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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百二十五章 召喚術の本

三百二十五章 召喚術の本


 ユグリウシアとマーゴットが帰っていった後、セシルはユグリウシアが残していった本と羊皮紙を拾って整理していた。その時に、羊皮紙の内容を少し読んでみた。

「うっ…全然、読めない。」

 すると、セイラムがやって来て言った。

「それはねぇ…お医者さんの魔法の呪文が書かれてあるんだよぉ。」

 セシルもただのバカではない…この羊皮紙の文字も神代語であることを察した。

「セイラムちゃん…人語の文字は読めないくせに、とっても難しそうな神代語の文字は読めるんだねぇ。で、何て書いてあるの?」

「んとねぇ〜〜、&%@@$#<→>?#%&$@#…」

「ごめん、ママは神代語はわからないの…人語に訳してくれる?」

「んとねぇ〜〜…びと…ん?こうせ…のベネトネリスよ、われらはなん…ん?ちゅうじつなる…ん?じひといやし…ん?…かみのいやし。」

「んん〜〜…なるほど。よく分からん。」

 精霊は魔法陣や呪符にも対応するために、神代語だけでなく神代文字も理解できる。その精霊の要素を持つセイラムは神代文字も読むことができる。

 羊皮紙には神聖魔法の中の初歩段階の治癒魔法の呪文が書かれていた。セイラムひとりでも勉強ができるようにとのユグリウシアの計らいであったが…。

「この本は何かしら?これもセイラムちゃんのお勉強のために、ユグリウシアさんが置いていってくれたものでしょうね…この表題、何て書いてあるの?」

 セイラムが答えた。

「んとねぇ〜〜…せーれーの…しょーかん…じゅつ?」

「ん…精霊の召喚術?…なるほど。光の精霊さんを呼び出す手順というか、方法が書かれているのかぁ〜〜…ああ、やっぱり神代語で書かれてて…読めません。」

 この本はエルフによって編纂されたものだった。光、風、水、地、火の精霊はそれぞれに特徴があるので、呼び出して動かす時、微妙に命令の仕方が違うのである。それをエルフは長年の経験から成功例を分析して、それぞれの精霊で最も効率的な命令方法をつぶさに記したものだ。

 セイラムはその本を読み始めた。すると、リグレットがやって来てセイラムに言った。

「ねえねえ、セイラムゥ…また、さっきのやってぇ〜〜。」

 セイラムは神代語の呪文を唱えた。すると、風の精霊シルフィが集まってきて、せっかくセシルが揃えてテーブルに置いていた羊皮紙を空中に持ち上げて宙を舞った。リグレットはそれを奇声を上げながら追いかけた。そして再び…セイラムは本を読み始めた。

 これを契機にして、セイラムは爆発的な知的成長を遂げることとなる。

 

