った。

「…オークは何匹ですか?」

「見た奴の話だと…三匹…?」

「セレ…いや、ヴィオレッタ様…私が退治してきましょうか?」

 同盟国領内では、セレスティシアではなくヴィオレッタと呼んでもらう事にしていた。

「…ん、できる?」

 主人が驚いて言った。

「えっ…あんたひとりで⁉︎…あんたたち何者だいっ?」

「あっ…えっと、実はですねぇ…この人、冒険者なんですよ。私は女の子だから、ひとり旅は怖くて…旅の護衛を頼んだんですよ…。」

 咄嗟についたヴィオレッタの嘘だった。

「おおっ…そうでしたか!いつもお世話になってるティアークの冒険者ギルドに討伐依頼をしよかと、さっき村長と話をしていたところです…いやぁっ、ちょうど良かった、是非お願いします‼︎」


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