三十三章 女子会
「三十章 打ち上げ宴会」において、魔法の説明の中に誤りがあったため修正しました。四精霊魔法に加えて神聖魔法と闇魔法を追加しました。後の物語の展開にも関わってきます。…申し訳ありません。
また、ヒラリーが「サムはウオーターの魔法を獲得するために中級コースで水と風のカップリングを選んだ」という趣旨の発言をしておりますが、ウオーターは初期コースですでに習得可能なので、私の完全な勘違いです。ヒラリーの発言を少し変更いたしました。…申し訳ありません。
三十三章 女子会
ダフネとアナは、オリヴィアを女性専用の宿泊所になっている納屋に案内した。
「わぁぁ〜、藁がいっぱぁ〜〜い!」
オリヴィアは藁の山にフライングボディアタックをした。
「だめだめっ、オリヴィアさん!シーツ敷かないとっ!」
アナの予想通り、オリヴィアの服は藁まみれになった。アナがオリヴィアにくっついた藁を一生懸命払ってくれた。
「あきゃんっ…中にまで藁が入ったぁ〜〜…」
オリヴィアはグレイスからもらったワンピースを脱いで、フレアパンツだけになり、背中に入り込んでいた藁を両手で払った。
「あら…オリヴィアさん、怪我してるの?」
「このくらい、何でもないわよぉ〜〜。」
「だめよぉっ!これ、縫ってるじゃない。せっかく綺麗な肌してるのに…痕が残っちゃうわ!新婚なんでしょっ⁉︎新郎さんのためにも体は大事にしなくちゃっ‼︎」
「そっ…そっかぁ…そうよねっ!」
アナはオリヴィアを藁ベットに寝かせると、縫った傷口に手を乗せた。
「法と秩序の神ウラネリスよ、我らは汝の子にして汝に忠実なる者。恵みの大地、安らぎの風、命もたらす水、養いの火、これ全て神の理にして神の御業…ウラネリスよ、願わくばこの者に慈悲の手を、恩寵の手を、祝福の手を垂れよ。この者をあるべき姿に回帰せしめよ。…降臨せよ、神の回帰の息吹き!」
アナが優しく吐息を吹きかけるとオリヴィアの胸が次第に温かくなり、それに伴って傷口も次第に薄くなり…消えてしまった。残ったのは縫い糸だけだった。
「わきゃあぁぁ〜〜〜っ!凄い、凄いわぁぁ〜〜〜っ、えっと…名前なんだっけ?」
「…アナです。」
「アナッ、クレリックなのね⁉凄いっ!ありがとぉぉ〜〜〜っ‼︎」
オリヴィアはアナに抱きついて、怪力でその体を右に左に振り回した。アナは目を回した。
「あ…危なかったね。もうニ、三日放置してたら完全にふさがちゃって私でもお手上げでした。ピンセット持ってきますね。糸を抜きますね。」
「うんうん…痛くしないでねぇ。そっとよ、そっと…」
二人の会話を聞いていて、ダフネは密かに、ひとり戦々恐々となっていた。
(どうしよう…あたしの体、傷だらけ…。)
イェルマの戦闘訓練でつけた傷だ。イェルメイドにとって傷は勲章だったので、今まで気にしたことがなかった。仲間はみんな普通に体に傷がある。オリヴィアみたいに傷がないのは非常に珍しい。オリヴィアが戦闘の天才であるが故かもしれない。
納屋にジェニが入ってきた。
「ただいまー。」
「おかえり〜。私達は済ましちゃったけど、朝ご飯は?」
「私、どっちかというと、昼夜派なんだよね。後で食べるよ。」
貴族は別として、食事は二回が普通だ。朝夜に食べる人と、昼夜に食べる人がいる。
アナが初対面のオリヴィアを紹介した。
「あ、こちら、オリヴィアさんね。えっと、職種は…」
「オリヴィアですっ!職種は新妻ですっ‼︎」
「…何なの、この人…?」
ダフネが取り繕った。
「…武術家です。昨日、結婚したんだって…あたしもまだよく分かってないんだけど。悪い人じゃないから、仲良くしてやって…。」
「武術家…初めて聞いた…。」
「えええぇ〜〜、それは聞き捨てなりません!武術家の実力を、カンフーマスターの威力をお見せしましょぉ〜〜っ‼︎」
ダフネ、ジェニはスキルの発動を感知した。オリヴィアは騎馬式になって、右手に気を込めた。
「哈ぁぁ〜〜〜っ…」