 ある日の朝、セイラムが目を覚ますと外は雨が降っていた。同じ部屋で寝起きを共にしている護衛のライラックとリグレットはまだ寝ていた。

 横を見ると、セイラムは起きていて召喚術の本を読んでいた。

「あら、セイラムちゃん…寝ないでご本を読んでいたの?」

「うん。」

「最近、セイラムちゃん…ずっとそのご本ばっかり読んでるわねぇ…。」

「…セシルママァ、『核』ってどういう意味ぃ?」

「核…?」

 セシルが覗き込んでみると、セイラムは本の後半の部分を読んでいた。やっぱり全て神代文字だったので、セシルは覗き込むのをやめた。

「えっとねぇ、いろんな物の真ん中にあるヤツよ…。」

「ああ、リンゴの種かっ!」

「いや…それは違うわねぇ。なんて言うか…全体の中心にあって一番大事なもの…?」

「ふうぅ〜〜ん…。」

「なになに?その核をどうするってぇ?」

「あんねぇ〜〜、核で『大精霊』を作るんだって…ここに書いてあるぅ〜〜。」

「…大精霊…何それ?」

「えとねぇ、精霊さんを核にいっぱいいっぱい集めてねぇ、ひとつにするの。そしたらねぇ、大精霊になるの。大精霊はねぇ、色んな魔法を出せるんだってさ。」

「へえぇ…魔道士、要らなくなっちゃうわね。」

 セシルはふと思った。その大精霊とやらを自由自在に操れるとしたら…楽ができそうだな…。

 ライラックとリグレットが起き出したので、セシルとセイラムはお手洗いに行った。セイラムには必要ないが、セシルには必要がある。

 イェルメイドの料理人が朝食を運んできた。今朝はひよこ豆のスープと小麦粉のパンだった。

 最近のセイラムは食欲旺盛になっていた。今朝もセシルのパン半分とスープの中のひよこ豆を全部食べた。

「セイラムちゃん、この頃よく食べるわねぇ…。」

「ご本を読むとねぇ、お腹が空くんだよぉ。」

 朝食の後、部屋に戻るとリグレットがセイラムにおねだりをした。リグレットはセイラムが魔法を使えることを知って、魔法を見せてくれるようにせがむようになった。

「ねえ、セイラムゥ。何かやってぇ〜〜っ!」

「分かったぁ〜〜。水風船を作ってみるよぉ〜〜っ!」

 セイラムはベランダに出て、神代語で水の精霊ウンディーネに命令した。

「&%@#=><〜%##?=$@#!(ウンディーネ、雨を集めて大きな玉を作って!)」

 雨の雫は集まって大きな玉を作ったが…すぐに下に落下してしまって、一階の護衛のアーチャーを驚かせていた。

(…そっかぁ、玉を宙に浮かせておかないといけないからぁ…シルフィも必要なのかぁ…。)

 セイラムはやり直した。

「=&#&>%@@#<>%@#=&&#&>=@〜!(ウンディーネは水の玉を作って、シルフィはそれを落ちないように下から持ち上げて!)」

 すると…ベランダにいるセイラムとリグレットの目の前に巨大な水風船が出現した。

「凄い、凄い、セイラム凄ぉ〜〜いっ!」

 リグレットはパチパチと手を叩いて喜んだ。

 セシルとライラックも呆れた顔をしてその様子を見ていた。

 調子に乗ったセイラムは、シルフィに次の命令をした。

「$@#@@#<=&#&><=#=!(シルフィ、そのままこっちに来て!)」

 巨大な水風船はセイラムの方に移動し、部屋の中へと入ってきた。これはまずいと思ったセシルとライラックが椅子から立ち上がってそれを止めようとしたが…間に合わなかった。

バシャアアァ〜〜…

 部屋の中が水浸しとなった。近くにいて思い切り水しぶきを浴びたセイラムとリグレットは一瞬唖然としたが、ゲラゲラと笑い始めた。

 ずぶ濡れになったセシルとライラックは顔を見合わせた。

「うへぇ〜〜…どうしよう、これ…。」

「とりあえず…風邪を引くといけないから、服を着替えましょう。その後、誰か呼んでお掃除を手伝ってもらいましょう…。」

「…ですね。」

 後で聞いた話しだが、一階の厨房では二階からの大量の雨漏りで少なからずの被害を被ったらしい…。


 水没しかけた左の角部屋から右の角部屋に移動したセシルたちは部屋の中に縄を通して、それに濡れた服を掛けて乾かした。

 セイラムは濡れてしまった召喚術の本と羊皮紙を縄に吊ってじっと見つめていた。

 セシルはセイラムを少したしなめた。

「セイラムちゃん、水の玉をお部屋の中でぶちまけちゃいけませんよ。全部水浸しになって、乾くのにどれだけの時間がかかることやら…」

 セイラムが言った。

「濡れた物を乾かすにはどうしたらいいのぉ?」

「そういうことじゃなくてぇ…」

 すると、ライラックがセシルを制止して言った。

「お日様と風が乾かしてくれるのよ。だから、洗濯物は晴れた日に外に干すでしょう?」

「そっかぁっ!」

 ハッとして、セシルはセイラムに向かって叫んだ。

「部屋の中で『火』はダメよ、『火』はっ…!か…『風』…『風』だけね⁉︎」

「分かったぁ〜〜っ!」

 セイラムは呪文を唱えた。すると、部屋の中だというのに風が吹き始め、干した物をゆらゆらと揺らした。

 ライラックが言った。

「私は剣士だからよく分からないけど、魔法って便利だけど、使い方を誤ると…自滅しそうね。」

「仰る通りですっ!…私がもっとセイラムを見張っていないといけないような気がしてきました…‼︎」

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