三百三十九章 反省会
三百三十九章 反省会
次の日、ヴィオレッタたちはドルインの宿屋の一室でワイバーンとの戦いの反省会をしていた。
ヴィオレッタは言った。
「弩は…二基では全然足りませんでしたねぇ…。」
それに対してルドが答えた。
「船首、船尾…それから右舷、左舷、あと…直上にも必要ですねぇ…。」
「一艘につき弩が五基かぁ〜〜…物入りですねぇ〜〜…。」
エスメリアが右手の鶏のもも肉に食いつきながら言った。
『ワイバーン三十匹とか、そう滅多にある事じゃないですよ…。』
エヴェレットが不安そうな顔をして、ヴィオレッタを睨みつけていた。
「もう二度とあんな無茶な真似はしないでくださいまし。寿命が縮まるかと思いましたよ。」
「ああ、あの『トルネード』ね…あの時はあれしかないと思ったんですよ。『ウィンドカッター』の手応えが薄かったので…水竜巻なら確実かなって…。ふふふ…エヴェレットさんは四百三十八歳でしょう?二千歳まで生きるとして…あと何度か寿命が縮まったとしても平気でしょう…」
「セレスティシア様っ!私は大真面目です…もっと自重してくださいましっ‼︎」
「…すみません。」
冗談なのになぁ…と、ヴィオレッタは思った。横でエスメリアがケラケラと笑っていた。
エドナが言った。
「私は大型船の船長に任命されるそうなんですけど…何をしたら?」
「重要なポストですよ。これから大型船の新造船が増える予定です。そうなると、調子に乗ってルールを守らない人が出てくると思うので…マーマンとの友好条約を絶対に遵守させてください。それと、ワイバーンと戦うことになったらに艦隊司令官として、船団を指揮してください。本当なら、ルドさんに任せるところなんですが…ルドさんにはバーグ族長区に要塞司令官として赴任してもらって、三つの要塞の連携を指揮してもらおうと思ってます。ええと…エドナさんは…『念話』ってできましたっけ?」
「わ…私は、基本は兵士ですので…。最近やっと、『水渡り』っぽいかなぁ…みたいな…頑張ってはいるんですよ⁉︎」
「要するに、『念話』はまだできないんですね?」
「…すみません。」
「ルドさんは?」
ルドも焦っていた。
「う…私も兵士なので…すみません。」
「そうですか…。二人とも『念話』ができるように努力してください。エドナさんはエスメリアさんと『念話』で会話をする必要がありますし、ルドさんは他の要塞のザクレンさんやジャクリーヌさんと会話をする必要が出て来ますので…。」
ルドもエドナも、リーン一族のハーフエルフの中では風の精霊シルフィを認識できるハーフエルフだ。資質は十分にあるので、少し訓練すれば「念話」はすぐに習得できるだろうとヴィオレッタは思っていた。
エヴェレットがエスメリアに尋ねた。
『エスメリアさんは「念話」はできますか?』
エスメリアは地酒を片手にちびちびとやりながら答えた。
『できますよ。風の精霊魔法の初歩じゃないですか!』
エドナはふと思った。
(「念話」ができたとしても…エルフ語で喋ってこられてもねぇ…。)
ヴィオレッタが総括して、反省会の最後を締め括った。
「では、ルドさん。弩をあと三基ほど作って大型船に設置して…その後、ドルインにお願いします。エドナさんは大型船を含めた漁船団の運用と指示をお願いします。新造船が出来上がって来たら、それにも弩を五基付けてあげてください。それと、エスメリアさんとの連絡も密にお願いします。時々、エスメリアさんに鶏肉をご馳走してあげてくださいね。」
エスメリアが二杯目の地酒を片手にして言った。
『セレスティシアは…もう、リーンに帰ってしまうのですか?寂しくなりますね…。』
おおっ、短文だ…!
『はい、帰ります。また会います。その間、エスメリアは健康でいてください。私も寂しいです。』
この…公の場では、ヴィオレッタは「リーンに帰る」と…言った。
ヴィオレッタはエスメリアを見送ると、宿屋に戻った。そしてすぐに、ガレルとグラントをこっそりと自分の部屋に呼んだ。
「誰にも気づかれてはいませんか?」
「…大丈夫です。」
「ガレルさん、グラントさん…良いですか?手筈通り…明日の朝、決行しますよ。」
グラントがちょっと嫌そうな顔をした。
「セレスティシア様、ほ…本当にやるんですか⁉︎…昨日の今日で…エヴェレット様、絶対に爆発しますよ…⁉︎」
「やりますよ…エヴェレットさんには申し訳ないけれど、今が絶好の機会なんです!」




