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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百三十三章 友好条約

三百三十三章 友好条約


 その夜、ドルイン港の宿屋の一室でマーマン族代表エスメリア=ハイデルと、リーン族長区連邦代表セレスティア=リーンの間で、友好条約締結の調印式が行われた。

 まず人語の調印書が一通、それからエヴェレットがエルフ語に翻訳したものが一通、都合二通が作成され、ドルイン族長とドルイン港湾監督の監視の下…エスメリアとヴィオレッタが二通の調印書にサインをした。

 調印書は次の通り…


 リーン族長区連邦(以下リーンの民と言う)とマーマン族(以下マーマンと言う)は互いに友人と認め、ここに友好条約を締結する。有効期限は無期限とし、双方の話し合いによってのみ破棄されるものとする。但し、リーンの民とマーマンのどちらかが一方的にこの条約に違反した場合、その時点においてこの条約は失効するものとする。

 条約締結の内容は以下の通りである。

 1、リーンの民とマーマンは互いに傷つけ合わない。

 2、リーンの民の領土とマーマンの領土は互いに共有する。

 3、リーンの民とマーマンは、善意の下、可能な限りの相互扶助をする。

 以上の約束の証として、リーンの民はマーマンに対して毎週ひと樽のドルイン産地酒を提供すること。また、マーマンはリーンの民に対してリーンの漁船の保全を行うこと。

 セレスティシア歴2年 5月4日 セレスティシア=リーン エスメリア=ハイデル


 ヴィオレッタとエスメリアは互いに握手を交わした。

『セレスティシア、今度、みんなで漁に行きましょう。良い漁場を知っているわ。』

『ありがとうございます。しかし、弩が必要です。弩を作ります。弩は後ろです。三日さんにち過ぎます。』

『ふふふ、大型船の船尾にもう一本、弩を準備するんですね、それで三日掛かるんですね?…分かりました。では、三日後にまた会いましょう。』

 日が落ちて、辺りはすでに真っ暗だった。しかし、エスメリアはマーマンの洞窟に帰ると言った。ヴィオレッタはエスメリアに宿に泊まるように勧めたが…

『ありがとう、セレスティシア。でも、早く帰って見張ってないと…マーメイドたちが酒樽を空にしちゃうかも…。飲みすぎはさすがに毒なので…!』

 エスメリアは宿から出ると、岸壁で以前マーマンを呼んだ時と同じような魔法の呪文を唱えた。すると…夜の海面から何やら黒いものが現れて、なんと岸壁にぴょんと飛び乗った。

 ヴィオレッタたちは驚いた。

「な…何、アレッ⁉︎…馬のモンスター…?」

 それは馬によく似てはいたが、四本の足の蹄の代わりにカエルのような水掻きを持った妖精…ケルピーだった。イェルマ渓谷に現れたものと同じ妖精だ。

『これはケルピーという水の妖精です。両親が餌付けをして私が引き継ぎました…私の友達です。』

「この怪物を…飼い慣らしているんですか⁉︎」

 エヴェレットはヴィオレッタの言葉をすぐにエルフ語に訳してエスメリアに伝えた。

『飼い慣らす…というのはちょっと語弊があるかなぁ…。こちらが誠意を持って接すれば、妖精は友達だと思って自分の命すら顧みずに尽くしてくれます。妖精は…良くしてあげると、それに報いてくれる生き物なんです。寄り添う者が正しい者だと善い精霊になるし…悪いと、凶悪な精霊になります。』

「…ふうぅ〜〜ん…。」

 エスメリアはケルピーに跨ると、真っ暗な海の…海面を走ってそのまま闇の中に消えた。

 エスメリアを見送った後、ヴィオレッタたちが宿に帰ると…ドルインの族長と総督のホセが手ぐすねを引いて待っていた。

 ホセがニコニコしてヴィオレッタに言った。

「大型船、弩、それにマーマン族との友好条約…色んな問題が一気に片付きましたねぇ…。」

「そうですねぇ。」

「三日前でしたか…セレスティシア様は大型船をもっと増やすお考えだと仰っておいででしたよね?」

「はいはい、そのつもりです。」

「族長とも話をしたんですが、どうでしょうか…次の大型船の建造にドルインも出資したいと思います。」

「…どのくらい?」

「…100%…くらい…。」

「いいですよ。」

「…おおっ!」

「そのかわり、現在運用している大型船を旗艦として、エドナさんを艦長とし漁船全体の運用の管理をさせたいのですが…」

「そ…それは…」

「この大型船の建造にはエルフの技術が不可欠です。弩も設計図を持っているのは私です…。これからの漁はマーマン族と連携して効率よくやっていきたいと思っています…そのためには、明確な指揮系統が必要になってくるでしょう?…まぁ、そんなに構えないでくださいよ。自分の船で獲ったお魚は全部持っていってもらって構いませんから。」

「おおっ…そういうことなら…わははは。」

 マーマン族と友好条約を交わしたとはいえ、やはり条約の実効性を監視する者が必要だ。また…もし、この条約を反故にする者が現れるとすれば、多分それは人間側ではないかとヴィオレッタは危惧していた。エドナはお目付役だ。


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