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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百十四章 セシルと四獣

三百十四章 セシルと四獣


 その日の朝、セシルとセイラムはマーゴットと一緒に北の五段目にいた。そして、目の前には女王がおわす鳳凰宮があった。

「ま…マーゴット様、本当に私も出席するんですか…?」

「おうともさ…さぁ、行くぞ。」

 セシルたちはこれから朝議…朝の「四獣会議」に出席するのである。

 マーゴットが歩を進めると、鳳凰宮の入り口を護っている衛兵のアーチャーが左右に退き一礼した。

 セシルはセイラムの手を引いて、マーゴットにくっ付いて鳳凰宮に入っていった。もちろん…セシルは鳳凰宮に入るのは初めてで、「場違い」を感じて胸の鼓動が早まった。

 マーゴットは目の前の中央階段を無視して右の通路に入った。

「…マーゴット様、階段…ありますよ?」

「ん、登りたくば、登ってみよ…。」

 セシルは階段の一段目に足を踏み込もうとした。

「バカ者っ!その階段はトラップじゃ、そのまま崩れ落ちて奈落の底じゃ…チョロチョロせんで黙って着いて来いっ‼︎」

(登っていいって、言ったのに…。)

 セシルはしゅんとして、黙ってマーゴットの後に従って歩いた。

 三階に到着すると、ボタンの部屋の前にアーチャーのアルテミス師範がいてマーゴットに一礼した。

「皆様、お待ちです。」

 セシルはアルテミスにお辞儀を返して…マーゴットと共にボタンの部屋…会議室に入室した。

 紫檀のテーブルと椅子にはすでにボタン、ライヤ、チェルシーが着席していて、マーゴットがテーブルに着くと、セシルに隣の「五番目の椅子」に座るよう促した。

 五番目の椅子は、最近では「食客」となったアナが座ったのみで、普段は空いている。セシルがこの席に座ることを許されるなど、イェルマに余程の事が起きているのである…。

 マーゴットが皆に一礼して言った。

「遅れて申し訳ありません。先だってお伝えいたしましたように…セシルとセイラムを連れて参りました…。」

 女王…赤鳳元帥のボタンが言った。

「ふむ、では始めるとしよう。議題は…昨日、セイラムが獣人族に言った『予知』についてだ。マーゴット…あなたはこれを『凶兆』と見ているのだな?」

「はい…。しかし、明確な根拠はございません…。」

「とりあえず、思うところを申せ。」

「はい。セイラムは『お日様が頭のてっぺん』と申しました。これは…『時期』でしょうな。太陽が頭の真上に来るのは夏至であります。六月の終わりくらいでしょうか。ですが…『すごく暑い』とも申しております。これを猛暑と考えると、八月とも考えられます。なので、この予知が実現するのは…六月から八月の間、という事になりましょうか。問題は…『ニャンコちゃんたちが一生懸命走って』くるという下りです。獣人族がイェルマに来る時は、例年ならば必ず馬車か牛車を使ってやって来ます。それが自らの足で『一生懸命走って』くるとは…そこには何やら『緊急性』のようなものを感じるのです。獣人族は本気で走れば馬並みの速度で走ることができます。荷台を引く馬車ではなく、己の足で走らないと間に合わない状況…それは何でしょうか…?」

 白虎将軍のライヤが言った。

「何者かがイェルマに侵攻してくる…⁉︎」

「…分かりません。しかし、そう考えると筋が通ります。イェルマと獣人族は軍事同盟条約を結んでおります。敵の侵攻が起こって我々が獣人族に救援要請をすれば、獣人族は東城門を通って、西城門まで全速力でやって来る事になります…。」

 黒亀大臣のチェルシーが言った。

「戦争か…由々しき事態だっ!…兵站を早急に確保せねば…‼︎」

「ただ…この予知には『希望』もございます。セイラムは『また会えるね』と言っております…会えない、ではなく会えるのです。つまり、獣人族の救援は『間に合う』のです…。」

 ボタンが言った。

「ううぅ〜〜ん、微妙だなぁ…。」

 しばらくの間、「四獣会議」は沈黙した。

 ライヤが静寂を破って発言した。

「私は…妖精の『予知』については噂程度にしか聞き及んでおりません。…その妖精のセイラムがイェルマにいるということなど、前日初めて知りました。私はセイラムについて詳しく知りませんので、実のところ…セイラムの『予知』について疑いを持っております。『四獣会議』で議題として検討するほどに重要なのですか?…そんなにセイラムの予知は的中するのですか?」

 それを横で聞いていたセシルは憤慨した。

「セイラムちゃんの予知能力は本物です、百発百中ですっ!…凄いんだからぁ〜〜っ‼︎」

「これっ、セシル!」

 マーゴットに怒られた。

「それを証明するために、お前たちを今日ここに連れて来たのだ…。」

「…え?」

「ここで皆さんにサイコロ遊びを見せておやり。」

「あっ…!」

 セシルはすぐにセイラムにサイコロを出すように促した。サイコロはセイラムのお腹の中にある。

「やあぁ〜〜っ、知らない人がいるからやらないぃ〜〜っ!」

「…うう。」

 すると、マーゴットが腰からもうひとつ…サイコロを取り出した。

「セイラムや、今日はサイコロ二個で遊んでみようじゃないか…二個のサイコロ、当てられるかい?」

 セイラムの目の色が変わった。

「やるやるっ!そのサイコロもちょ〜〜だいっ‼︎」

 マーゴットがセイラムにサイコロを手渡すと、セイラムは口の中からもうひとつを出して両方をセシルに渡した。

 セシルは二個のサイコロを両手で包んで…カラカラと音を鳴らしながら振った。

「何が出るかな、何が出るかな?…♪」

「ひとつと…いつつぅ〜〜っ!」

 果たして、「5」と「1」が出た。

「おおっ…!」

 その場にいたみんなは思わず声を出した。

「じゃ、セイラムちゃん…もう一回ねぇ〜〜…」

「みっつと…むっつぅ〜〜っ!」

カラカラカラ…コロ〜〜ン…

 「3」と「6」が出た。

「おお…偶然ではないのか…‼︎」

 セイラムの奇跡を見て…チェルシーがマーゴットを糾弾した。

「素晴らしい…素晴らしいが、このようなイェルマの運命を左右しかねない妖精を、マーゴット殿は今の今まで魔道士房のみで秘匿していたとは…どういう了見かお聞かせいただこう!」

「それはイェルマのためを思ってのこと…この妖精の存在がイェルマの外に漏れるようなことがあらば、同盟国が黙って見過ごしてはくれまい⁉︎」

 ボタンが中に入った。

「まぁ待て、チェルシー…この事は私も知っていたのだ。まだ『四獣』の間でも公表する時期ではないと判じたのはこの私だ。しかし…獣人族との一件で秘密が秘密で無くなってしまった。こうなったからには…セシルとセイラムの身柄はマーゴットの魔道士房から、『四獣』の預かりとする。マーゴット…良いな?」

「…御意のままに。」

(えええ…私もかぁ〜〜っ⁉︎)

 セシルはそう思ったが、口には出さなかった。

 ボタンは続けた。

「セシルとセイラムに護衛をつけることにしよう。誰か、適任者はいないか?」

 ボタンの言葉に…この場合の「適任者」とはどういう類の兵士だろうと、みんなはしばらく考え込んでいた。

 すると…セシルが挙手した。

「はい、適任者いまぁ〜〜すっ!」

 マーゴットが溜息をついた。それで…代わりにボタンが言った。

「ん…それは誰だ?」

「剣士房のライラックさんです!」


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