そして、そばにあった納屋の四角い木の支柱を右掌で思い切り横からぶっ叩いた。
べキッ‼︎
…という音がして、屋根が揺れ大量の埃が落ちてきた。支柱には斜めに亀裂が入っていた。「鉄砂掌」の威力だ。
「ひゃっ‼︎」
「うわっ…すごっ‼︎」
「オリヴィアさん、何やってくれちゃってるんだよぉぉっ!これ、どうするんだよっ‼︎」
「うふふふ。」
「うふふふ…じゃないっ‼︎」
アナとジェニは亀裂の入った柱をまじまじと見ながら言った。
「武器使わずにやったんだ…。」
「これ、どーすんの。怒られるよ…。」
「これが武術家ですっ!」
オリヴィアは得意げだった。
ジェニが思い出した。
「あ…スキルといえば、三つ目…今朝、覚えちゃった。」
「うえっ…まじかぁぁ〜〜!あたしだけ置いてけぼりかぁぁ〜〜‼︎」
「矢の威力を大幅に上昇させるスキル『マグナム』よ。弓の先生が言ってたけど、『マグナム』系統のスキルは選択スキルなんだって。深度が増すごとに選択肢が増えていって、状況に合わせて使い分けることができるらしいわ。深度2と3に、『フルメタルジャケットマグナム』と『ホローポイントマグナム』があって、貫通性能ならフルメタル、足止めならホローポイント…そんな感じ。」
「へぇぇ、上位互換スキルは同系統で一つだけしかないけど、選択スキルってのもあるのかぁ。そういえば、アンネリの『キャットアイ』は同系統で重ねて使える並行スキルって言ってたなぁ…いいなぁ…ずるいなぁ…」
その話を聞いて、アナが言った。
「そういえば、アンネリは?」
「さっきヒラリーさんが話があるって、どっかに連れて行った。」
「私、彼女のことよく知らない…。職種が斥候というのは知ってるけど。」
「アンネリも三つ持ちだよ…あっ、これ言っちゃまずいのか、アンネリに怒られる!」
ダフネは覚えていないが、宴会の時に酔った勢いですでにヒラリーに暴露している。
「ダフネの仲間って、みんなスキル持ちだよね…それも、ふたつとか三つとか!」
「ふっふっふ…わたしは深度2コンプリートですっ!」
オリヴィアが満を持してしゃしゃり出てきた。
「げっ!」
「うそっ!」
(やっぱり出てきた…。)
「深度2コンプかぁ、本当にいるんですね、そんな人。さっきの柱もそうだけど、オリヴィアさんって強いんですね。こんなに美人なのに、全然…見えないわぁ。」
(わっ…この人褒めちゃだめっ!)
「三日前…お義父さんの手下十人を全滅させちゃいましたっ!」
正確には六人。四人はアンネリが倒した。
「お義父さん?どーゆーコト⁉︎」
「あのねぇ…セドリック…新郎のことね。セドリックのお父さん、伯爵様。」
「ああ、さっきギルマスが言ってた貴族ね?」
「なになに?わたし聞いてない。」
ジェニが聞き耳を立てた。
「わたしが張っ倒したんじゃないのよ…二階から落ちただけ。そしたらお義父さんの手下が十人出てきて、あたしが槍を奪って…」
「それはこの際どうでもいいっ!じゃぁ…お義父さんと揉めたんだぁ…。もしかして…駆け落ち⁉︎」
「駆け落ちって…何⁉︎」
世間知らずの貴族娘、ジェニが質問した。
「駆け落ちっていうのはねぇ、結婚に反対された二人が、遠くに逃げることよ!」
「おぉ〜〜〜、信じられない…。」
「お義母様は大賛成なのよ!お義母様の提案で…二人でコッペリ村でシルク工場をはじめるつもりぃ〜〜!」
「そっか!お母さんは賛成だけど、お父さんは反対…とりあえず身を隠してコッペリっていう村でおちあう約束をしたってわけね?やっぱ駆け落ちじゃん。オリヴィアさん、やりますねぇ〜〜っ!」
「…凄い…。」
(ん?…あたしが聞いた話とちょっと…違うような?これが事実なのか?)
ダフネの理解をよそに、話は勝手な方向に進む。
アナが不敵な笑みを浮かべて、核心をついた。
「それでオリヴィアさん…初夜は…もう済んだの?」
「うふふふふ…二人きりになってね…したらね…セドリックの…してね…三回もね…」
「きゃああ〜〜〜っ‼︎」
ジェニがはしたない声を上げた。




