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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百二十四章 光の精霊

三百二十四章 光の精霊


 次の日、ユグリウシアとマーゴットは再び鳳凰宮を訪れた。ユグリウシアは一冊の本と数枚の羊皮紙を携えていた。

「セイラム、来ましたよぉ〜〜。」

「ユグリウシアが来たぁ〜〜っ!」

 セイラムはすぐにユグリウシアに飛びついた。さっきまで一緒に遊んでいたリグレットはユグリウシアに自分も飛びついて良いものかどうかちょっとためらっていた。

 セシルがユグリウシアとマーゴットに気づいて挨拶をした。

「ああ、ユグリウシア様、いらっしゃい。」

「セシルさん、お気になさらないでね。私は少しセイラムと遊びますので…。」

 ユグリウシアは床の上に本を開き、羊皮紙を一枚一枚並べて置いた。

 その様子をセシルをはじめ、マーゴット、ライラック、そしてリグレットは興味津々でその様子を見ていた。

「良いですか、セイラム…これから、光の精霊さんを呼ぶ言葉…呪文を教えます。良く学ぶように。」

「はいいっ!」

 ユグリウシアは呪文を唱え始めた。

「%&$@#=@?〜+*><&$…」

 すると、天井から光の精霊が降ってきて、ユグリウシアの周りを飛び交った。

「あっ、来た来たぁ〜〜っ!光の精霊さん、来たぁ〜〜っ‼︎」

 みんなはキョトンとしていた。ユグリウシアとセイラム以外には光の精霊は見えていないからだ。

「それではセイラム…同じように、光の精霊さんを呼んでみて。」

「はぁ〜〜い…光の精霊さん、セイラムの元に集まりなさい!」

 何も起こらなかった。

「あっれえぇ〜〜?光の精霊さん、来ないよ?」

「…?」

「…?」

「…?」

 マーゴット、セシル、ライラックは、なぜセイラムがユグリウシアが教えた文言通りに呪文を唱えないのか不思議に思った。

 ユグリウシアは言った。

「さすが、精霊から生まれた妖精…教えられなくても、『神代語』は理解しているのですねぇ。セイラム、精霊さんたちは人語で命令しても動きませんよ。精霊さんたちは神代語しか分からないですからね…。」

「そっかぁ…じゃ…%&$@#=@?〜+*><&$!」

 光の精霊が降ってきて、その上、ユグリウシアを取り囲んでいた光の精霊たちもセイラムの周りに集まっていった。

「わあっ、来た来たぁ〜〜っ!」

 その様子を見ていたマーゴットは思わず前傾姿勢になり「うっ!」と息を呑んだ。分かる者には分かる…今、まさに、ユグリウシアはこの世界の魔法体系の本質をつまびらかにしたのだから。

 マーゴットは叫んだ。

「神代語…神代語そのものが精霊を動かす呪文なのですね⁉︎精霊は…神代語で命令すれば、その通りに動くよう神に創造されたのですね⁉︎」

「その通りです…精霊は神代語しか理解しません。人語やエルフ語で命令しても動きません。そういう風に神に創られているのです。四精霊を基本にした魔法…マーゴットさんがよく知っている魔法というのはパッケージ化されたもので、人語の呪文でもある程度は精霊を動かせるようにした…『神の祝福』なのです。」

「つ…つまり、呪文と呼ばれる定型文を唱えることによって、パッケージ化された複数の神代語が自動的に精霊に伝えられる…そして、魔法が発動する…」

「はい…。神代語を知らない人間でも精霊たちの恩恵を受けられるようにと、神が世界のシステムに組み込んだのが人語の『魔法の呪文』なのですよ…」

「仮に…もし…私が神代語をマスターすれば、神のようにこの世界を創造することができるということですか…?」

「結論から言うと…できます。しかし、精霊は私たちとは違いますから、神代語で命令しても思ったように動いてはくれません。マーゴットさんには見えていないかもしれませんが、光の精霊に『集まれ』と言う漠然とした命令をしても、すぐそばまで来る精霊、この部屋の隅っこまでしか来ない精霊…まちまちなのですよ。それに、神ですらこの世界を創造するのに何百万年もかかっているのに…人間であるマーゴットさんは何億年、何十億年かかることやら…。神よりもはるかに劣る私たちが神代語で精霊を動かすことは『試行錯誤』なのですよ。私はエンチャントアクセサリーの名人と言われていますが、どれだけの失敗を重ねたことでしょう…。人間の間で話をしても、誤解や勘違い、思い込みはよく起こることでしょう?…それと同じことが術者と精霊の間でも起こるのですよ。」

「むむむむ…!」

 マーゴットは凄い勢いで部屋を飛び出していって…どこからか羽根ペンと羊皮紙を持ってくると、人目も顧みずに床にべったりと張り付いて、今見知った事を書き連ねていった。

 セイラムは自分の周りを飛び交っている光の精霊を捕まえて、口の中に放り込もうとしていた。だが、光の精霊はセイラムの体をすり抜けるだけだった。

「むうぅ〜〜っ…!」

「おやおや、セイラムは光の精霊さんを取り込みたいのですね?」

 すると、セイラムはセシルのところに行って…セシルの手を握った。

「…おお?」

 一瞬、セシルは目眩を感じた。セイラムがセシルの魔力を吸い取ったのだ。

 そして、セイラムが叫んだ。

「@&#&>=<##*&%!(光の精霊さん、おいでおいで!)」

 光の精霊のいくつかがセイラムの体の中に入っていった。セイラムと同化したのだ。

 光の精霊を取り込もうとするセイラムをユグリウシアは方法論としては間違っていないと思った。セイラムは治癒魔法を覚えたいのだ、ならば、光の精霊を取り込むことによって光の精霊との親和性は増し、今後の治癒魔法の習得にはプラスになる。

「セイラム、あんまりママを困らせてはダメですよ。ママの魔力を吸い取るのは一日一回にしなさい。」

「はぁ〜〜い!」

 セシルは、「私、何かされましたぁ?」という顔をしていた。

 再びユグリウシアの魔法の授業が始まった。

「セイラム、今度は風の精霊シルフィに…床の羊皮紙を持ち上げて、と神代語で命令してみて。」

「えええ…風ぇ〜〜?光がいいぃ〜〜…。」

「光、風、水、地、火…精霊にはそれぞれに得意な分野があります。でも、命令の仕方はみな同じです。治癒魔法を覚える前に、神代語の文法構造を少しずつ理解して、上手に精霊を動かせるようになりましょうね?」

「&$@#><=〜@〜&=#=!(風の精霊さん、羊皮紙を持ち上げて!)」

 すると、床の上の羊皮紙が宙に浮かんで、空中でひらひらと舞い踊った。ライラックの膝の上でじっとしていたリグレットは、それを見ると我慢できずに膝から飛び降りて「きゃぁきゃぁ」叫びながら羊皮紙を追いかけた。

 マーゴットが必死でペンで書き込んでいた羊皮紙も宙に浮かんだので、マーゴットは自分の宝物が奪われたかのように驚いて、慌ててその羊皮紙を風の精霊から引ったくった。

 ユグリウシアがマーゴットに言った。

「…こういう事ですよ。精霊は融通が利かないでしょう?」

 セイラムはリグレットが楽しそうに羊皮紙を追いかける様子、マーゴットの慌てた様子、セシルやライラックが目を丸くしている様子を見て…嬉しくなって自分も部屋じゅうをピョンピョンと飛び跳ねた。



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