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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百三十章 海のエルフ、エスメリア

三百三十章 海のエルフ、エスメリア


 エスメリアがヴィオレッタに向かって切り出した。

『セレスティシア…あなたがここの王ですね?』

 いきなり矛先を向けられたヴィオレッタはしどろもどろになりながらも答えた。

『ほ…ほえぇぇっ…!私は王様ではありません、しかし、王様に近いです…‼︎』

『セレスティシア…マーマンの王に会ってはいただけませんか?』

『…王⁉︎』

『今回は私の独断でここにやって来ました。実は…王は人間に懐疑的です。でも、エルフは信用しています。ですから、私と同じエルフが人間側にもいて人間を束ねていると知ったら、きっと…人間とマーマンの間の諍いも終わらせることができるのではないかと…!』

 ヴィオレッタはハッとしてエヴェレットの顔を見た…長文だったから!

 エヴェレットに通訳してもらって、それを聞くと…ヴィオレッタは即答した。

『分かりました!私はマーマンの王に会います‼︎』

 それを聞いてエスメリアは大喜びしていたが、エヴェレットは慌てていた。

「…良いのですか?マーマンの王に会うということは…マーマンの巣に赴くということでは…?」

「大丈夫だと思います。私はエスメリアを信じます。」

 仕方なく…エヴェレットはエスメリアとマーマンの王に会うための段取りを話し合った。

「…今日はもう無理みたいですね。」

「どうして?」

「今はちょうど満ち潮で、マーマンの巣がある洞窟が海中に隠れてしまうそうです。私たちは…泳げませんでしょう?」

「そ…そうか。じゃぁ、明日、引き潮に合わせて出発しましょう。エスメリアさんには今晩はこの宿に泊まってもらいましょう。」

 その夜はエスメリアも一緒に食卓を囲んだ。港町だというのに…夕食の料理は鶏肉となった。エスメリアの要望である。

『ずぅ〜〜っとお魚だったんです。これからもお魚なんでしょうねぇ…。こうして、人間の家にお泊まりした時ぐらい、お肉を食べたい…昔、父上、母上と食べた鳥のお肉が食べたい…。』

 ヴィオレッタが言った。

『私は鳥の肉はとても大好きです。私とエスメリアは趣味が同じです。』

 エスメリアはクスクス笑いながら、出てきたローストチキンを口に入れた。

『ああ…神よ!なんて美味しいのかしら‼︎…私は塩味しか知らないの。この…お肉に掛かったソース…絶品だわっ‼︎』

 ヴィオレッタはエスメリアが鶏肉の料理を気に入って絶賛していることだけは…何となく分かった。

 エヴェレットは食事をしながら…エルフの歴史について、ハイデル一族について、ヴィオレッタにかいつまんで語って聞かせた。

 はるか昔、リーン一族とハイデル一族はそれぞれの部族を従えて西のエルフの国から大船団を組んで、新天地を求めてこの大陸に渡って来たのだと言う。それが二千年前のことで、当時は人間も集落を作るだけの小集団で脅威ではなかった。

 人間が村を作り、街を作り、小さな民族国家を作った頃…第一次人魔対戦が起こった。疲弊した人間たちはエルフを頼り…その結果、リーン共栄圏が誕生した。

 エルフを頼らなかった人間たちは人間のみで結束し、魔族軍に立ち向かった。その時に「勇者」が現れ、後の貴族たちの祖先である「英雄」が現れ…魔族軍を魔族領まで撤退せしめた。これが第二次人魔大戦である。

 その後、人間の国は三つの国に集約され領土拡大を図って、人間ではないエルフが統治するリーンを攻めるようになった。

 終わりの見えない争いに嫌気がさしたエルフたちはリーンを捨て、さらなる新天地を求めて旅立った…それがハイデル一族であり、ユグリウシアだった。人間という種族の勃興を見て、エルフの時代の終焉を予見したというのも一因ではあるが…。

 リーンを出発したエルフたちはドルイン湾でふた手に分かれた。ユグリウシアたちはそのまま陸路を進んで、結果…イェルマ渓谷に到達した。

 ハイデル一族率いる一団は海を目指した。これが「海のエルフ」と呼ばれる所以である。新天地を目指して船出し、行き着いた先は…皮肉にも魔族領だった。それを知ってドルイン湾に引き返したのが…エスメリアの両親なのである。

『ああ〜〜、小麦粉のパン…美味しいぃ〜〜っ!昔は母上がよく焼いてくれましたねぇ…。』

 ヴィオレッタはエスメリアにお酒を勧めようとした…が、思いとどまってエヴェレットにお伺いを立てた。

「…エルフって…慣習的に、何歳から飲酒OKなんでしょうか?」

「百歳を超えたぐらいですかねぇ…。」

 ヴィオレッタはエスメリアに尋ねた。

『エスメリアさんは何歳ですか?百歳ですか?…お酒は飲めますか?』

 お酒という言葉を聞くと…エスメリアの顔がパッと明るくなった。

『お酒ですかぁ〜〜っ⁉︎わぁっ…人間のお酒、賞味してみたいですっ‼︎父が「噛み酒」を作っておりまして、よく晩酌のお付き合いをしてましたぁ〜〜。大丈夫ですよ、私は百三歳になりましたから。』

 噛み酒とは…唾液で発酵させたお酒である。

 ヴィオレッタは…百三歳なら良いだろうと思って、エスメリアのコップにドルインの地酒を注いだ。エスメリアはそれを一気に飲み干した。それを見て…ヴィオレッタは一瞬、「ヤバいのでは?」と思った。

『ぷはあぁ〜〜っ…凄く美味いっ!良いですね、これ…エグ味がなくて、刺激が少なくまろやかですねっ‼︎…もう一杯、良いですか?』

 ヴィオレッタはもう一杯、お酒を注いだ。そして…気が付いた。

(ん…?二十年前に亡くなった父親の晩酌に付き合ってたってことは…八十三歳から飲んでるってことじゃないかっ!)

 エスメリアはもう一杯も一気飲みして、ケラケラと笑った。


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